なぜ恋人ができないのか?
恋愛相談は、ないかと思ったのに!
驚きながらもアッサムティーをいれながら、話を聞くことにした。
「彼、同じアカデミーに通う同級生で、ウィリアムっていいます。高等学院からの腐れ縁です。彼は伯爵家の次男坊で、騎士志望ではないんですけど、剣術が得意で、運動神経もいいんですよ。それでアカデミーに進学したぐらいだから、勉強もできる。見た目は……悪くはないですよね?」
同じモブ同盟だが、ウィリアムは清潔感もある。着ているフレッシュオレンジ色のセットアップも、その赤髪によく似合っていると思った。ちなみに彼女の方はサンシャインイエローの明るいドレスも、こちらも大変似合っている。
ということで見た目について「素敵だと思いますよ」と答えると、彼女は「ほら、言った通りじゃない」とウィリアムを見る。ウィリアムは……明らかに照れた様子で口をへの字にして壁を見ていた。
「ウィリアムはサンフォード副団長をリスペクトしているから、こんな赤毛じゃなくて、銀髪がよかったって、言うんです。でも、いいですよね、赤毛でも」
私は二人にアッサムティーとミルクを出しながら、悩み相談の意図がいまいちつかめないまま、答えることになる。
「私もお客様のその赤髪は艶もあり、ふわっとしていて、素敵だと思います。ただ、ご本人が気になる髪色があるのでしたら、染色やカツラもありますから。気分によってチェンジしてもいいのではないでしょうか」
とりあえず中立的なアドバイスで様子見だ。
「ウィリアムが銀髪……。どうなのかしら? せっかく綺麗な赤毛なのに」
そう言って彼女は腕を伸ばし、ウィリアムの髪に触れる。
その瞬間、ウィリアムは耳まで赤くなっていた。
……ウィリアムは彼女のことが、とても好きなのね。こんなに照れるなんて。
「どうしてですかね? ウィリアムは、彼女ができないんです」
うん……? 目の前のこの元気そうなご令嬢が、ウィリアムの彼女じゃないんだ!
「私、友達にもウィリアムはおススメよって、紹介するんですよ。でもみんな『悪くはないし、素敵だけど、私の好みとは違う』『縁談話が出ているから、ごめんなさいね』とかなんとかで、結局ずっと彼女がいないんです。親友として、ウィリアムには幸せになって欲しいじゃないですか。なんで恋人できないんですかね、ウィリアムは」
「マリー、別に僕の恋人なんて、どうでもいいだろう? それに僕はただ、ここのパンケーキが美味しいって聞いたけど、男子が一人でパンケーキ食うなんて、格好がつかないだろう? だ、だからマリーを誘っただけだ。恋愛相談なんて、そんな……」
なるほど。なんだかモブ男子学生くんにしたアドバイスを思い出すわね。
そして、こじれている。
ウィリアムはマリーが好き。でもマリーはまったく気が付いていない。
ただウィリアムの分かりやすい反応を見れば、マリーと一緒にいる令嬢は、皆、ウィリアムの気持ちに気が付くだろう。そうなるとマリーから「ねえ、ウィリアムのこと、どう思う? 恋人にいいんじゃない?」と聞かれても、当然、遠慮することになる。だがそうなっている事態に、マリーは気付いていない。
今日、このカフェに来たのは、ウィリアムとしては、マリーと二人で出掛けたかっただけだろう。店は男子が入りにくいお店であれば、どこでも良かったはず。だがウィリアムは、詰めが甘かった。ここは“恋愛相談カフェ”なのだ。マリーはそれに気付いて、私に「ウィリアムは、なぜ恋人ができないのか」という恋愛相談を始めた。
状況はつかめたが、これは頭を抱えたくなる。
なぜなら「ウィリアムは、なぜ恋人ができないのか」の回答は分かっていた。それは「マリーのことを好きだから」だ。答えが分かっているのに、のらりくらりとしたアドバイスをしていいのか。それではまるでアレン様の妹レネ様の時と同じになってしまうのでは? 本心とは別の、上辺だけの回答では意味がない。
――「まさかそんなアドバイスを、ナタリー嬢は本気でしているのか? それが君の本音なのか?」
イエール氏の言葉が頭をよぎる。
本音を隠した上っ面のアドバイスは私にはできない!
「恋人ができない……というのは、客観的に見た場合の意見の一つに思えます。恋人をあえて作らない可能性もありますよね」
私の言葉にウィリアムは、ビクッと体を震わせている。
マリーは「えっ」と驚いた顔をした。そして。
「え、まさか、ウィリアムって、男が好きなの?」
「はぁ!? どうしてそうなるんだよ、マリー!」
本当にどうしてそうなるのかと私も笑いたくなる。
「だって恋人をあえて作らないって言ったら……そうならない?」
「なるかよ!」
「恋人をあえて作らない可能性の一つに、マリーさんが言うこともあるかもしれません。ですが他にも理由はありますよね? 学業に専念したい。意中の相手がいる。それに」
「え、意中の相手!? ウィリアム、そうなの!? 誰か好きな人がいるの!?」
マリーは……ロゼッタの妹みたいだ。
このストレートに思うことをぶちまけてしまうところとか。
「な、マリー、落ち着けよ。そんな掴みかかるなよ。君、本当に男爵家の令嬢か!?」
「もうっ、失礼ね! ご令嬢ですよ! それで、誰なの、ウィリアムの好きな人って!」






















































