誰にも渡したくない
「……でも驚いたな。ナタリーお嬢さん、副団長のところへ行って、ここには来ないと思ったから」
この言葉にはドキッとする。
成り行きでアレン様のいる庭園に行ってしまっていた。
そこに深い意味はない。
でもデグランにとってはそうではないはずだ。
「えーと。手に、ブーケは持っていない。ということは、心配して、来てくれた?」
意外と鋭い!
「心配……そうですね」
「そっか。……でも俺、男だからさ。そう簡単にくたばらないよ。今日もちゃんと、剣も持っているし。それに」
「訂正します。心配もしました。それ以上に……一人は寂しいですよね。同情ではなく。私の気持ちとして、デグラン様を一人にしたくなかったんです。……私でよければそばにいたいって」
デグランは困ったような顔で私に尋ねる。
「それは……副団長を差し置いても、ということ?」
「デグラン様は意地悪ですね。……私はただ、デグラン様とアレン様の三人で夕食をとりたかっただけです。迎えに来ない方がよかったですか」
立ち上がり、地面に置いたランタンを手に取ろうとすると。
「ごめん。嫉妬した。来てくれて、滅茶苦茶嬉しいよ」
腕を掴まれたと思ったら、立ち上がったデグランに、ふわりと抱き寄せられている。
「すごく嬉しかった。泣きそうなぐらい。でもさ、意地張って、平気なフリした。ナタリーお嬢さんの言う通り、寂しかったし、心細かったよ」
いつもは心やすらぐ特等席のデグランの胸の中なのに。
デグランの鼓動が早くて、私もドキドキしていた。
「あー、俺。本当に。ナタリーお嬢さんのことが大好きなんだ。副団長なら仕方ないかと思ったけど。前言撤回。誰にも渡したくない」
そう言ったデグランが不意に私から体をはなした。
驚いて見上げると、両手で私の頬を包み込む。
足元から届くランプの淡い光。
黒っぽく見えるデグランの瞳に、弱い光に照らされた私が映っている。
「はは。そんなじっと見られると、牽制されている?」
「え?」
「目、閉じて、ナタリーお嬢さん」
これにはドキッと心臓が反応する。
それってまさか……キ、キ
「ナタリー嬢、デグラン殿」
アレン様の声に。
私もデグランもギクリ、だったと思う。
「……副団長! お迎え、感謝だ」
デグランはあっという間に私から離れ、アレン様の方へと歩み寄る。
私の心臓はまだバクバク反応したままだ。
デグランとアレン様は何やら話した後、こちらへとやってくる。
「ではデグラン殿と合流もできました。お腹も空いたでしょう? 花祭りではほとんど食べていませんから。行きましょう」
アレン様はランプを地面から持ち上げ、そして私へ手を差し出す。
チラッとデグランを見ると、胸に手を当て、「どうぞ」と示している。
どうやらエスコートはアレン様に譲るようだ。
こうしてアレン様にエスコートされ、丘を下り、馬車へ乗り込んだ。
対面の席にアレン様とデグランが座り、共にニコニコと私を見るから緊張してしまう。
でもその後、アレン様が連れて行ってくれたお店は――。
庭園に人工池があり、そこにランタンが浮かべられているのだ。
室内へと続くテラス席でその景色を眺めながら、花祭りを記念したコース料理を楽しむ。
エディブルフラワーを使った料理の数々。
花が閉じ込められたテリーヌ。花びらが散らされたスープ。生ハムたっぷりのピザには、ハムが隠れるぐらいたっぷりの花がのせられている。デザートもローズ味の、マカロン、チョコレート、アイスが登場。まさに花祭りに相応しい、花尽くしだった。
「うん。人生でこんなに花を食べたのは初めてかもしれない」
デグランの言葉に私も同意する。それを見てアレン様は意外という顔をしている。
「デグラン殿は料理に、エディブルフラワーを使うことも多かったのでは?」
「それは、使っていました。でも見た目を重視される宮廷晩餐会ぐらいでしか使わないですからね。こんなフルコースでがっつり花を食べるなんて、ない、ない、です」
しばらく花に関する話で盛り上がり、食後の紅茶も飲み終わり、帰宅することになる。
すると順番に、家までアレン様が馬車で送ってくれることになった。
食事をしたレストランからアレン様の屋敷が一番近いのに、わざわざ送ってもらうのは申し訳なく思ったが「愛するレディと友のためなのです。お気になさらず」と言ってくれる。デグランを夕食に呼ぶことを提案してくれたことを含め、アレン様は懐が深い!
さらに。
馬車に戻ると、なんとそこには可愛らしいサイズのブーケが三つ用意されていた。
「ナタリー嬢のブーケ。御者に命じ、それを三つに作り直してもらいました。痛んでいた葉や花は除き、まとめてもらったので、ちゃんと手入れすれば持つでしょう」
アレン様は……なんて優しいの!
こうして波乱万丈の花祭りは終った。





















































