まあ、いい男!
こんな雪の日だ。
雪により帰宅難民になったお客さんが来たら、さすがにお酒だけでは可哀想だろう。
そう考えたデグランは、今日はいつものポリシーは撤回。
おからを使った、おからミートボールを作ったのだ!
しかもトマトソースには、数種類のスパイスを加えているので、濃くもあり、エキゾチックな味わい。さらにおからと合わせたのはラム肉。前世でいうならトルコ料理風のおからミートボールに仕上がっていた。一緒に出してくれた黒パンの香ばしさとも、とってもあう!
外を見ると、雪が止む気配はない。
間違いなく、今晩は一晩中、降っていると思う。
屋敷へ一報をいれたいが、この世界にメールもメッセージアプリもないので、こうなると無理だった。
ただ、兄や姉も。父親だって、帰宅難民になっている可能性がある。
アカデミーならそういった場合……というか、有事(戦)に備え、ホールに備蓄があると聞いていた。もしかするとそこで他の生徒達共に、夜を明かすかもしれない。
母親は一人屋敷で、心細い思いをしている可能性があった。明日、屋敷へ帰ったら、ちゃんと謝らないと。
そう。
今日はもう帰れない。明日の朝には雪が止むだろう。一斉に雪かきも始まり、そこでようやく馬車も走れるようになるはず。そんなことを思っていた矢先。
カラン、コロンの音に驚いて振り返る。
丁度、ミートボールを食べ終え、紅茶で作ったティーワインを飲んでいるところだった。ティーアーンの紅茶が余っていたので、デグランが作ってくれたカクテルだ。
飛び込むように店内に入って来たのは、共にブラウンの髪に焦げ茶色の瞳のマダム二人組。
カフェでは見たことがなかった。
「も~、この雪、参ったわ! 観劇を終えたら雪で、馬車は動かないのよ。仕方ないからレストランへ行こうとしたら、どこも満席! こうなったらパブリック・ハウスに逃げ込むしかないと思ったら。結構閉まっているじゃない? 本当に凍え死ぬかと思ったわ!」
マダム二人組は、毛皮のコートを着ているが、震えが止まらない。
「それは難儀でしたね。ここでは帰宅難民ウェルカムですから、どうぞ」
デグランが爽やかに微笑むと、マダム二人組は「「まあ、いい男!」」と喜んでいる。
どうやら初めてのお客さんのようだ。
すぐに暖炉のそばへ案内し、デグランは部屋から毛布をとってくる。
徒歩でここまで来たというマダムの足元は、びしょびしょだった。
木箱を椅子代わりに座ってもらい、はいている靴は脱がせ、暖炉の近くに立てかける。
デグランが毛布を持ってきて、マダム二人は毛皮のコートを脱ぐ。
コートを私は受け取り、フックにかける。
二人のマダムは毛布にくるまり、暖炉の前で震えていた。
デグランは温めた紅茶でウィスキー割りを作り、マダム二人に渡す。
さらにおからのミートボールがあるとデグランが話すと、二人はレストランに入れなかったのだ。お腹はペコペコだったので「食べたい!」となる。
デグランがおからのミートボールを用意している間に、私はタオルをとってきて、マダム二人に渡した。二人はそれで足をふき、紅茶のウィスキー割りを口に運ぶ。
「だいぶ、温まったわ」
「ええ、温まってきたわ。ありがとうございます。なんて親切なお店かしら」
感動するマダムにスリッパを渡す。二人はスリッパを履き、毛布にくるまったまま、スツールの方へ移動する。そこでデグランがアツアツのおからミートボールと黒パンを出す。
軽くおからについてデグランが説明すると「まあ! もしかして、それ、今流行りの東方フーズ?」とマダムの感触はいい。聞くと二人は、流行り物好きで、特に食べ歩きが大好きなのだという。
「近々王都のど真ん中に、東方料理の専門店がオープンするそうよ。本店は王都のはずれにあるそうなのだけど、貴族の皆さんが『遠い!』と言って。サンフォード公爵が所有する建物に、新しくお店をオープンされるそうよ」
赤いドレスのマダムが教えてくれた。
これを聞いた私とデグランは顔を見合わせる。間違いなく、それは阿闍梨のお店だ。
どうやら阿闍梨もまた、サプライズ好きなのでは?
オープン日が近づいたら、「実は」と私達を驚かそうとしている気がしてならない!
というかそんな一等地にお店ができるなら、ここからも近い。
毎日生おからや豆腐を仕入れることができるのでは!?
デグランもそれを想像したのだろう。
私を見て「生オカラかトウフ入りのパンケーキ、作れそうだな」とウィンクする。
「なんて美味しいのかしら! オリエンタルな味がするわ。スパイシーで癖になる。私、もうウィスキー飲み終わっちゃたわ。赤ワインが欲しいわね」
おからミートボールを食べた黄色のドレスのマダムが、デグランを見上げる。
「では彼女も飲んでいるティーワインはいかがですか? ホットにもできるので、体が冷えませんよ」
デグランの言葉に、私はカウンターテーブルに置かれたティーワインを示す。
「まあ、ワインを紅茶で割るの? 飲んでみたいわ。このお店は、珍しいメニューが多いのね」
赤いドレスのマダムも同じものを飲みたいとなり、デグランはティーワインを作り始める。
まずはティーアーンの紅茶を温め、そこに蜂蜜やスライスした林檎を加える。ひと煮立ちする直前にマグカップに紅茶を入れ、そこに赤ワインを加えた。
私はホットではなかったので、オレンジジュースで割ったものだった。温かいティーワインも美味しそうと思ったら、デグランがチラッと私を見て微笑む。
「お待たせしました」
デグランは、マダム二人と私の分のティーワインを、テーブルに置いてくれた。






















































