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華佗る


 気が付いた。

頭が痛いことに気が付いた。


 ここはどこ?ワタシは誰?

俺は西岡宏昌にしおかひろまさ

深夜1時に交通事故で頭部に外傷をのあった20代男性の手術を終えて仮眠室で休んでいた。

脳への緊急手術を終えた後は外科医に交代をした。彼は信頼できる医師だ。外科医を名乗っているが、切ったハッタが好きなだけでなく損傷の在った内臓も発見できるはずだ。

安心をして仮眠室で眠りについた。設備の揃っている大学病院は良いけれど長時間の手術が続くと体が辛くなってきた。内科に転向しようかと検討中な脳神経外科医46歳年収3,600万円。


 目を覚ましたら洞窟に寝転がって居た。

床はつるつるして冷たく硬い。起きて座り直す。

この場所は長い時間を経たのだろう。鍾乳石が下がり盛り上がり、全体が乳白色で覆われた幻想的な世界だ。

 なぜ洞窟で乳白色だと分かるのか?

光源がどこにあるのだろう。

周囲を見渡すと少し離れた場所に一筋の光が天井から降りている。穴でも開いているのだろうか。

 その光の中には立っている人影があった。

目を閉じている。少し高くなった台の上で光の中で瞑想をしているようだ。


足元に注意しながら近づいてみる。


 長いあご髭と長く波打つ黒髪の仙人のような人物だ。

服も裾も袖も長い。やっぱり中国の仙人のようだが、顔や手が浅黒く掘りも深い。中近東当たりの顔じゃないかな。

 石像のような仙人が目を開けて男を見た。瞳は薄い茶色である。


「よう。目は覚めたかい。どこか痛むところはありはしないかい」


 存外ぞんがいフランクなもの言いだ。


 肩を回し頭を回し、自分の名前年齢を確認して、分かるものと分からないものを整理した。

記憶が混濁した、もしくは健忘症が疑われる人に確認するのは、名前、年齢、その日の年月日に場所である。


「鈍い頭痛があります。そして記憶の混濁が見られます。この場所に覚えはありません。また、いつからここに居たのかが分かりません」


「まあ、そうじゃの。それは正しい。お前さんは正常だ。そして冷静だ。

冷静ついでに事実として受け入れてくれ。

今な、お前さんは中国後漢末期に居る。

ワシはな仙人やっていて神通力で、お前さんを呼んだのよ」


 狂っているのは、このジジイか。

周囲を見る。足元を見てガシガシと踏む。鍾乳洞も下の乳白色の床も本物だ。舞台装置ではななさそうだ。

陳腐な演劇に紛れ込んだわけでなさそうだ。


 つまりは、異世界転生っか!

それはケモ耳!鎧の美女!無垢なる聖女!つまりはハーレム!

ん?

 ちょと待て、こいつは中国の仙人。ここは中国、つまりはチュンリー?黄色のえっろえろなリンとかもいたよね!


