表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

2話 料理男子

大学進学を期に上京してきた、女子大生の竹林友梨菜。彼女は、一人暮らしを始めてから1ヶ月経たないうちに、家計が火の車になってしまう。原因が自分の料理下手だと自覚している彼女は、食費を抑える術を探し始める。

そんな彼女の目に、大学の学食で手作り弁当を食べる男子学生、松井廉の姿が写った。彼の趣味は、喫茶店を営む父の影響から料理だった。まだそれを知らない友梨菜は、廉のことを尾行するのだった。


登場人物

正式にお弁当契約を結んだ、松井廉と竹林友梨菜。廉が、友梨菜の弁当を作り始めて数日後。友梨菜から週末の弁当作りを依頼される。そして、廉が弁当を持ってくるように頼まれたのは、剣道の試合会場だった。友梨菜が剣道部である事を知っていた廉は、ついでに観戦していこうと決めたのだった。そして、友梨菜のいつもと違うリクエストとは?


登場人物

凪静香(なぎしずか)

友梨菜の所属する剣道部の部長を務める4年生。文句なしの美人で剣道も強く、リーダーシップも兼ね備えたまさに才色兼備だが、誰とでも気軽に接する一面もある。


白樺雪華(しらかばせつか)

友梨菜達の一学年先輩。サポートが上手く、剣道部の部員兼マネージャー的な役割を担う。やや天然な面があり、静香にいじられる事もある。

 学食で、弁当男子を見つけた友梨菜。彼を見失うまいと必死に追いかける。彼が席を立った時に思わず慌てて立ち上がってしまい、コップを落としたところを見られたが、その後の反応的にスルーされただろう。急いで食器を片付け、3限の教室へ向かうと、彼らは既に着席していた。少し距離をとって左後ろに位置どり、様子を観察する。一度追っかけると決めると、講義中でも気になって仕方がない。気付くとそちらに視線が向いている。そんな歌詞の歌があったような気がしてくるが、今の友梨菜に歌詞に込められたような想いはない。しかし、講義が終わり荷物を片付けていると、彼の隣に座っていた男子学生がこちらにやってきた。

「ねぇ君。この時間、俺らの事見てたよね?何で?」

単刀直入に聞かれた。向こう側にバレているという意識が全くなかったためか、変な声が出てしまう。

「ふえっ!?な、何のことですか……?」

講義が終わり、人が減っていく中完全に動揺してしまう。

「またまたぁ。絶対俺らの事見てたって。」

すると、見かねた彼がやって来て止めに入る。

「おい隆哉。もういいだろ?行くぞ。」

「だって、気持ち悪いじゃんか。何もしてないのにずっと見られてんだぜ?」

彼が、隆哉と呼ばれた男を連れて教室から出て行く。周りの人間も、巻き込まれないようにすーっと立ち去ってしまった。しかし、彼に話しかけるチャンスだと思った友梨菜は、意を決して追いかけ、声をかけた。

「あっ、あの、ごめんなさい。見てたのは謝ります。少しだけ、話を聞いてもらえませんか?」

友梨菜は、一か八か賭けに出ることにした。2人は、突然の申し出に驚いていたが、友梨菜の真剣さに話を聞いてくれることになった。

 3人は学食に場を移し、対面で座った。

「それで?話っていうのは?」

隆哉が切り出す。少し人見知りも入った友梨菜は、名乗った後に恐る恐る話し始めた。

「えっと私、竹林友梨菜っていいます。それで、なぜさっきの時間2人を見ていたかっていうと……お昼に美味しそうなお弁当を食べているところを見て、どんな人なのか気になったからで……。」

ここで一呼吸入れてから続ける。

「私、進学を機に一人暮らしを始めたんです。だけど、家事が回らなくて……。部活もやってるし講義もあるし。掃除や洗濯は、苦手なりに何とか出来るんですけど、料理だけまるっきりダメなんです。センスがないっていうか、よく分からないんですけど……。それで、親にもらったお金も、お惣菜とかコンビニ弁当とかで使っちゃって……。」

ありのままをぶっちゃけた友梨菜は、そこまで言って2人の様子を伺う。隆哉は、なぜか彼の方を見て話す権利を譲っている。友梨菜が彼を見ると、彼は目を逸らしてしまった。すると、隆哉が代わりに話す。

