めちゃくちゃに絡まっている状態
「二つ話したいことがあるのよ。一つはニコールのこと。もう一つはデグランのこと。まずはニコールのことを話しましょうか」
そう言うと王妃はニコールのことを話しだす。
「ニコールがジョシュの婚約者に決まった時、年頃の令息はみんな、ひっそり悲しみの涙を流したと言われているのよ。それくらい彼女は聡明で、美しく、誰もが憧れるような少女だったの。だからこそ、我が王家に彼女が必要だと思ったの」
確かにヒロインへ嫌がらせをすることで、悪役令嬢になってしまうニコールだけど、それがなければ完璧令嬢だったはずだ。
「王太子であるルパートは、母親の私が言うのもあれですけど、きっと立派な王にいつしかなってくれると思います。ですがせっかく弟のジョシュがいるのです。なにもかもをルパートに背負わせず、ジョシュにも頑張って欲しいと思っていたの」
ヒロインの攻略対象ではないため、ゲームでは名前でしか登場していないルパート王太子。でも彼の成長ぶりや活躍は、ニュースペーパーで頻繁に紹介されていた。
「ただね、ジョシュは子どもっぽいところがあるから……。しっかり者の伴侶が必要だと思っていました。その点、ニコールは理想通りのお嬢さんだったわ」
そこで紅茶を一口飲み、王妃は自身の頬に手を添える。
「ニコールは気質が私に似て、真面目で融通が利かないのよね。困ったことがあれば、すぐに相談してくれればいいのに。ジョシュがセーラ・シスレーという子爵令嬢にうつつを抜かしているなんて。しかも思い悩んだニコールは、彼女に嫌がらせをしてしまったと、つい先日ようやく私に打ち明けてくれたの。遅いわよね、もっと早く相談してくれればいいのに」
そこで王妃が私を見て、ニコリと微笑む。
「わたくしにニコールが打ち明けようと思ったきっかけが、こちらのカフェ『キャンディタフト』であると教えてもらったのよ。店を仕切るナタリー・シルバーストーン伯爵令嬢に悩みを相談し、そこで目が覚めたって、ね、話してくれたの。あの不器用なニコールが心を許したシルバーストーン伯爵令嬢はどんな方なのか、気になるでしょう」
再び紅茶を口運ぶと、王妃はソーサーにカップを置き、まっすぐに私を見た。
「ありがとうございます、シルバーストーン伯爵令嬢。あなたのおかげでニコールを助け、ジョシュにお灸を据えるいい機会ができました。ちゃんと御礼を言えて、よかったわ」
王妃が頭を下げた時、動転した私も頭を下げ「そ、そんな、王妃殿下、恐れ多いです。本当に申し訳ありません」となぜか何度も謝罪して、その場にいたみんなを笑わせることになった。
さらに王妃は、ニコールとジョシュを糸に例え、こんな風に話した。
「二人の糸は、今、めちゃくちゃに絡まっている状態。これを力任せに引っ張ったりしてはいけないと思うの。よって時間をかけ、修復させるつもりよ。セーラという子爵令嬢が現れるまでは、ジョシュはニコールのことを好きだったはずなのだから。もう一度、ニコールのどんなところが好きだったのか、思い出してもらいたい――そう思い、ジョシュとニコールの二人で話す時間を、もうけるつもりよ」
王妃が全てを知っているとなると、ジョシュはもう首根っこを掴まれたも同然。いくらセーラを好きでも、これは相当なプレッシャーだろう。とはいえ、ジョシュがヒロインであるセーラを好きなのは事実であり、ここは乙女ゲームの世界。
王妃が仲介したとして、ニコールとジョシュが元さやに戻るのかというと……。それは分からない。イエール氏の個人授業がどうなっているのか、つまりはセーラが現在、どういう心境なのか。一度確認してみたいと思った。
「ニコールの件はこれでお終いよ。次はデグランの件ね。ねえ、今は貸し切りでしょう。シルバーストーン伯爵令嬢とそちらのお嬢さん………ロゼッタさんもお座りになって、紅茶の一杯でもいかが? ちゃんと御代は払いますわ」
王妃の有難い提案に、「ノー」と答えるわけがない!
それどころかロゼッタは、王妃に名前を呼ばれたことに感動し、失神しそうになっていた。
何はともあれ自分達の分の紅茶、王妃の紅茶のお代わりを用意し、カウンター席に腰をおろす。
王妃と横並びで座るなんて……!
彼女からは上品なローズの香りがしている。
「ではデグランについて話すわ。でもこれ、勝手に話したと彼が知ったら、怒られてしまうかもしれないの。だからこの場にいる私達だけの秘密よ?」














