表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/372

しかし不思議だな。

 イエール氏は何を言うのだろう。

 そう思ったら……。


「初恋が壊れるより、美しい思い出のままがいい? 駆け落ちしたってどうせ上手くいかない? 愛のない政略結婚をする。結婚後、旦那は女遊びを続けても、子供ができればなんとかなる――まさかそんなアドバイスを、ナタリー嬢は本気でしているのか? それが君の本音なのか?」


 これはもうぐうの音も出ない。

 なぜならこれが最善だとは、私はこれぽっちも思っていないのだから。


「それは……」

「違うのだろう?」

「!」


 ズバリの指摘に私は黙り込む。

 イエール氏は紅茶を口に運び、一口飲むと、話を再開させた。


「ナタリー嬢、君とは出会ってまだ日が浅いし、深い会話を交わしたわけではない。それでも私は君の働きぶりと、接客態度を毎日見てきた。これまで沢山の恋愛相談に乗っている。その時のアドバイスは、実に論理的で納得のいくものだった。人間の感情という不確かなものを扱いながらも、一理ありと思わせるもの」


 そこで一息ついたイエール氏は厳しい顔つきになる。


「だが、今のアドバイスはなんだ! ナタリー嬢。全然君らしくない。本音を隠し、当たり障りのないことばかり、並べていると思う。いつもの君がするアドバイスとは、全く違う」


 これは図星なので、何も言えない。


「ナタリー嬢、君がこちらの令嬢と同じ立場だったら、初恋を思い出に、愛のない結婚をするのかね? 甲斐性のない、しょうもない旦那の浮気を許し、その男の子どもを生むつもりなのか?」


「イエール先生、そう責めないでください。きっとナタリーお嬢さんにも、事情があるのでしょう。……ナタリーお嬢さん、こちらの令嬢へのアドバイスとしてではなく、君の本音を話してみるのはどうだろう?」


 デグランがイエール氏に「待った」をかけ、私が弁明できるようにしてくれた。

 もうこの騎士のようなデグランの行動には、感動してしまう。

 そうなのだ。

 アドバイスとして話すことはできない。でも本音としてなら、いくらでも話せると思った。


「ありがとうございます、デグラン様。イエール先生、そしてご令嬢。今から話すことは、アドバイスではなく、私自身の話です。よって参考には、まったくならないかもしれません。それでもよろしいでしょうか?」


 令嬢はこくりと頷き、イエール氏は「ああ、それこそ望むところだよ」と笑顔になる。

 そういえばイエール氏は、ここへ来たばかりの時は、頬がこけていた。

 でも今は頬の窪みがなくなり、顔つきが柔和になった。

 ひょろっと痩せ過ぎて、怖い印象もあったのに。でも顔つきが変わったせいで、キツイ言葉を言われたはずだが、私はそこまで傷ついていなかった。むしろ――指摘してもらえて良かった、と感じている。


「実は私、伯爵家の令嬢です。年齢は二十なので当然ですが、縁談話が出ています。ですが両親が持って来る縁談相手は、すべて家同士の利益につながるか、政治的にうまみがあるか、そんな基準で選ばれた相手ばかりです。とても『分かりました』と首を縦にふることができません」


 この話を誰かにするのは、初めてのこと。

 デグランは勿論、バートンも驚いた表情で、私の話を聞いている。

 令嬢はパンケーキを食べ、紅茶を飲み、おっとりとした顔のまま話を聞き続けていた。

 イエール氏は紅茶を飲みつつ、表情を変えることなく、話を聞いている。


「持ち込まれた縁談話を断り続ける――そんなことを繰り返していれば、いずれ私は、両親から勘当されるかもしれない。そうなった時、一人でも生きて行けるように。少しずつでもお金を稼ぐ方法を手に入れたいと思い、このカフェを始めたのです。つまり私は、政略結婚をするつもりはありません。そうなるぐらいなら、親に勘当されても、一人で生きて行く覚悟をしたのです」


 遂に全てを話してしまったと思うが、後悔はない。むしろスッキリしていた。

 すると突然、拍手が聞こえ、驚いてしまう。

 しかも拍手をしているのは、イエール氏だ。


「素晴らしい。満点だ。これぞ、ナタリー嬢だな。君らしい行動力だ。これは誰もが真似できることではない。よってその行動は、参考にはできないだろう。同じように何か事業を始め、成功する保証はない。だがその思考方法は、間違っていない。役立つだろう。精神的に自立する。自分は、自分の意志でここに立っている。それを自覚できているか、できていないかで、世界は大きく変わる」


「自分の中で軸となる考えがあり、そこがぶれなければ、自身の周囲で起きる出来事に、翻弄されないで済む――ということですか?」


 デグランが問いかけると、「そうだ」とイエール氏は頷く。


「ぶれずに生きることは、難しいだろう。だがそれができれば、無駄に感情に流されず、冷静に対処できるはずだ。ある哲学者はこう説いている。『人は抵抗することで、主体性を取り戻すことができる。その自我の意識が、幸福につながる』と。どうだろう、ご令嬢、伝わっただろうか?」


 おっとりした表情のまま、パンケーキを食べ終えた令嬢は、ナプキンで丁寧に口元を拭いていた。この令嬢に、今のイエール氏の言葉、伝わったのかと思ったら……。


「このパンケーキ、大変美味しかったです。……まるで王宮で開催されるお茶会で出されるレベルでした。ごちそうさまです」


 そう言ってデグランに微笑んだ。


「ただこれは、伝統的なパンケーキとは異なります。きっとこのパンケーキを考案されたのは……ナタリーさん、いえ、シルバーストーン伯爵令嬢、あなたなのでしょうね。さすがですね、このカフェを自ら経営しようと考えられただけありますわ」