「出たよ。廉のシャイな面が。あ、こいつ、松井廉っていうんだけど、実家が喫茶店やってて。料理めちゃくちゃ出来るんで。」

廉は、余計なことを言うなとばかりに隆哉の手をはたくと、ため息混じりに話し始めた。

「ん、まあ、それなりには出来ると思うけど……?」

友梨菜は、疑問に思っていることを聞いてみた。

「じ、じゃあ、お昼のお弁当は自分で作ったの?」

「ま、まあ。」

そう言って頷く廉。彼女の愛情弁当ではないと知った友梨菜は、意を決してこんなお願いをした。

「あの、私にお弁当を作って下さい!」

突然の告白に固まる男2人。空気を察してか、友梨菜は何とか2、3言付け足した。

「お金とか払うんで、その、お願いします!」

友梨菜の必死さに観念した廉。頭を掻くと、条件を出した。

「分かった。でも(しょく)っていうのは、人それぞれ好みがあって。口に合わなかったら、それはそれでなんか違うと思う。だから、一回俺の料理を食べてみて欲しいんだけど、いいかな?」

隣では隆哉が、何やらニヤついて肘で小突いてくる。向かいの友梨菜は、自分に合わせてくれると言う申し出に少し驚きつつも、廉の申し出を受けることにした。

「わ、分かりました。よろしくお願いします。」

返事を伝えると、隆哉が立ち上がってどこかへ行こうとする。

「おい、どこ行くんだよ?」

「あん?俺は邪魔だろ?あとは、お2人でごゆっくりどうぞ。」

そう言って去ってしまった。友梨菜は、隆哉の気の利かせ方に驚くが、廉と2人きりの方が落ち着けたのでよしとした。

「えっとそうしたら、日程の都合がいい日とかある?俺はいつでもいいけど。」

「えっと、明日お弁当を作って来てもらえれば……?」

友梨菜は、思っていなかった申し出に戸惑うが、廉は逆に友梨菜の申し出を、否定した。

「あー、そうじゃなくて。俺は、出来立てを食べて欲しいんだ。そこは、(こだわ)りたくて。たとえ作るのが弁当でも、出来立ての味は知っておいて欲しくて。」

廉の料理に対する想いを知った友梨菜は、彼に従うことにした。

「それは、私が松井君の家に行くっていう解釈であってる?」

友梨菜が内容を口にすると、廉はほんの少し香り赤らめて訂正した。

「言い方がちょっと……料理をご馳走するだけだから……。」

そして、訂正された友梨菜も自分の発言に気付くと、慌てて便乗した。

「あっ!ごめん。そうだね……。と、とりあえず、それだったら早い方がいいよね?私は今日とかでも大丈夫だよ?」

友梨菜は、話題の転換を図った。

「じゃあ、竹林さんは今日まだ授業ある?俺はもうないから、帰ろうと思うんだけど。」

「私もこの後はないよ。」

廉は「じゃあ」と言って立ち上がり、友梨菜もそれに(なら)った。その時、友梨菜の隣の通路をなるみが通りがかった。

「あっ、友梨菜こないなとこにおるやん。ん?自分誰や?」

なるみは、友梨菜の向かいに立つ廉に鋭い視線を向ける。友梨菜は慌てて説明する。

「えっと彼は、私の救世主なの。」

しかし、慌てたために要領を得ない。廉の「え?」となるみの「は?」が同時に出る。

「友梨菜。自分、何言うてんの?」

「えっとだから、」

友梨菜は、そこで声を小さくすると、なるみにだけ聞こえるように話した。

「私の口座がピンチなのは言ったでしょ?彼は、私のシェフになってくれるって言ってるの。」

その説明で、廉と友梨菜が話し合っていない部分まで察してしまったなるみは、内心ニヤリと怪しく微笑んで、去ろうとする廉に声をかける。

「おい、あんた。友梨菜の事、泣かしたらタダじゃ済まさへんで。」

廉は、振り向いて「は?」と言ったまま固まる。友梨菜は慌てると、なるみに伝言だけして廉を連れ出そうとする。

「ちょ、なるみ!?と、とりあえず、私今日の部活休むから、静香さんに聞かれても黙ってて!」

友梨菜はそう言うと、廉の腕を引いて学食を出た。なるみはため息をつくと、独り言を呟いた。

「友梨菜。頑張りや。」

お読みいただきありがとうございます。

先日、本作のPVが200を突破しました。読んで頂いた皆さん、ありがとうございます!今後も不定期ではありますが、鋭意更新予定ですので、宜しければお付き合いください。よろしくお願いします。

また、感想や評価等お待ちしていますので、感想欄や作者名のTwitterにお寄せください。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