同じフィールド
フォークダンスに参加してみて分かったこと。
それは参加者に意外と年配の男性が多いということだった。
彼らは当然、既婚者で、娘がいて、人によっては孫もいた。気軽にダンスするつもりで参加しているから、「よかったらどうぞ」とコスモスのピンズをくれようとする。しかも「受け取っても気にせず、ダンスを続けて構わない」というスタンス。
結果的にそんな父親くらいの年齢の男性や好々爺からピンズを受け取ることになった。私の身に着けているエプロンのポケットには、六つのコスモスのピンズが収まっていた。
その一方で十三歳くらいの少年から「ボクの嫁になってくれますか!」といきなり言われ、目が点だった。パートナーが入れ替わり、挨拶をする場面でいきなりのプロポーズ。さすがにごめんなさいだったが、その少年は隣のロゼッタを前にしても、同じく唐突なプロポーズをして「なーに言っているのよ! まだ早い!」と頭をくしゃくしゃとされていた。
あとは羊飼いをしている青年からピンズを渡されそうになったが、私が「実は貴族なんです。大丈夫ですか?」と告知すると、「え、そうなのですか! む、無理です。我が家は貧乏ですので! ごめんなさい!」となった。
そんな一幕もあったが、ひと段落するまでフォークダンスを楽しむことができた。
ロゼッタはパン屋の青年とダンスの輪を離れたが、どうやら二人は知り合いのよう。「ちょうど踊り疲れたからよかった~」「俺もさ。あっちでお茶でも飲もう」と気軽な会話が聞こえてくる。
ちなみにバートンとデグランとは、ダンスはせずに終わった。なぜならダンスの輪に入る時、係員から「はい、女性の方入って。次、男性の方、入って」というように誘導され、必然的に見知らぬ人とダンススタートだったからだ。
繰り返しの音楽が終了し、フォークダンス第一弾が終了したタイミングで、バートンとデグランを見つけ出し、合流した。
ロゼッタはパン屋の青年と飲み物を一緒に楽しんでいるようだとバートンに伝えると。
「ああ、あいつか。腐れ縁の幼なじみだ。あの二人は男同士みたいなものだから、心配ない」
そう答えたバートンに、オータムフェスティバルの実行委員らしき男性が声を掛ける。どうやらバートンも実行委員の一人だったようだ。
「この後、花火の打ち上げもあるけど、僕は実行委員のみんなと見ることにするよ。どうやら酒席を用意してくれているらしいから」
「分かった」と返事をしたデグランは私と並んで歩き出すと、こんなことを提案した。
「毎年、オータムフェスティバルの花火は、マルセット大橋から見ているんだ。だけどそこは人も多い。そこで提案だ。少し歩くけど、ショーンさんのところに牧草地があって、そこからなら誰にも邪魔されず、しかも座ってゆっくり花火を眺めることができる。どうだろう、そこへ行ってみるか?」
「そうなんですね。私はこのフェスティバル自体が初めてなので、案内いただけるのは光栄です!」
こうしてそのショーンさんの牧草地に向かうことになった。
するとデグランは街のランタン屋でわざわざランタンを購入した。
この世界。
街灯は街中にあるが、少し離れると、民家がなければ、街灯もない。本当に真っ暗だった。
ランタンを手に入れたデグランは、なぜか布を買い、腰に巻く。さらに護身用でアンティークの短剣も手に入れた。
どれも迷うことなく見繕い、手に入れて行く。
いろいろなことに目が利くのだと思えた。
短剣はもしものためだとして、布は? なんのために?