 驚いた。ナタリーという名前と伯爵家という情報だけで、私がシルバーストーン伯爵家の人間だと分かるなんて! 高位貴族は、多くの貴族の名前をインプットしていると聞いたことがある。それだけの社交能力が求められるからだ。そうだとしても、十五歳なのに! それに数が少ない公爵家とは違う。伯爵家の数は、それなりにある。さらに嫡男長女でもなく、次女の私のことまで、覚えているなんて。しかもこんなにおっとりとしているのに。すごいわ。


「イエール先生の言う哲学者が、どなたかは分からないですが、いい言葉だと思いますわ。まさにシルバーストーン伯爵令嬢の生き方を、表現しているようですもの。わたくしなりに、学ぶことができたと思いますわ」


 そう言うと令嬢は、私とイエール氏に、順番に優雅に頭を下げる。

 咄嗟に私はカウンターの中でカーテシーをして、イエール氏は自身の胸に手を添え、お辞儀をした。


「そしてわたくし、こちらのカフェへ来て、心底良かったと思いました。皆様の話を自分なりにじっくり考え、今後の行動にいかしていきたいと思います。残念ながら今日はもう、帰らなくてはならないのですが、また遊びに来てもいいかしら?」


 そう言いながら令嬢がスツールから立つと、カランコロンと音がして、向かいの店にいた二人の護衛騎士と侍女が店内に入ってきた。


「もちろんです。お気に召していただけたなら、光栄です」


 すると令嬢は「ふふ。ありがとうございます」と微笑み、侍女に声をかけた。

 そしてカチンと音がして、カウンターに置かれたのは、これまた金貨!


「わたくし、普段、あまりお金を持ち歩かないの。スリが怖いでしょう。ですからこれでしばらく、よろしいかしら?」


 つまりイエール氏と同じ。先払いしておくから、これで保つ間はよろしくね、ということだ。


「も、勿論です! ぜひまたいらしてください」


「ええ、気に入りましたから。今度はお友達やお兄様も連れてきますわ」


「はい! お待ちしています!」


 令嬢は完璧なカーテシーをして、前後を護衛騎士に守られ、侍女と並んで店から出て行った。


「ナタリーお嬢さん、おめでとう! 常連さんができましたね」


 バートンがカウンターから出て来て、空になったお皿を片付けながらウィンクする。

 本当に。

 常連さんがつくことはありがたい!


 彼女が常連さんになってくれたのは、彼のおかげでもある。

 そこで私はイエール氏に御礼の言葉を伝えた。


「イエール先生、私が間違った道を進みそうになったところ、ストップをかけてくださり、ありがとうございます」


「まあ、そこの功績は私だろう。だが君に本音を話すように告げたのは、彼だ」


 イエール氏の目線が、バートンから受け取ったお皿を洗うデグランに向けられる。


 確かにそうだ。

 デグランが、アドバイスとしてではなく、本音を話すよう、すすめてくれたのだ。


「彼は……本当にただの調理スタッフなのか? 洞察力が優れているし、場の状況の見極めも完璧だ。なんというか大勢を従え、指示を出せる立場で仕事をしていた人間に思えるが」


「イエール先生は、すっかり人間観察ができるようになりましたね」


「! そうだな。このカフェに来るようになってから、ナタリー嬢のことは勿論、あのデグランくんのことも、バートンくんのことも。ロゼッタ嬢のことも。どんな人間なのか、知りたいと思えるようになった。……不思議と屋敷で何かと私にまとわりつく爺やのことも……最近は気になる」


 あれだけ他者に関心はないと言っていたのに。


「しかし不思議だな。私などより他者への関心がナタリー嬢は強いはずなのに。デグランくんに対して知らんぷりとは」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一番星キラリの作品を紹介】
作品数が多いため、最新作を中心にバナーを並べています(2025年12月の大掃除で・笑)。 バナーがない作品は、作者マイページタイトルで検索でご覧くださいませ☆彡

●紙書籍&電子のコミカライズ化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~
『悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~ 』

●これぞ究極のざまぁ!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は死ぬことにした
250万PV突破『悪役令嬢は死ぬことにした』

●出版社特設サイトはコチラ●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!
80ページが試し読みできる特設サイトへ
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!』


●溺愛は求めていませんよ?●
バナークリックORタップで目次ページ
平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!
『平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!』

●壮大なざまぁを仕掛けます!●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』

●章ごとに読み切り!●
バナークリックORタップで目次ページ
ドアマット悪役令嬢~ドン底まで落ちたらハピエンでした!~
『ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~』

●商業化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢はやられる前にやることにした
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』

●もふもふも登場!●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で自ら婚約破棄シリーズ
『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』
日間恋愛異世界転ランキング3位!

●コミカライズ化も決定●
バナークリックORタップで書報ページへ
断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない
ノベライズは発売中!電子書籍限定書き下ろし付き
『断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない』


●心温まる物語●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は我が道を行く~婚約破棄と断罪回避は成功です~
『悪役令嬢は我が道を行く~婚約破棄と断罪回避は成功です~』は勿論ハッピーエンド!

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