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1 デイビス・ホテルにて

 1816年12月21日、ワシントンD.C.のデイビス・ホテルの一室で、四人の男と一人の少女が、ソファに座り机を囲んで話し合っていた。

「では、これでよろしいでしょうか?」

 司会進行役となっているロバート・フィンリー牧師が尋ねると、男達は頷く。

「これが妥協点だろう」

 ケンタッキー州の下院議員たるヘンリー・クレイが頷く。

「この方が都合が良い」

 バージニア州の上院議員たる"ロアノークの"ジョン・ランドルフはご機嫌だ。

「最善ではないが、次善ではある」

 下院議員の経験もあるリチャード・ブランド・リーは満足気だ。

 そうして、話がまとま……、




「駄目だね、なってない」




 りかけていたのを、オリヴィア・チャップマンが崩した。

 未だ一六歳、フィラデルフィア出身の彼女は、今から一一年前の1805年に蓋の周囲をはんだ付けすることで、中身を食べることによる鉛中毒発生の回避と製造・開封のしやすさを両立させた缶詰の特許を取った上で、フロリダのセミノール族と契約してトマトの農園から缶詰工場までを一括管理することで高品質化・低コスト化を成し遂げ。

 巨万の富を得つつ反乱の危険性が高かったセミノール族を合衆国に同化した、新進気鋭の実業家である。

 そんな彼女がこの場にいるのは、黒人開放奴隷の『帰還計画』に多額の資金を出す、と公言しているからだ。

 その資金力を前に、男達は彼女に頭が上がらなかった。


「またか。何が気に入らないのだね?」

 ヘンリーが尋ねると、オリヴィアは即答する。

「展望だ。汝らの計画には展望がない」

 クエーカー教徒に育てられた彼女の身に染み付いてしまった独特の訛りにも、男達は慣れていた。それほど、会合は重ねられてきており、それが今日纏まるはずだった。

「まだ送る先が決まっていないのだから、決めようがないだろう」

 リチャードは鼻を鳴らす。

 そう、『帰還計画』は未だ『元黒人奴隷をアフリカに帰す』ことしか決まっておらず。その先の開拓・定住の予定は全く考えられていない。というのも、どこに送り出すかあやふやだからだ。

「いや、送り込む先の予測は出来る」

「ほほう? 聞かせてくれたまえ」

 ジョンは面白そうに尋ねた。

「まず、船が寄港出来る港が周辺にあるのは必須条件だ。でないとアフリカに返す前に黒人達が溺死してしまうからな」

 三人は頷く。

「次に、ヨーロッパの国々からの反発が少ない、あわよくば助力を得られる場所であること。欧州列強と戦ったところで損なだけだからな」

 これにも、三人は頷く。

「水がないと作物を育てられないからな。川沿いであることは必須条件だ」

 当たり前のことなので、三人は頷く。

「そして何より、有用な資源がないこと。そんな良い土地は我らがアメリカで領有する方が有用だからな」

 やはり当たり前のことなので、三人は頷く。

「それらから考えると『胡椒海岸』のどこか川沿いが最有力候補となる。すぐ西のシエラレオネのフリータウン港はイギリス領だが、あそこもイギリスの元黒人奴隷か送り込まれているからな」

 三人は納得して頷いていた。

「なるほど、確かに場所は限定出来た。であれば、君の立てた展望とやらを聞かせてくれ」

「良いだろう。胡椒海岸の辺りはライスを育てるのに向いているので、最終的にライスを育てる方向で考えるが、そこまで土を育てるのに時間がかかりすぎるのでキャッサバを当座の主食として開拓。換金用作物としてはサトウキビを、壊血病対策にライムを育てる。

 生産した黒砂糖を元手に、肉や魚を現地住民と物々交換する。黒砂糖で現地住民を懐柔しつつ、彼らの有用な作物や技術を手に入れ、ゆっくりとした同化を図る。

 そうして五つ程度の拠点を沿岸部に作り。畑でライスを育てられ、現地住民をある程度懐柔出来たところで、内陸部に進出。コーヒーやカカオの農園を作ってそれで稼ぐ形で経済を成り立たせる。

 大雑把ではあるが、これが私なりの展望だ」

「中々良さそうな展望ではあるが、大きな穴がある」

 リチャードは指摘する。

「黄熱病はどうするんだ?」

 黄熱病。赤道付近の植民地で猛威を振るう疫病。これをどうにかしなければ、帰還計画が失敗するのは明らかだった。

「黄熱病? ……ああ、あれか」

 しかし、オリヴィアは何でもない、といった風に答えた。

「あれなら、オランダ、じゃなかったイギリス領ギアナで特効薬が見つかったらしくてな」

「「「「何だと!?」」」」

 傍観していたフィンリー牧師も、三人と共に立ち上がった。それほどの大ニュースだからだ。

「湯冷ましの水一リットルに砂糖四〇グラム、塩三グラムにライムをひと絞りしたものを、黄熱病患者に飲ませるとみるみるうちに回復するそうだ」

「……ポンドに直してくれ」

「湯冷まし水二.二ポンドに砂糖一.四オンス、塩〇.一オンスにライムひと絞り、だな」

 ヘンリーの問いにリチャードが答えた。

「まるでメキシコにありそうな手作りドリンクですね」

 フィンリー牧師はそう言ってから考え。

「……なるほど。だからメキシカンはあんなジュースを飲んでいたのですね。納得です」

 独り言にしては大きな声だったが、それで残る男三人も納得した。

「発覚した経緯は分からんが、その飲み物で黄熱病は治るらしい。それもあって、サトウキビとライムを育てさせるのだ」

 この時、三人の男達は思った。


(ひょっとすると、オリヴィアに乗れば帰還計画は成功するのでは?)


「……なるほど。確かに我々は考え無しだった」

 ヘンリーが頷く。

「ですね」

 続いてジョンも頷く。

「もう少し、細部まで詰めようか」

 リチャードも頷いた。




 この日の話し合いにより『アメリカ植民協会』は発足。その精密でリアルな計画書は多くのアメリカ人と少数のイギリス人に支持され、多額の資金と人手が集まることとなった。

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