「ここからは防犯の意味を込めて、手をつないでもいいか?」
買い物をしながら歩いていると、既に街外れまで来ていた。
これから向かうであろう道は、かなり離れた間隔で、一応、街灯はあった。街灯と街灯までの距離は遠く、よって暗い。急に獣が出てくるかもしれないし、何があるか分からなかった。通常はこの時間、馬車で通るような道である。
「はい。手をつないでいただけると、安心です。お願いします」
そう答えることになる。
「じゃあ、ごめんな」と遠慮がちに私の手を取るデグランに、不思議な気持ちになる。そんなに恐縮しなくてもいいのに、と。きっとロゼッタだったら、「よーし、手つなぐぞ!」と気兼ねなく声をかけるだろう。
そんなことを最初、思ってしまったが。
ランタンの明かり、夜空に散らばる星空、それだけしか明かりがない中、デグランと二人、歩くことは……。想像以上にドキドキした。
「ナタリーお嬢さんは、コスモスのピンズ、沢山もらえたか?」
私は緊張していたのに。
デグランは砕けた様子で私に尋ねる。
「沢山……という程ではないかもしれないですが、六つほど、いただきました。父親と同じ年ぐらいの男性やおじいちゃんからもらいましたよ。皆さん、せっかくピンズを持っているから、誰かに渡している――そんな感じでした」
「なるほど。ロゼッタも毎年、それでピンズをもらっていたな。……俺のピンズを欲しがらなくても、手に入るのに」
デグランのこの言葉を聞いた私は「まさか」と思うことになる。
まさかロゼッタはデグランのことを好きだったりするのかしら?
それは親友としての友情ではなく、恋愛感情で、デグランに好意を寄せていたりするのかしら?
デグランとロゼッタは仲がいい。
その仲の良さは、「友として」なのか「好きな人として」なのか。
……ロゼッタがデグランをどう思っていようが、それは私に関係のないことだ。何より二人は同じフィールドに立っているのだから。いつだって恋愛できる。
それに対して私は……。平民と貴族。
ううん、なんでこんなことを考えているの、私は。
ロゼッタが恋をしているのなら。応援してあげないと!
「そう言えばナタリーお嬢さんは、両親が持ちこむ縁談話が受け入れがたいものだと言っていただろう。……そんなにひどい相手だったのか?」
「あ……でも、そうですね。最初の縁談話のお相手は、三十歳年上の離婚歴あり。爵位を金で手に入れた成金男爵と言われている方でした。しかも離婚することになった原因も、水面下で囁かれている噂では、下男を無理矢理ベッドに連れ込んだという方で……」
「待ってくれ。ナタリーお嬢さんの両親は、どうしてそんな相手を選んだんだ!?」
驚くデグランに私は、その男爵は支度金として、彼が所有する金山を丸々一つ、進呈すると言ってきたと話す。しかも婚約指輪としてレッドダイヤモンドを用意すると言っていたこと。他にも金貨や絹織物や高級な洋酒など、様々な物を我が家に提供すると言い出したのだと打ち明けることになった。
「……つまり、金や物で娘の縁談相手を決めた……ということなのか」
「そうです。ですがそれは何も珍しいことでありません。貴族同士の結婚なんて、こんな感じです」
こうして私は、この男爵以外にも、生後三か月の赤ん坊との縁談話など、とんでもない話ばかりされていることを明かすことになった。
「なるほど。ナタリーお嬢さんがあのカフェを始め、自立したくなった理由がよく分かったよ」
そこでデグランが立ち止まり「ここから牧草地にはいる」と言って、囲いの木の扉を開け、中に入っていく。そのまま進むと大きな木が見えてきた。どうやらここは小高い丘になっているようだ。木の真下に到着すると、デグランが声をかける。
「さあ、振り返ってごらん。ナタリーお嬢さん」
そこで振り返り「わぁぁぁ」と喜びの声を出すことになる。
少し離れた場所の街を見下ろすことができた。
時計塔のある街の中心部、噴水広場、大通りなど、街灯は勿論、ランタンも飾られているので、とても明るい。まさかこんな夜景を見ることができるなんて!
夜に小高い丘にくることなんてないから、感動してしまう。
「ではこちらへどうぞ」
デグランは腰に海賊のように布を巻いていたが、これのためだったのかしら?
ふわりと広げ、そこに腰をおろすように言ってくれた。
腰をおろしてしばらくすると、「始まったぞ!」というデグランの声に夜空を見る。
一発目の花火が勢いよく打ちあがった。
しばらくは二人で「すごいわ」「勢いがあるな」と花火を見ていたが。
ふと、デグランがこんなことを尋ねた。
「縁談話の相手は、なんだかとんでもない奴ばかりだった。ナタリーお嬢さんは本当のところ、どんな相手がお望みなんだ?」















