4話 みんなと一緒にハンバーグ
松井廉が料理男子である事を知った竹林友梨菜。料理の上手ではない彼女は、廉に弁当作りを依頼する。
頼まれた廉は、自らの信条に従い手料理を友梨菜に振る舞い、それから判断してもらうことにした。オムライスをリクエストした友梨菜は、廉の手料理の美味しさに思わず涙し、改めて弁当作りを依頼する。
翌日。弁当を持って学校へ向かった廉だったが、友達の早川隆哉や友梨菜の友達の滝濱なるみも合流し、話は予期せぬ方向に……。
夕食を食べ終えた廉は、友梨奈が食べ終わるのを待った。友梨奈は、食べ終えた後に姿勢を正して手を合わせた。
「ご馳走様でした。その、とても美味しかったです。ありがとう。」
「お粗末さま。それで、例の話はどうする?」
顔を少し赤らめたまま、改まって話す友梨奈。廉が結論を聞こうとすると、「待って」と止められた。
「まずは、洗い物を済ませてからにしない?私、それくらいなら出来るから手伝うよ。」
それならばと立ち上がる廉。それに続いて友梨奈も立ち上がる。キッチンに食器を持って行き、廉がスポンジで擦り、友梨奈が水洗いをして水を切る。5分程で洗い終わると、再び友梨奈をテーブルに座らせた。
「竹林、コーヒーでいい?」
「うん、ありがと。」
友梨奈の返事を聞き、キッチンの棚からコーヒーミルを取り出す。実家から送られてきたコーヒー豆を入れていると、友梨奈が興味津々にやって来た。
「豆から挽いてるの?」
「ん?そうだよ。簡単なやつだけどね。」
へぇと相槌を打ちながら、目はコーヒーミルに釘付けになっている。豆を挽いてドリッパーに移して、お湯を注いでコーヒーを抽出する。友梨奈は、漂ってくる香りに鼻を鳴らしている。
「お待ちどうさま。さ、座ろう。」
友梨奈を促してテーブルに着かせる。彼女の前にカップを置き、自分も対面で座る。
「いただきます。」
少し緊張したように、コーヒーを口に運ぶ友梨奈。少し顔を赤らめてカップを置き、廉の方を見た。
「……すっごく、美味しい。私、ブラックって苦いから無理なんだけど、松井君の淹れてくれたのは苦味が少なくて飲みやすいね。」
「……ありがと。そんなに苦くない豆を使ったからかな?」
少しはにかみながら、お礼を言う廉。すると、友梨奈が姿勢を正して見つめてきた。
「その、例の話なんだけど……。改めてよろしくお願いします。」
「うん。分かった。それでお金の話なんだけど、材料費くらいなら出せそう?」
厳しいといっても、なかなか彼女の懐事情に察しがつかない廉は、とりあえず提案してみた。
「そう、だね。何とか出せるかな?バイトも始めるから、何とかなりそう。でも、光熱費とかは大丈夫?」
払えそうになくても、一応心配になるようだ。
「どのみち俺のも一緒に作るし、細かく分けるのも面倒だからいいよ。」
「そう。ありがとう……。」
友梨奈は申し訳なく思いつつも、どこかホッとしているようにも見えた。その日は、翌日の弁当の希望を聞いて、彼女を最寄り駅まで送った。
「今日は、ありがとう。また明日からよろしくお願いします。」
礼儀正しい友梨奈は、別れ際にそんな事を言って帰っていった。
翌日。弁当の為とはいえ、早く起きすぎた蓮は、いつもより早く教室にいた。
「うっす。今日早いじゃん。どうしたよ?」
後から隆也がやってきて、隣に座った。
「ん?弁当でちょっと。」
その返事で昨日のことを思い出した隆也は、前のめりに食い付いてきた。
「おーおーおー!ほんで?昨日あれからどうなったよ?」
廉は、隆也が去ってからのことを話して聞かせた。時折、「ほぉー。」とか「マジか!」などと言いながら聞いていたが、最後に友梨奈を帰したところでストップがかかった。
「え?帰したの?」
「帰した。」
隆也がストップをかけた理由が分からないという顔の廉に、隆也がため息混じりに答えた。
「お前が彼女出来ないの、そういうとこだぞ?肝心なところで押し切らないから……。」
隆也の言う事が全く頭になかった廉は、強めに否定する。
「いやいやいや。昨日はそういうやつじゃないだろ?純粋に俺の料理が、彼女の口に合うかどうかだし。」
