プロローグ~スタッフ紹介~
常連様は『プロローグ~いろいろなことがありまして~』からどうぞ~
私の名前はナタリー・シルバーストーン。
シルバーストーン伯爵夫妻の次女で、兄と姉が一人ずついる。
伯爵家の令嬢であり、実は私、前世の記憶を持つ転生者なのだ。
私が今、生きているこの世界。
ここは私がハマっていた乙女ゲーム『秘密のラブ・ロマンス』。
交通事故により、オーバーサーティーにて、前世の世界から私は退場した。そしてこの乙女ゲームの世界に、モブとして転生していた。
しかも私が転生することになったナタリーは、ヒロイン・悪役令嬢、攻略対象のメンズの皆さんより、二歳年上。おかげで恋の舞台となる学園生活で、メインキャストの皆様と関わることなく卒業。モブでもメインキャストに巻き込まれることもあると、前世知識で知っていたが、そんなことはない。
メインキャストの皆さんは、美男美女。
そんな彼らと没交渉、最初は残念と思う気持ちもあった。
特に推しとは会いたいと思うものの。
平和が一番だった。
ということで幼い頃にここが乙女ゲームの世界であり、自分がモブであることを悟ると……。モブはモブらしく生きよう。いつかは同じモブ令息とゴールインできると考え、生きることにした。
それにナタリーは、小顔で手足は長く、ちゃんとドレス映えする胸のサイズがあり、ウエストもくびれてくれた。ヒップもきちんと上向いてくれている。普通にメインキャラ狙えるかも……という感じで可愛らしいのだ。モブ令息もみんな、素敵に見える。これならメインキャスト……推しとご縁がなくても無問題!
そう思っていたら!
下男をベッドに無理矢理連れ込み、奥さんにそれがバレ、離婚。私より三十歳年上であり、爵位を金で手に入れたと評される成金男爵から、求婚状が届いた。父親はその支度金に目がくらみ、私にこの縁談話を受け入れるようにと、勧めたのだ。
それは、待ってください、お父様!だった。
私は転生者。貴族の利益優先の結婚観を受け入れることが、どうしてもできない。
そこで結婚せずとも生きて行くために、前世、結婚相談所のコーディネーターの経験を生かせる「恋愛相談カフェ」をオープンさせることにした。
恋愛相談カフェ『キャンディタフト』。
キャンディタフトは、花の名前だ。
砂糖菓子のような可愛らしい花で、花言葉は「初恋の思い出」。
恋愛相談ができるカフェであり、看板メニューはパンケーキ。
恋愛相談の経験は、友人の恋愛相談からスタートし、新卒で結婚相談所のコーディネーターを始め、二十年以上あった。だがカフェ経営なんてしたことがない。いきなり店舗を借り、ゼロからスタートは、リスクが大きいと思った。
そこで考えたのは、街にある一軒のパブリック・ハウス、その名も『ザ シークレット』を日中、間借りすること。
パブリック・ハウスは、前世で言うなら、バーとかパブだ。
そこはビールを中心にした酒類を提供しているが、カウンター席のみで、営業は夜から。完全に紳士淑女の社交場で、夜な夜な酒を片手に会話を楽しむ場となっている。店内は清掃も行き届き、清潔感があり、来る客も貴族ばかり。ただ、残念なことは、日中はお店が閉まっていること。
パブリック・ハウスの中には、ランチタイムから営業を始めているお店もある。そんなパブリック・ハウスで提供されるランチは、サッと食べられるもので、人気があった。でもこの店は、ランチの営業をしていない。日没に合わせ、開店だった。
そこで私は店主であるデグランと交渉した。
私はカフェを開きたいと思った。しかも前世の私の仕事経験を生かし、恋愛相談に応じる「恋愛相談カフェ」を13時から日没前まで、つまりはデグランのパブリック・ハウスの営業が始まるまで、カフェを開けたいと考えたのだ。
『ザ シークレット』がある界隈は、同じようなパブリック・ハウスが集まっている。だがカフェはない。そしてランチをこの辺りで楽しんだ人々が「カフェがあればいいのに」と思っていることもリサーチ済み。ここでカフェを営業すれば、周辺の店と競合することもない。
「へえ、貴族のお嬢さんがカフェを、しかも恋愛相談ができるカフェをやりたいなんて。面白いじゃないか。どうせ日中は閉じている店だ。使ってもらって構わないよ」
デグランは私の提案を快諾してくれた上に、カフェの看板メニューを作ることを勧めてくれた。それだけではない。なんと従業員にもなってくれたのだ!
