ざまぁ……?
ソファで待つデグランの所へ向かうと。
「あ」と言ったまま、デグランが固まった。
何か、変だったかしら?
出来るメイドの方々が、完璧にしてくれたと思う。
でも……あれかしら。
スノーホワイトという色は、膨張色でもある。
少し……太ったかしら、私?
「ご、ごめん、すまない。えーと、今、言葉を失ったのは、悪い意味ではないから」
デグランは、私が困惑した顔に気づいたようで、慌ててフォローしてくれる。
「そのドレス。すごくナタリーお嬢さんに、似合っているよ。なんというか……うーん、俺、ドレスに対する誉め言葉が浮かばない。でも……そう、清楚だ。とても清らかに見える! そして……なんだか……ウェディングドレスみたいだ」
これには一瞬、ぽかーんとして、笑ってしまう。
確かに色が白いから、ウェディングドレスみたいと言えば、そうかもしれない。
でもベールもティアラもつけていないし、白のグローブもつけていない。
それにブーケも持っていないければ、こんな鮮やかな色のウエストリボンは、つけないと思う。
「あー、ごめん。うまく褒められず」
「いえ、大丈夫です。清楚で清らか。そう言っていただけて、とても嬉しいです」
「エスコートするの、緊張するな」
「ドレスが変わっても、中身はいつもの私ですよ」
この言葉にデグランはフッと微笑み、「その通りだ」と笑い、私のそばに歩み寄る。
「では、戻ろうか」
「はい」
一時間くらい、時間は経っただろうか。
まだパーティーは続いていると思うが、終わりは近いだろう。
王家主催の私的なパーティーだ。
舞踏会とは違う。夜まで続くはずがない。
そこで気が付く。
デグランは、パーティーに最初から顔を出していたわけではない気がした。
きっとギリギリまで厨房に立っていたと思う。目途が立ったところで、慌てて着替え、会場へ向かったのではないか。そうなると、パーティーを楽しむことなく、私に付き合い、かつての自室に向かったのでは?
「デグラン様、ごめんなさい」
「? なんだ、ナタリーお嬢さん、藪から棒に」
「私のせいで、パーティーを全然、楽しめていないのでは?」
「そんなことないさ。ナタリーお嬢さんの、その素敵なドレスを見ることができた。それにアジャリ様の教えを元に作った料理の数々。その反響も、見ることができた。みんな、美味しいと言ってくれている。肉好き貴族のみんなが、ミソソースで食べる野菜スティックを、喜んで食べる姿。それも目の当たりにできたんだ。大満足だよ」
でもそれは、宮廷料理人の時と、変わらないのではないか。
晩餐会でも舞踏会でも。
料理を提供した後、様子を見ることは、していそうだ。
「それに事前に、第二王子殿下とマルティネス侯爵令嬢にも、挨拶は済ませていたからな。あとは……そうか。ダンス。パーティーなんだからな。会場に戻ったら、俺とダンスしてくれるか、ナタリーお嬢さん! それで俺は満足だよ」
「ええ、それは勿論」
私とのダンスで満足、だなんて。
デグランは、もっと我が儘になってもいいのに!
「しかしあのウッドハウス侯爵令嬢は、滑稽だな。言いたいことをぶちまけるが、ことごとく返り討ちにあっている。店ではシスレー子爵令嬢が、瞬殺してくれた。ここでは兄さんとマルティネス侯爵令嬢、それに王妃に撃沈されただろう? もう、再起不能だろうな。口は災いの元だと、学習するといいな」
「せっかくのお料理が、ダメになっちゃいましたね。宮廷料理人の皆さんがせっかく作ったものなのに。悔しいです」
「まあまあ、仕方ないさ。普通にしていても、料理を落とす人はいるのだから。勿体ないな、残念だな、とは思うが、どうにもならない」
デグランは優しい。
「それよりあの場で、ナタリーお嬢さんが俺の盾になろうとしているのを見て、驚いたよ。カフェでもいち早く、応じようとしただろう? なんか俺、ナタリーお嬢さんに守られている気がする。本当は俺が守らないと、なのに」
「そんな。盾、だなんて。ただ、ウッドハウス侯爵令嬢は、人として許せない!と思ってしまったので。でもみんなが『ざまぁ』してくれたので、溜飲が下がりました」
「ざまぁ……?」
「何でもないです」と笑うと、会場の扉が見え、警備兵がチラッとこちらを見た。
よく見るとその警備兵、微笑んでいる……?
扉から中に入ると、皆が一斉にこちらを見て、そして国王陛下夫妻が立ち上がった。
「英雄の帰還だ。パーティーで出した料理にケチをつけた、ウッドハウス侯爵令嬢。彼女に毅然とした態度をとってくれたシルバーストーン伯爵令嬢に、拍手を。そしてこのパーティーで提供された、素晴らしい料理の数々。アジャリという渡来人に教えを請い、考案してくれたのは、ポートランド公爵の次男、デグランだ。彼にも惜しみない拍手を」
国王陛下により、なんだか私とデグランは、英雄扱いになっている!
真の英雄は、デグランの兄であるレナードとマルティネス侯爵令嬢、それに王妃なのに!
「最初に立ち向かったのは、ナタリーお嬢さんだ。それに国王陛下はこうやって俺のことを、ポートランド公爵家の一員だと、皆にお披露目してくれたんだと思う」
なるほど! ならばここは大人しく、拍手に応えよう。
「どうだろう? 今日の英雄の二人は、ダンスがお好きかな?」
国王陛下の言葉に、デグランと私は顔を見合わせ、頷く。そして元気よく「はい!」と答えた。






















































