第14話 デート、頑張ってエスコートしないと……(いや、無理だ!)
〈立花匠真〉
ふぅ〜……手繋げてる。
そして、横に並んで歩いてる。
最高か? 俺、明日にでも死ぬかもしれない。あ、でも死んでいいぐらい幸せだわ。
すんごいかわいいし。びっくりしたわ。こんなおしゃれなんかっていう。
俺なんて、白のパーカーに青のジッパージャケット羽織って、黒のスキニーパンツ履いただけの服装だもんな。大丈夫かな、横に並んじゃって。違和感無いかな?
まぁでも、これが俺の限度だからな。段々頑張っていこうかな。翔様に頼って。
あ、水族館見えた。
「結城さん、あれですよ」
「あ、あれなんですか。すごい大きいですね」
「なんかそこそこ有名らしいですよ?」
「へ〜、そうなんですね」
結城さん、しっかりと反応くれる……優しい。
いや、流石になんでも喜びすぎか? ヤバい……テンションが。俺、流石にヤバい。落ち着かねぇと。
「それじゃ、行きましょうか」
「はい」
また、二人で手を繋いで歩き出す。
足がグラグラと揺らぎそうだ。でも、揺らいだらカッコ悪いから絶対にしない。好感度を下げるようなことは絶対にしたくない。
そして、窓口の列に並び、チケットを買う。
そこでまたちょっとした一悶着。
「ここは俺に支払わせてくれませんか?」
「いや、ダメです! そんな風にしたくありません! そんな奢って奢られの関係なんて、すぐ切れちゃうでしょう? だから、絶対にイヤです!」
俺が下から覗き込んで頼むと、結城さんはそっぽを向いて断った。
「えぇ〜……カッコつけるの、ダメですか?」
「…………だ、ダメです!」
俺が再度、結城さんの目をじっと見つめて頼み込むと、結城さんは言葉をぐっと詰まらせた後、また顔を背けて断った。
軽く肩を落として、俺は1枚分の金を出した。結城さんもバッグから財布を出して、お金を支払った。
窓口のお姉さんからチケットを受け取り、水族館に入った。
最初にあったのはお土産屋さんだったが、流石に入ってすぐに買うのは違うと思って、結城さんを見れば、結城さんも笑って、先の通路を指差した。
おんなじ気持ちだったらしい。
そのまま通路を歩いて行くと、段々と暗くなっていく。そして、薄明かりの中エスカレーターを昇り、またまた少し歩く。
一番最初は、大水槽だった。
色々な魚が泳いでいた。
「わぁ……」
結城さんが隣で声を上げるのが聞こえた。周りに配慮したのか、小さめだった。これ、俺にだけ聞こえんのなんかヤバいな。
これまで演技とか言われたら…………怖いよね。
いやまぁ、結城さんだからあり得ないんだけど。
「きれいですね」
「はいっ!」
俺の言葉に、結城さんはキラキラの笑顔で頷いた。
ふぅ〜…………落ち着け。
水族館の水槽よりもきれいだからって、見過ぎんな。翔からも注意されたろ。
『見るなら、結城さんが水槽に夢中になってる時な。見過ぎたらそれはそれで気になっちゃうし、水族館もきちんと見て回れなくなる。あくまでも、お前は結城さんに楽しんでもらう為に一緒に行くんだから』
記憶の中の翔を思い出した俺は、もう一度気合を入れ直した。
そうだった。
俺は結城さんをガン見しに来てんじゃない。頑張らないと。
結城さんをチラリと見れば、まだ水槽を見ていた。先に進むのは後でも良いかもな。
ベンチを探せば大体は人で埋まっていた。う〜ん……日曜日だな。さすがに人が多いな。
人は流れてはいるけど……。
立ったままなの、疲れないかな?
あぁ〜! 分かんなくなってきた。
「あ、立花くん」
「はい! 何でしょう」
「次に行きませんか?」
「あ、もう良いんですか? 結構見てましたよね」
「はい。人も多いので。見に来るだけなら、何回でも来れますし」
「そうですか。じゃあ、行きますか?」
「はい」
結城さんは周りを少し見ていた。というか、気にしていた。自分が止まり過ぎてたらとか考えてそうだな。
まぁ、本人が言うなら次に行こうか。
地面の矢印に従って、色々な所を回っていった。
特に結城さんの反応が良かったのは、深海生物の所だった。どれも怖い見た目をしていて、俺は思わず尻込みしたが、結城さんは笑顔で水槽に顔を近付けていた。
「これ、可愛くないですか?」
「…………そう、かもしれませんね」
「やっぱり可愛くないですよね」
ちょっと目を背けたのがバレたらしい。結城さんは苦笑していた。
「いや、ちょっと俺は怖いので……。どんな所が可愛いんですか?」
「う〜ん……アンコウはなんか頭から垂れてるの、可愛くないですか?」
「いや……それよりも顔が。いかつい見た目してるので……」
結城さんは目を輝かせている。対照的に俺の顔は引き攣っていく。
「あの……もしかして、立花くん、ホラーとか苦手な感じですか?」
「……………………」
「あれ、お〜い」
結城さんは笑顔で俺を見てくる。目の前で手を振っている。
マズい。バレた。俺の弱点。
これじゃかっこよく出来ない。
でも、逃げれない。
「…………っ、はい。ホラー本当に駄目で、CMで泣きそうになるんです……」
多分、俺の顔相当青ざめてる自信がある。
「………………………………」
「…………あの、結城さん?」
結城さんは下を向いたまま、固まった。思わず声を掛けた。
「………………ふっ、ふふふふ! あはは! それは流石に可愛すぎますよ! 立花くん、本当にやめてください!」
結城さんは何故か大笑いしていた。涙が出ていて、手でそれを拭っていた。
「え、え?」
「いや……これだけ私をかっこよくエスコートしてるかと思ったら……ホラー苦手って……。かわい過ぎますって」
結城さんは困惑する俺に、畳み掛けるように笑い続けていた。
そんなに笑うところあったか? それに、かわいいって……男に? いやまぁ……結城さんに言われれば嬉しいのは、本当に好きだからだろうけど。
「あ、すみません。なんか笑っちゃって」
「いえ……笑いの種になってくれれば、いくらでも。いやでも、結城さんがそんなに笑うの初めて見ましたよ。俺をかわいいって言ってる、結城さんの方が可愛かったですよ?」
結城さんが謝ったけど、それを首を振って俺は受け取らなかった。いや、寧ろ笑ってくれる方が嬉しいんで。
「……っ! あぁ……もう! 本当にそういう所ですよ!」
「なんか可愛いこと言いましたっけ?」
「もう良いです! 次、次に行きましょ!」
「はっ、はい!」
急に俺の言葉を聞いた後、結城さんは顔を赤らめて、俺の前を先導し出した。
……何なんだろうか。
だって、可愛いよな、結城さん。
おかしくないはず……多分。