何を隠そうデグランは、以前は宮廷料理人で、スー・シェフまで上り詰めている。とある出来事をきっかけに宮廷料理人は辞めてしまったが、国王陛下夫妻は彼の復帰を願っていた。デグランの手作りソーセージと、超高級食材である白トリュフの物々交換に応じるぐらい、彼の大ファンだった。
一時、デグランが店を畳み、宮廷料理人に戻ってしまうのでは――そんな不安もあったのだけど。それは杞憂に終わる。その一方で、デグランのルーツが判明した。
デグランは孤児院育ちだった。でも実は彼の両親が公爵夫妻であることが判明! 公爵家の次男となったわけだが。彼は今までの生活を変えるつもりはなく、街で「ザ シークレット」を続けると宣言した。
私としてはデグランと一緒にカフェをできるのは、嬉しくてたまらない。だってデグランは気遣いもでき、料理の腕も一流で、頼れる兄貴であり、同じモブなのだ。
そう、デグランは同じモブ同盟、髪と瞳の色がモブ仕様なのだ。
メインキャストの皆様は、ブロンドや銀髪。でもモブは髪色がブラウン系統。
ということでデグランの髪はアッシュブランで、肩下ぐらいの長さ。その髪はいつも後ろで一本にして結わいている。サーファーみたいな健康的に日焼けした肌で、体格もいい。いつも髪色と同じズボンに、デニムを思わせる風合いのシャツを着ていた。瞳は焦げ茶色で、笑顔が爽やかなナイス・ガイ・モブだった。
そんなデグランに加え、彼の友人であり、画家を目指していたバートン。彼は今、画材屋を営んでおり、恋愛相談カフェ『キャンディタフト』のショップカードを手掛けてくれた。そしてカフェのスイーツをたまに食べられればいいと、お店を手伝ってくれている。
バートンもまたモブなので、髪はオリーブブラウン。癖毛で、耳が隠れるぐらいの長さだ。瞳の色は黒で、眼鏡をかけている。白シャツにモスグリーンの上衣とズボンが定番スタイルだという。その姿は画家というより、知的で優しい本屋のお兄さんという感じだ。
さらにバートンの妹も、カフェをサポートしてくれている。普段は画材屋を手伝っているが、バートンと交代でカフェに顔を出してくれるのだ。
「初めまして、ナタリーお嬢様! 私、バートンの妹のロゼッタといいます。今日はカフェのお手伝いをしつつ、恋愛について勉強してこいと言われ、お邪魔しました!」
明るい笑顔のロゼッタは、現在、十九歳。そろそろ結婚してもいい年齢だったが、恋人はいないという。それどころか一階が画材屋、二階が自宅と、前世でいう毎日家と職場の往復をしている状態。恋愛相談カフェに顔を出せば、恋愛感度が高まるのでは……というのがバートンの目論見らしい。
そんなロゼッタも、当然モブ! 左側で束ねられ、三つ編みにされているその髪の色は、オリーブブラウン。バートンと同じ黒い瞳をしている。いつも明るいワンピースにエプロンで、お店を手伝ってくれる。
私を含めたこの四人が、恋愛相談カフェ『キャンディタフト』のスタッフだ。






















































