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再び目を覚ました時には先ほどよりも頭がすっきりとしていた。

ここはどこだろう?


簡易的なテントのようなところに俺と同じように寝ている人がたくさんいた。

みんな苦しそうにしている。

「さっきよりも顔色が良くなったわね。」

良かったと呟いたのは先ほどの少女だ。

俺の額に手を当てると

「うん、熱も下がったみたいだわ。あなたは特に酷くてしばらく意識が戻らなかったから心配していたのよ。」


どうやら俺は伝染病にかかり生死の境を彷徨っていたらしい。

全てを持っていながら誰も信用できず絶望したまま死んでしまった。次生まれるときには普通であることを願って。

なのに今度の人生では何も持っていないのだ。

両親はおらず、何年も暮らした孤児院は火事で焼け落ちみんな死んでしまった。

お使いを頼まれて少し離れた村に行っていた為、火事に巻き込まれずに俺だけが生き残ってしまった。

1人で生きるためにここまでたどり着いたはいいけれど今度は伝染病が流行っていて死の淵を彷徨うとか本当にツイていない。


まだ体は本調子ではなかったが、動けるようになると少女に手伝いを申し出た。

ここで苦しんでいる人たちは俺が一人でこの街に来た時に食べ物を分けてくれたり、この街で住むためのルールを教えてくれた恩人たちばかりだ。


「これ洗濯しておいて」

「お湯を沸かして持ってきて」

「これも洗濯しておいて」

「食事の準備を手伝ってきて」

「こっちも洗濯お願いね」

少女は結構人使いが荒かった。俺これでも病み上がりなんだけど。


少女はマリアーノ=ファルテル。

このあたりを治める領主様の娘だ。

何故そんな偉い人の子供がこんなことをしているのか疑問だったが、どうやら彼女の母親がこの伝染病で数年前に亡くなったらしい。

「私は医師を目指しているのです。苦しむ人を1人でも多く助けたい。だからこうして手伝いをしているのですよ。」

表情に乏しい彼女だったが、この時は瞳の奥に悲しみと情熱を覗かせた。

「なんてきれいなんだ…天使?」

それが正直な感想だった。俺の全てをマリアーノ様に捧げようといつしか誓うようになっていた。


「エドはどこから来たの?知り合いがここにいたとか?」

「俺はマルドネの孤児院にいたんだけど、マザーに頼まれてサンジュンにお使いに行っている間に孤児院が火事になってしまって。」

1年ほど前のことを思い出す。一緒に過ごしたみんなの顔が次々と浮かんできた。

「生きていくためにはお金がいる。そのためには仕事が必要。だからこの街に来たんです。でもまだ俺子供だからまともな仕事をすることもできなくて」

身寄りも仕事もない俺を心配してマリアーノ様は

「この辺りは国境ですから防衛には力を入れています。あなたさえよければ騎士団の見習いになってはいかがでしょうか。」


まだ幼い俺ではすぐに入団できないが、見習いとして籍をおきながら雑用などをさせてもらえるように領主様に頼んでくれると言ってくれた。

マリアーノ様は本当は天使なんじゃないかと思った。表情ないけど。


「ファルテルの騎士団は王国内でも随一の実力なんですよ。頑張ってくださいね。」

表情はないものの優しい言葉を貰ってそれだけでやってやろうと決心した。


「マリアーノ様のお力になれるよう精進いたします。」

「私のためではなく、この地に住まう皆さんのために頑張りなさい。」

「心しておきます。」


そしてすぐに騎士団の兵舎の一室を使えるように話を付けてくれたくれたのだった。

あぁマジ天使。氷のように冷たい表情も素敵です!


俺はすっかりマリアーノ様のファンになってしまった。

この身はマリアーノ様に捧げるつもりだ。

兵舎に身を寄せ、雑用をこなしながら体も鍛えた。

俺と同じように身寄りがなく見習いとして兵舎で暮らしているやつが何人かいたからこの環境にすぐに慣れることができた。

同室になったリックも親切にしてくれて、昔からの友人のように仲良くなった。


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