「おいこら。冷静にと言っただろ。ついでに時代も言ったぞ。後漢末期。つまりは三国志じゃ」


仙人おそるべし。男の煩悩を見破り打ち砕く。


「え~。男ばっかじゃん。むっさいー。

貂蝉とか小喬、大喬姉妹には会いたいけれどー。

チンコちょん切って皇帝に使えるのも嫌だしなぁ。

そんで、俺は何をすればいいのでしょうか。仙人さま」


ぶちぶちと文句の末、神通力の使用理由を聞く。


「うん。お前ね、華佗やって」


つらっと仙人は言った。

華佗って……


 医者だから武将は無理だと思っていた。

だからといって、中国の医師になるつもりはなかった。しかも三国志時代である。

医者の地位なんて下っ端役人と同じである。

なんで脳外科医で46歳年収3600万円の自分がやらねばならぬのか。


 確か華佗って、曹操に処刑されるよね。


「お断りします。華佗って処刑されちゃうじゃん。チャイナドレスの美女と良いこと出来ないのに死んじゃうの嫌だし。良いこと出来ても死にたくないし」


「お前、結構俗っぽいね。まあ、出来るんだったら歴史変えちゃってもいいし、死ぬ人間も生きさせても良いよ」


「そんなことしても良いの?」


「いいよー。だって、三国志ってすっごく昔じゃん。少しくらい変わっても大きな流れは変わらないしね」


 良いのか?三国志。漫画で読んだだけだけれど。

とりあえず関羽とか孔明には会ってみたいな。

 そういえば、孔明の奥さんって黄髪醜女こうはつしこめってことだけれど、それは金髪カールでソバカスの白人女性だったんじゃないかと推測している。昔と今の美女の観念が違うのだ。昔の醜女は俺には美女なケースはあるはずで!しかも中国美女って貧乳多いし、金髪白人美女なら絶対巨乳だろ!


 今の日本は、縄文時代だな。火焔土器でも作っているのだろうか。それはそれで凄い文化だが、それなりの小競り合いはあっても平和だろうな。中国は大戦乱期だ。

仙人の「三国志ってすっごい昔」の言葉に思いを馳せる。

 そうか、俺は時代も場所も随分遠くまで来ちまったんだな。


「あ、あなたのお名前は?」


「ん?ワシ?華佗じゃよ」


「なんで?なんで華佗を放り出して俺になすりつけるの?」


「なすり付けるって言い方やめてくれ。汚いもんじゃないんだから。華佗って医療の神様になっちゃうんだよ。凄いんだからな。君も医者なら少しはワシを敬って欲しいな」


 華佗仙人は「後漢末期」「三国志」と言った。

つまりは、未来が読めるか、未来から来たかになるな。

華佗が仙人だという記述は読んだことがある。

ちょっと、姿勢を正して改めて聞いた。


「あなたは、別の仙人に「華佗」として呼ばれ俺のように未来からきたのですか?」


「悪くないね。その推理は。

「華佗」という名はもともとワシの居たところでは「先生」という意味じゃったのよ。でも、ここじゃ医者の地位は低いからね。「先生」という読み方で「華佗」の字を当てはめて使っているの。

未来から来たとかじゃなくてね、色々な時代に流されちゃうの。だから未来にも行ったことがあるし倭の国だけじゃなくてニッポンにも行ったことがあるよ。

その時に朝鮮朝顔とトリカブトから麻酔を作り出したんだ」


「花岡青洲……だったのですか」


 江戸時代の医者の家系に生まれて動物実験の後、妻と母親が人体実験に名乗りを上げて麻酔を確立した医師だ。その後、妻は失明し母親は亡くなっている。

「花岡青洲」その名も「華佗」に通じないか。「華」は「花」に「青洲」は青大将の意味もあると聞いたことがある。華佗の「佗」は「蛇」の古い漢字じゃなかったか?そういえば、麻酔は当時「通仙散つうせんさん」と呼ばれていた。


「ワシは医聖いせい。医療の仙人じゃ。だから、医学の進歩の種を作り出し続けた。

でもな、疲れてしまうんじゃ。

ワシが進め続けた医学を提供しても宗教観やら人種やらの差別で理解しようとしないのも、ワシが命をつなぐ努力をしている最中さなかに戦で大量に人が死ぬのを間近にするとな、ワシの存在理由が揺らいで消えてしまいそうになるんじゃ。

その時にな、医療が必要な時代で華佗を誰かにやってもらうんじゃ。

そうしないとな、大地の気と自身の気で永らえている仙人は消えてしまう。まあ、それならそれでも良いのかも知れないが、今、ちょっと華佗が呼ばれておってな。

それをお前さんにやってもらいたいんだ」


「誰に呼ばれているんです?」


「曹操じゃよ」


それって、死刑宣告じゃね?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い展開になりそうですね。 続きをお待ちします。
[良い点] なるほど! リレーってそういう意味ですか!
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