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数日が過ぎて、神殿のあるマトリオットの街に出かける日だ。
話し相手になってほしいと言われケント様と同じ馬車に乗せてもらった。
貴族と同じ馬車に乗るとかあり得ない気がするのだが、結局誰かの馬の後ろに乗せてもらうしかないのでちゃっかり乗せてもらうことにした。
マトリオットの美味しい食べ物の話をしたり、マリアーノ様の近況を教えてもらったり。
ロニーさんがサラさんとデートした話は盛り上がった。
なんとタキシードを着て花束を持ったロニーさんがお屋敷の門の前で待っていたらしい。何人もの人に見られながら食事に向かった先はいわゆる居酒屋的なところで、かなり浮いていたらしい。
そしてロニーさんは緊張のしすぎで飲みすぎて寝てしまったとか。ほんとあり得ない。
あっという間に町で噂になってしまったのだが、何が起きたのかその後サラさんとのお付き合いが始まったというのだから女心は謎だらけだ。
やっぱりお金なのか…?
「あまりにダメな男で私がなんとかしてあげようって思ったんだと。あと、簡単に掌で転がせそうだなって。」
「女って…こわい。」
「姉上はそんなことはないぞ。」
そんなことはわかっている。
夕方に着いた町で宿を取って休むことになった。馬車に乗せてもらったとはいえ、何もせずにずっと移動するだけでは思いのほか疲れるものだな。
夜はぐっすりと眠ることができた。
次の朝はいつもの癖で朝日が出る前に目が覚めたので走りに行くことにした。
毎朝の日課だ。やらないとなんだか気持ちが悪いような気がした。
朝日を浴びながらのジョギングは気持ちがいい。
宿に戻ると同行している他の騎士たちも起きて馬に食事を上げたりブラッシングをしていた。
宿の中に入るとケント様もいて、近くにいた人たちと談笑していたが、俺に気が付くと近づいてきた。
俺は部屋に戻り汗を拭こうと思っていたのだが、ケント様も一緒についてきた。
部屋に入るとケント様は手を突き出した。
なにか呟くと体が温かくなりすっきりとした。あれっ、汗だらけだったのにそれもきれいになっていた。
ニヤリと笑うと
「エドは魔法って見たことあるか?まだ魔力が安定しないからあんまり使わせてもらえないんだけどさ、今のはリフレッシュって魔法だよ。すごいだろ。」
えー、魔法ってそんなことも出来るのかよ。すげー!!
俺はびっくりして声も出せないでいた。
確かに魔法が使える世界なのだと理解はしていたけれど、戦いに応用することくらいしか見たことがなかったのだ。
「魔法ってこんなことも出来るんですね。やっ、ほんと、すげぇ」
してやったりって顔をしているけれど、マジでしてやられた感じ。
「汗まみれで帰ってくるかと思ってさ。いやーその顔が見たかったんだよね。」
「魔法騎士の人たちの魔法は見たことがあったけど、こんな魔法は初めてだ。」
「あぁ、魔法騎士が使ってるのは見たことがあったか。まぁそうだよな。」
少し面白くなさそうな顔になる。いやいやそれでもそんな簡単に魔法が使えるなんて驚き以外のなんでもないからな。
そんなこんなで馬車の中では終始魔法の話だった。
そういえば領主様がケント様は魔術師団にも入れるくらいの実力があるって言ってたもんな。辺境伯になるための勉強に魔法の勉強までしているなんて大変だなと思いつつ、前世の自分に重ねてしまうことがある。
でもケント様の周りには信頼できる人がたくさんいる。だからその信頼に答えるべく努力が出来ているんだろうな。
昼過ぎにはマトリオットの町中に着いたので昼食を取ってから神殿へ向かった。
ステンドグラス張りのザ・神殿な場所だった。前世日本人であった俺の『神殿ってこんな感じの場所だよね』なイメージそのものすぎて驚いていたのだが、一緒に居たみんなには造りの素晴らしさに驚いているのだと思われたようだ。
田舎感丸出しである。ちょっと恥ずかしい。俺これでも東京で育ってるんだけどね、前世だけど、確かに今世は田舎から出てきているので文句は言えませんがね。
ケント様は何度も来ているからか慣れたように進んでいく。
しばらくすると眼鏡をかけた長身の男が表情ないままに出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。ケント様お変わりなくお過ごしのようですね。この1年いかがでしたか?」
「魔力はかなり安定していて、魔法を使っても乱れる感覚はありません。」
「それはなによりですな。して、、、そちらの方が今回魔力測定を行う方でお間違いないでしょうか。」
男は俺を見て瞠目したが、すぐに取り繕った。
気にはなったが、1歩前に出て
「はい、今日はよろしくお願いします。」
と礼の形をとった。