第2話 初彼氏
〈結城唯音の振り返り〉
「あぁ……」
「どうしたの? 恋に恋してんの?」
私、こと結城唯音が絶賛片想い中の相手、立花匠真くんの後ろ姿を見つめながら声を洩らすと、私の1番の親友である梓光里ちゃんが笑いながらからかってきた。
ひどいと思う。私は真剣に悩んでいるのに……。という旨を正直に私は言うことにした。
「光里ちゃん、ひどいよ。恋はしてるけど、私、結構しっかり悩んでるんだよ!」
「うん、知ってる〜。でも、あんたが頑張んなきゃ、どうにもなんないんだよ?」
「う〜、分かってるよ〜」
ガチの正論で返されてしまった。私にとって、耳が痛い話だった。でもなぁ……あんまり接点がないしな。今更話しかけに行っても何か変な感じに取られちゃうしな……。どうすればいいの?!
ということで、光里ちゃんに聞いてみることにした。
「光里ちゃ〜ん……どうすればいいと思う?」
「自分で考えな、と言いたいところだけど、取り敢えず今日は私に付き合ってもらうよ。話はそれから」
涙目で私が光里ちゃんに縋ると、珍しく光里ちゃんから頼み事だった。珍しい。中々無いんだよね、自分の要望を光里ちゃんが出すの。
だからちょ〜っと嬉しかったりした。スマホ触ってたところが気になったけど。うちの学校はスマホ禁止だよ。
そして私は放課後に光里ちゃんに連れられるまま、カフェ“キャメル”に来た。
店員さんにびっくりするぐらい顔が良い人がいたけど、まあ立花くんの方がカッコいいかな。
恋は盲目? 気にしない気にしない。多分この気持ちは一生変わらないから。
光里ちゃんはいっぱいだった店内を見渡して、ギリギリ1つだけ空いていた4人がけのテーブル席に座った。
私が光里ちゃんの真正面に座ろうとすると、光里ちゃんが、
「あんたはこっち」
と自分の隣の席へと誘導した。なんで? と思っていると、誰か入ってきた。
1人目は何やら女慣れしてそうな男の人で、2人目は……へ? 立花くん?! なんで?
と思って横を見ると、したり顔の光里ちゃんがいた。
さては……仕組んだな。
心を落ち着かせるために、最初に注文したコーヒーを口に含む。アチッ! あ、これまだ頼んだばっかりだった!
舌がヒリヒリする〜。
思わず舌を出してしまったけど、これ何とも思われてないよね……。あ、ガン見されてる……でも笑ってるから大丈夫そう。
「お前……何してんの? 1人百面相すんなって。早く座れよ」
「百面相は1人だぞ! 何だそれ?!」
誰か分からないけど立花くんの友達が立花くんをからかって、それを立花くんが少し笑いながら言い返した。そしてそのまま私の目の前の席に座る。
へ? 心の準備出来てないけど……心臓の鼓動がすごいことになってる……。
取り敢えずコーヒーを飲もう。
そして顔を上げると、目が合った。
あぁ……ほとんど関わりのない私に笑いかけてくれる優しさ。笑った時に出る犬歯、かわいいなぁ。左目の下にあるほくろが立花くんの優しさを象徴してるような気がする。
あぁ……やっぱり私はこの人が、
「「すき……」」
だなぁ。
あれ? 私、声に出てたよね? マズい……マズい! 大して話したことも無いのに、こんな事言われても困るよね。
私はとにかく顔を隠すために、頭を抱えて、テーブルに突っ伏した。
ごめんなさい……。
でも、私の声だけじゃなかったような……?
そう思ったので、顔を上げてみる。
顔が真っ赤になってる自覚はあるけど……それよりもホントの事が知りたい。
立花くんの頭頂部が見えた。
やっぱり恥ずかしいよね。
そう思ってたら、急に顔を上げた。そして、目が合った。
「え……?」
「え……?」
「ん?」
「ん?」
この反応と今の指を指し合う状況で、やっぱり私は声に出しちゃってて、立花くんもそう言ってたということが分かる。
とにかく、
「えと、一旦整理しましょ! 整理!」
「う、うん! そうだね!」
私はこの機を逃すべきではないと思って、そのまま持って行こうとする。ここで出来なかったら一生近付けないと思ったから……。
「えっと……」
「じゃ、後は若いお二人で」
立花くんが話そうとすると、横の誰かが立ち上がって、お見合いをさせてる親のような発言をした。
あ、そうだった……立花くんのお友達と光里ちゃんがいたんだった。
その光里ちゃんも立ち上がっている。
「え、この状況でお前、2人にすんなよ……」
「こういうのこそ、2人ですんだよ。ねえ、梓さん?」
「そうですよ。ほら、唯音も。恥ずかしがってないで。私たちはやきもきしてたんだから」
光里ちゃんとそのお友達は知り合いだったらしい。もしかして、全部知ってて……感謝しないとな。
そして2人は自分の分の会計を済ませて出て行った。
「結城さん……」
「はい……!」
立花くんが意を決したように、話しかけてきた。私もやっぱり緊張した。
「今さっきのって……」
立花くんは慎重に聞いてきた。
「はい、すきって言いました。えと、立花くんも……」
あぁ……顔から火が出そうとはまさにこのことだな……。本当に恥ずかしい。
これ勘違いだったら……。
「俺も……すきって言いました……」
いつも笑ってる顔が真剣な表情をしていて、カッコよく見えて……本当に色々と良くない!
ニヤニヤしないように、必死で表情筋を抑える私。
「ど、どうしましょう……?」
「あ、え、う〜ん……? 付き合う、とかですかね」
思いが通じ合って終わりじゃない、と思って私はその先を尋ねてみると、しっかりと答えてくれた!
「あ…………」
そうか、良く考えればそうじゃない! 意識しちゃう……。顔が、熱い!
私は覚悟を決めて、
「付き合いましょう!」
と少し大きめの声で言ってしまった。
あ〜、注目が痛い! 少し前のめりになって……もう。
思わずその場でうずくまってしまった。
ダメかな……やっぱりダメかな。
そう思ってると、立花くんの動いた気配がして、耳元で、
「結城さん、俺と付き合いましょう?」
という声がした。
はぁぁぁぁぁ…………ヤバイヤバイ! 気持ちを抑えられない! まだ抱き着いちゃダメ!
表情筋はもう無理! 抑えられない!
とにかく頷く私。
結城唯音、15歳。
5月21日、水曜日。
初めての彼氏が出来ました!