【番外編】告白されない問題のBefore→After
休日の昼下がり。
キーオンの大好きなカスタードクリームたっぷりのチェリーパイも用意できている。
彼が好む茶葉で紅茶を淹れるよう、メイドにも命じていた。
テーブルには沢山のお菓子とフルーツ。
完璧よ。問題ない。
新緑を思わせるシトロングリーンのドレスを着た私は深呼吸をする。
「お嬢様、プラウト子爵令息を乗せた馬車が、屋敷の敷地に入られました。間もなくエントランスに到着です!」
屋敷の喫茶室に来たメイドの今の言葉で、私は椅子から立ち上がり、エントランスホールへ向かう。
プラウト子爵令息……ロンデルとは女学校時代に知り合ってから三年。手紙の交換を行い、二人きりで外出もしている。しかも一度や二度ではない。何度も。
でも告白されることもなく、交際について触れることも、ましてや婚約が話題になることもなく、三年間が過ぎてしまった。さすがに不安になり、遂に最近話題の恋愛相談カフェに足を運び、そこで全てを打ち明けた。
店員さんのアドバイスは私が想像しないものばかりだった。
それだけでもう、足を運んだ甲斐があるというもの。さらにいただいたパンケーキもとても美味しくて……。初めて口にしたミタラシというシロップとゴールデンパウダーがとてもよく合う! 生地もしっとりとして……ち、違うわ。そうではなくて!
ともかくこれまで食べたことがないパンケーキを楽しみ、そしてもらったアドバイスに従い、私は動くことにした。
動くといっても告白というのは男性がするもので、女性から告白したなんて知られたら。
「あのご令嬢、お酒で酔っていたのかしら?」
かなり奇人扱いされてしまう。
よって店員さんのアドバイスに従い、ロンデルが告白しやすい雰囲気、会話をする。そうすることにしたのだ。そして――。
「ジュディス、こんにちは」
ピンク色のチューリップの花束を手にしたロンデルが、馬車から降りてきた。
◇
「嬉しいな、ジュディス。僕の好きなチェリーパイを用意してくれて。それにメレンゲ菓子も」
ロンデルは席につくと、私が勧めるままにチェリーパイを食べ、相好を崩していた。
完全にリラックスしてくれている。
私は紅茶を口に運び、店員さんの言葉を思い出す。
「ロンデルはチェリーパイが好きよね。私もチェリーパイが好きよ。あとこれからの季節はピーチタルトもとても美味しいわ。でも……」
ティーカップをソーサーに戻す。
ロンデルが顔をあげ、私を見る。
「一番は……ロンデルかしら? 一緒にいるととても幸せな気分になれる。パイやタルトと違い、食べておしまいではないし」
するとロンデルがぷっと吹き出して笑っている。
後半……ちょっと例えが変だったと思うわ。
でもそれは緊張しているからで……。
笑わなくてもいいのに!
思わず口をとがらせると、ロンデルが「ごめん、ごめん」と口元をナプキンで拭う。
「そういえば僕、ジュディスにちゃんと伝えていなかったね。……なんというか僕達、自然だっただろう? 意気投合して、会話も弾むし、観たいオペラや演劇も一致している。読書もそう。お互いのおススメの本を交換し、読み合ったりしてさ。わざわざ言わなくても分かっているだろうと思っていたけど……」
これはまさに店員さんが言っていた通り!
言わなくても私は分かっていると思ったというパターンだわ!
「それにやっぱり照れ臭いと言うのもあった。改めて言うのは。それにもしも……があったら怖いしね」
……! 店員さんはもしかしてロンデルと話したのかしら!?
これもまた、彼女が言っていた通りだわ。
「もしも……なんて悪いこと、あるわけないじゃない!」
思わずそう言うと、ロンデルは爽やかに笑う。
「そうだよね。では、改めてだな」
なぜかロンデルはそこで椅子から立ち上がったと思ったら、片膝を床につき、跪いた。
その上で、膝にのせていた私の手をそっととった。
急に心臓がドキドキする。
「ジュディス。この三年間を君と過ごして、僕の人生に君は絶対に必要だと思えた。補佐官の仕事にも慣れ、気持ち的にも余裕がようやくできたんだ。だからここはもう、ただ告白だけするつもりはない。君にプロポーズをしたい。……僕と婚約し、結婚して欲しい」
ひゅうっと息を呑み、心臓が止まりそうになる。
まずは告白で正式な交際スタート。
しばらくしたら双方の両親を紹介し、婚約について話す。
そんな流れになると思っていた。
いきなりプロポーズまでしてくれるなんて……!
これだけでも十分、不安に感じていた三年間が報われているのに。
なんとロンデルは着ている濃紺のセットアップの上衣のポケットから、指輪を取り出したのだ!
「ジュディスの瞳のような宝石がないか。ずっと探していた。そして遂に見つけたんだ。マンダリンガーネット。ジュディスにピッタリだと思うんだ」
それは本当に私のアプリコット色の瞳にそっくりな宝石。ゴールドのリングにそのマンダリンガーネットが一粒、美しく飾られている。
「僕のプロポーズ、答えは?」
「イエスに決まっているわ!」
「……よかった!」
輝くような笑顔になったロンデルが、私の指にリングをはめてくれる。
そして私は椅子から立ち上がると、ロンデルの胸に飛び込んだ。






















