これ以上言っても、効果がないと諦めた隆也は、話題転換を図った。
「まあいいや。で?いつ渡すんだよ。その弁当。」
「まあ、渡せそうなタイミングで……。」
廉の煮え切らない返事に、隆也が吹き出す。
「お前、緊張してるだろ?」
「は?なんで?」
廉が、少し赤くなりながら反論していると、不意に声をかけられた。
「松井君、おはよう。早いんだね。」
「お、おはよう竹林。今日はたまたまだよ。」
急に友梨菜が現れて廉の後ろに座り、彼女の隣には、なるみが座った。
「おはようさん。ん?自分、新顔やんな?」
なるみは、自分の前に座っている隆也に話しかける。いきなりキツめの関西弁で話しかけられた隆也は、驚いて廉に話を振る。
「なぁ廉。誰?」
「ええっと、竹林の友達、だっけ?」
確認のために友梨菜を見ると、肯定が返ってきた。そして改めてなるみを見ると、自己紹介が始まった。
「うちは、滝濱なるみ。大阪出身や。友梨菜と同じ学科で、同じ部活や。よろしく。」
隆也がなるみに何か言うのを確認した廉は、友梨菜に話しかけた。
「竹林。これ、今日の弁当。」
弁当の包みを鞄から出して渡すと、友梨菜の顔がパッと明るくなった。
「わあ。ありがとう。あ、そうだ。お昼って空いてる?一緒に食べようよ。」
友梨菜からの申し出に、隆也となるみの様子をチラッと見る。友梨菜の発言が聞こえたのか、2人揃ってこちらを見ている。
「なぁ、ウチらも一緒してええ?今朝から友梨菜がめっちゃええって騒ぐ料理、見てみたいわ。せやろ?」
なるみが無理矢理、隆也に話を振った。
「お、おう……。そうだな。」
流れで隆也が賛成し、友梨菜も了承したので、お昼は4人で食べることになった。
午前中の授業が終わった後、食堂に集合した4人は、学生でごった返す中でなんとか席を確保した。
「それじゃあ、開けてもいい?」
「どうぞ。」
友梨菜が開ける弁当箱を、隆也となるみが凝視している。あまり凝視されると、どこか落ち着かなくなってくるので、少し引き気味に見守る。
「「「おおー!」」」
3人の口から、同じ歓声が上がる。
「弁当は初めて見たけど、やっぱ廉の料理って感じだな。」
「すっごく美味しそう。」
隆也と友梨菜の反応を聞きながら、自分の弁当箱を開ける。すると、それを見たなるみがツッコんできた。
「いや、自分も同じかい!」
友梨菜は、なるみの意図を察して咄嗟に恥ずかしくなる。しかし、廉の言葉にハッとした。
「ん?当たり前じゃね?一緒に作ってるんだから。」
その返しを聞いたなるみは、ため息混じりに返した。
「自分、分かってへんなぁ。そない素気なく言わんでも、もう少し言い方あるやろ?」
廉は、言っていることが分からないというような顔をしているが、なるみの意図に気付いた隆哉が助け舟を出した。
「なぁ廉。今日は何でハンバーグなんだ?」
「ん?それは……。」
友梨菜をチラッと見ると、それに気付いた友梨菜が答えた。
「私がお願いしたの。」
なるみと隆哉が一斉に友梨菜を見るが、友梨菜はお構いなしに続けた。
「お弁当といえば、やっぱりハンバーグかなって。」
「ほほう。要するに、リクエストってやつやな?ほんで、自分もそれに合わせたんや。」
「ちょっとなるみ!早く食べないと、授業始まっちゃうよ。食べよ!」
なるみの言い方に、彼女の意図を薄ら感じた友梨菜は、慌てて話を終わらせた。なるみはニヤニヤしながら友梨菜を見ていたが、そのまま食べ始めた。しかし廉は、そんな2人の様子よりも友梨菜の感想の方が気になっていた。友梨菜が、なるみから逃げる様にハンバーグを口に運ぶ。が、ひと口齧ったところで、なるみのことはどうでも良くなった。
「え?美味しい……!」
そして、すぐにふた口目を頬張った。
「廉、良かったな。あれ、本当に美味しい物食べた時しか出ない感想だぞ。」
隆哉が小さな声で言う。
「お、おう。なら、良かった。」
廉は、友梨菜が満足そうに食べる様子を見ながら、作り手のやり甲斐に浸っていた。
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