第4話 忘れた事
〈結城唯音〉
結局、立花くんは電車に私が乗るまで見送ってくれた。
すぅー………………優しすぎない?!
私は取り敢えず電車内の空いていた座席で、うずくまった。顔が真っ赤だったから、しっかりと鞄で顔を隠しながら。
何であんなに慣れてるのぉぉぉぉぉぉ!
サラッと手を繋いできたんですけど!
更にその後の、あのシュンとした顔は反則だって! 急に自信失くすのはほんとに! ギャップ萌えを理解したわ、私。
多分これだわ。
はぁ〜…………女子が騒ぐのも分からなくもない。
可愛いやらカッコいいやら……疲れたよ。
「あ、光里ちゃんに連絡しとかないと……」
私はスマホを取り出して、連絡アプリを開き、文面を打ち込んだ。
『(唯音) 光里ちゃん!』
『(唯音) 私、立花くんと付き合えたよ!』
『(光里) 良かったじゃん』
『(光里) こっちは結構焦れてたからね〜』
『(光里) やっと開放されるわ〜』
『(唯音) ?』
『(光里) こっちの話〜』
『(光里) で、立花とは連絡先、交換したの?』
『(唯音) あ、忘れた……』
『(光里) バカ……明日交換しなさいよ?』
『(唯音) は〜い…………』
そうだった。すっかり忘れてた。
付き合ってるのに、連絡先すら知らないのはマズい。明日聞こう。
それにしても、立花くんは慣れてるのかなぁ……。サラッと手を繋いできたし、とっても目を合わせてきたし…………なんてイケメンなんでしょう。
そんなこんなで、顔を真っ赤にしながら家に帰った。
「ただいま〜」
「姉ちゃん、おかえり〜」
私が家に入ると、弟の昂喜がドアを開けて出て来た。
「なにニヤついてんの? おか〜さ〜ん! 姉ちゃんがキモ〜い」
「はぁ? キモいって……」
「あらあら、ほんとに笑ってるわ。さては、彼氏が出来たね?」
「違っ……そんなんじゃ!」
「ハイハイ、そうなのね。どんな子?」
「もう! 荷物置いてくるね!」
「「は〜い」」
お母さんまで出て来た。
まさかここまで早くバレるとは……。
そんなに顔に出やすいかなぁ? キモいってなんだ、キモいって!
私は階段を登って、自分の部屋に鞄を置いて、制服から部屋着に着替えた。
そして、一階に降りると、ニタニタ顔のお母さんが待ち受けていた。
「さ〜て、聞かせてもらおうじゃあないの」
「えと、ちょっとよく分からな…………」
「拒否権は無い!」
「えぇぇ〜!」
はぐらかそうと思っても逃げられなかった……。
「ふんふん、それでそれで〜?」
「もう、許してください……」
「ま、良いわ。これぐらいで勘弁してあげる」
「おかしい……何故私が勘弁されてるの……」
いつもより数段も顔の血行が良くなったお母さんは、そう言ってリビングから出て行った。
さっきまで、ご飯を食べながら尋問されていた。
この状況で、不幸中の幸いだったのは、昂喜がもう部屋に戻っていたこと。
小学4年生の男子にはまだ早い!
と、思っていた私は1人リビングで安堵の息を吐いた。
〈梓光里〉
「ふぅ〜、やっとかよ」
親友からの連絡を見て、私は自室で溜息をした。
本当にここまで長かった。
私は、廊下で唯音と立花の目が合って、2人共目をすぐに反らしたのを目撃したのが、約1ヶ月前のことだった。
それを目撃した瞬間、その立花の友達である近衛翔とアイコンタクトを交わし、その後、速攻で連絡先を交換した。
すぐに両想いだな、と勘付いた私と近衛は、どうやってくっつけるのか、策を練り出した。
そして、その様々な策を弄した結果、これだよ。
散々、色々とやってきたのに、最終的には自分が思わず出した言葉で決まんのか……。私の努力は?
な〜んて言ったところで、付き合うことになったのなら重畳というのは変わらない。精々幸せになりやがれください。
『(光里) お〜い、立花から聞いたか?』
取り敢えず、私は近衛に連絡してみた。
『(かける) おう、来たぞ』
『(かける) やっとだな』
意外にも返信が早かった。おそらく、立花と話し合っていたのだろう、スマホで。
『(光里) 長かったけど、最後がこれっていうのはな……』
『(かける) 上手くいったなら、結果オーライだろ?』
『(光里) まあね』
『(光里) それから、立花にはしっかりと言っとけよ』
『(光里) 唯音泣かしたら殺すって』
『(かける) まあ伝えとくよ』
そこで会話は終わった。元々、私たちはそこまで必要以上に会話はしない。
お互いが好みじゃないっていうのもあるだろうな。
正直、それが1番やりやすいから良いけどね。
私は外に目を向けて、微笑んだ。
外には、親友の恋が実ったことを祝うように輝く満月があった。