豆腐料理専門店『粋』
「うわぁ~。なんだか舞踏会みたいですよ、ナタリーお嬢様」
「そうね。街のレストランのレセプションに王族が顔を出すなんて異例。そして王族が顔を出すとなると、名だたる貴族も揃うわけで……。公爵家も勢揃いしているし、多くの上流貴族が集結していると思うわ」
阿闍梨の豆腐料理専門店『粋』は、今週末からオープンだった。
それに先駆け、レセプションが行われることになったのだ。
『粋』が入る建物は、サンフォード公爵家が所有する商会が所有している。つまり今回のお店のオープンには、アレン様とその御父上も絡んでいるということ。その結果だろう。レセプションには国王陛下夫妻が来ることが決まり、後はもう名だたる貴族が「ぜひ招待してください。なんならお金も払います!」となったのだ。
その結果、レセプションとは思えない顔ぶれが集まり、届けられたお祝いの花の量も半端ない。建物の一面に花が飾られ、臨時で花屋がそこに店を出しているのかという状態。
国王陛下夫妻の来店にあわせ、レストランのエントランスにはレッドカーペットが敷かれ、そこにニュースペーパーの記者たちは陣取った。
国王陛下夫妻が乗った馬車が登場すると、サンフォード公爵夫妻、アレン様、レネ様、阿闍梨、ボブ、そしてドロシーがお迎えをした。
アレン様は純白の儀礼用の軍服で、ゴールドの装飾品とも相まって、眩しい!
レネ様はパウダーブルーのイブニングドレスで、もう完璧なお姫様!
ドロシーはマリーゴールド色のマーメイドドレスで、とても大人っぽい!
今回ドロシーはお店で使う陶磁器だけではなく、店内の装飾品にも自身の作品を提供している。そのためお店の顔の一人になっていた。
国王陛下夫妻の入店に続き、ロイヤルパープルのドレスを着たニコール、黒のテールコートのジョシュも続き、大変華やか。
王族の入店が終わると、見守っていた貴族も続々中へ入ることになる。
ポートランド公爵ファミリーの姿も見えれば、ニコールの両親たちの姿も見えた。勿論、私の家族の姿もあった。パステルピンクのドレス姿のセーラと黒のテールコート姿のイエール先生もいる。他にもカフェやパブリック・ハウスの常連さん、よく見かけるお客様で、もう沢山、見知った顔ばかり。
「ではそろそろ俺達も入場するか」
濃紺のテールコート姿のデグランは、髪をおろし、いつもよりワイルドなのだけど、上品でもある。それは上質な仕立てのテールコートを着ていることもあるが、姿勢もいつもよりさらによくなり、何より凛としているからだろう。
ローズピンクのドレスを着た私は、デグランがエスコートしてくれる。ミモザ色のドレスのロゼッタは、黒のテールコートのバートンがエスコートだ。今日は残念なことに、ルグスは夜間勤務だった。
店内に入り、驚いたこと。それはこの世界では珍しい、床も壁も天井も、黒で統一されていること! ゴールドを基調にしたド派手な装飾が多い中、これは異例。だがしかし。
壁には掛け軸、浮世絵などが、等間隔に飾られ、それはランプで照らされている。
床に敷かれた、フカフカの彩度を押さえたワイン色の絨毯をゆっくり歩きながら、まるで絵画を鑑賞するかのように、それらを見ることができた。
廊下の突きあたりには、巨大な花瓶に生けられた花。こちらもランプで照らされ、背景の壁の黒さで、花の鮮やかさが引き立つ。使われている花瓶はドロシー作だ。
左手に曲がり、廊下を進むと……。
すごい!
日本庭園が再現されている。
白砂が敷き詰められ、人工池があり、朱色の欄干の橋も架かっていた。
苔むした岩や松など、よくぞ取りそろえたという感じで、多くの招待客がここで足を止めている。
さらに廊下を進み、大部屋に入ると、そこは天井に藤の花……造花が飾れていた。
立食形式でパーティーが行われ、着物姿の店員がドリンクを配り、軽食を提供している。勿論、それは豆腐料理。
料理に舌鼓を打ちつつ、個室が開放される。
個室は、あの日本庭園を見られる部屋から、畳を再現した部屋まであった。国王陛下夫妻が通された貴賓室には、東方から取り寄せた茶道具なども飾られているという。
デグランもロゼッタもバートンも、初めて食べる本格的な豆腐料理に感動し、そして調度品や部屋の作りに驚いていた。
ひとしきり満喫し、私は満腹になっていたが。
「ナタリーお嬢様、デザートにセンベイというものをこれから出すそうですよ。焼き立てと揚げ立て! 食べませんか? 目の前で作るところを見せてくれるそうです!」
ロゼッタは、私と体型はそう変わらないのに。私の倍以上を食べることができる。正直、今の私は満腹だった。
「えー、ナタリーお嬢様、食べないの? じゃあ、デグランは?」
デグランが首を振ると、バートンが犠牲者(?)になり、ロゼッタに連行された。
「デグラン様はいいのですか? ライブキッチンですよ。目の前で作るのを見れるのに」
「あ、それな。実は練習を何度か見せてもらったから。……それよりさ、アジャリ様が特別に用意しているエンガワっていうスペースがあるんだ。そこ、行ってみないか?」
エンガワ? ああ、縁側のことね。
縁側を用意するなんて。なんでまた?
でも縁側に座ってお茶を飲むと和むから。
……懐かしかったのかな。
異邦人という点では、私も阿闍梨も同じ。
阿闍梨の料理、感性に、私は前世を思い出し、郷愁を感じる。
何はともあれ。
どうやら何度かこのお店に足を運んだことがあるらしいデグランに、縁側へ案内してもらった。
お読みいただき、ありがとうございます!
結構前に書き終えていた新作を入稿できたので公開しました!
『周回に登場する中ボス(地味過ぎ!)魔女に転生!
~乙女ゲーなのに恋とは無縁と思いきや!?~』
https://ncode.syosetu.com/n1379jg/
主人公は明るく前向き。
もふもふも登場し、可愛い使い魔もいます。
攻略対象の四人もそれぞれ個性があり、子供からの登場で生意気だけど憎めない!
悪役令嬢やヒロインの動きは!?
そして毎日私を倒しに来る攻略対象たち。
乙女ゲーなのに中ボスだから、恋愛ないのですかー?と思っていたら……!
初日は大量更新。
ぜひ追いかけていただけると嬉しいです!
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よろしくお願いいたします☆彡






















































