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プロローグ2 竹林友梨菜(たけばやしゆりな)

 3月下旬。大学の合格通知を受け取った竹林友梨菜(たけばやしゆりな)は、防具と竹刀を担いで、東京までやってきた。今日は、新入生が一足早く練習を体験する日である。剣道で推薦合格した友梨菜は、インターハイ優勝はもちろん、全日本選手権ベスト4、国体の県代表と間違いなく実力者だった。

 友梨菜が大学の正門付近で、構内地図と睨めっこしていると、不意に後ろから話しかけられた。

「あのぉ、もしかして剣道部の新入生の方ですか?」

友梨菜が振り向くと、同じように防具と竹刀を持った制服姿の女子高生が立っていた。友梨菜よりは活発な性格のようで、声のトーンも明るい。

「あ、はい。あなたも、ですか……?」

相手は、友梨菜が同じ立場だと分かると、明るい笑顔で返した。

「やっぱりせや。同じ荷物持ってるもんなぁ。あっウチ、滝濱(たきはま)なるみ。よろしくな。」

砕けるといきなり関西訛りが出てきて驚くが、友梨菜も負けじと返す。

「わ、私は竹林友梨菜。よろしく……。」

しかし、若干人見知りの入る友梨菜は、どこか気圧されてしまう。2人で武道館の場所を探り当て、キャンパス内を歩いていると、なるみが話しかけてきた。

「友梨菜は、なんでこの大学選んだん?」

「私は、ここが1番強いって聞いたからかな。なるみは?」

「ウチは、東京で剣道やりたかってん。今まで関西から出んかったし、相手も近隣ばっかしだったから気分変えよ思てな。」

友梨菜が選んだこの大学は、関東有数の剣道強豪校である。自分が推薦で入れたように、彼女もまた強者だと感じた友梨菜は、なるみに疑問をぶつけた。

「関西から出なかったって、インターハイは?去年は、東北だったよね?」

するとなるみは、首を振って答えた。

「あ〜ちゃうちゃう。ウチ、高校剣道部ちゃうねん。帰宅部。剣道は、地元の道場でやっとってん。せやから、道場が所属しとる協会とか連盟の大会しか出てへん。」

友梨菜は、次々と疑問をぶつけた。

「なんで入らなかったの?」

「ん?部活、放課後の時間取られてまうからなぁ。ウチは彼氏も欲しかったから、放課後は自由に使いたかってん。友梨菜は、そういうのなかったん?」

「彼氏かぁ……。」

友梨菜は、今までであまり意識しなかった単語に想いを馳せた。正直、剣道一直線だった友梨菜は、考えもしなかった。

「うん……私は、全然……。」

「ま、これから作ればええしな。ウチも手伝ったるさかい。」

明るく返すなるみだが、何かを隠しているかのようなぎこちない笑みに見えた友梨菜。気付けば、気になった事をぶつけていた。

「それで、彼氏はいるの?」

「ハハッ。それがおらへんねん。前はおってんけどな、東京行く言うたら別れるて言われてもうた。」

なるみの表情には、やはり寂しさがにじみ出ていた。しかし彼女はパッと笑顔を見せると、やや気まずくなった雰囲気を打ち消すように言った。

「ま、大学で新しく作ればええしな!お互い頑張ろや。」

そうやってしばらく話しながら歩いていると、武道館に着いた。入り口では、道着袴姿の先輩が2人を手招きしている。2人が気づいて駆け寄ると、向こうも駆け寄ってきた。

「えーっと、竹林さんと滝濱さんかな?」

「あ、はい。竹林友梨菜です。」

「滝濱なるみです。」

それぞれ名乗ると、先輩はニコッとして頷く。

「うん。元気が良くて何より。私は春から2年の白樺雪華(しらかばせつか)です。よろしくね。道場連れてくから、私に着いてきて。」

雪華の後についていくと、建物の中央にある広い廊下を進んでいった突当たりの部屋に着く。他にもいくつか各部用の道場があるようだが、剣道部は突当たりらしい。雪華は、入り口で待っているように言うと、中で一際綺麗な先輩に話しかける。何か話しているようだったが、こちらを向いて手招きをするので、道場に一礼して入り雪華の元へ向かう。

「こちら、女子剣道部部長の凪静香(なぎしずか)さん。」

雪華が紹介すると、静香は改めて名乗った。

「はじめまして凪です。とりあえず、着替えて来れるかしら?せっちゃん、更衣室に案内してあげて。まだ、ロッカー空いてると思うから。」

雪華は『分かりました』と言うと、2人を更衣室へ連れて行った。着替える途中、隣で着替えているなるみが話しかけてきた。

「なぁ友梨菜。あの静香さんって人、メッチャ綺麗かったよなぁ?」

「そうだね。なんか、オーラが違った。」

静香は、長めの黒髪ストレートを後ろで纏めていた。それだけであれば普通なのだが、髪の見た目の質感や立ち居振る舞いから、美人のオーラが見て取れた。着替えて外に出ると、待っていた雪華と一緒に道場へ向かった。

 稽古前に、友梨菜となるみが春から加わる事が静香から伝えられる。女子剣道部は10人に満たない小規模だが、毎年インカレの全国大会常連校で、優勝を目標にしている。今年の新入生は、2人だけ。先輩達は、2人の実力に興味津々のようだ。強豪校という割には、全体のルールは厳しくなく、各々が自分に厳しいというある意味自立している集団のようだ。雰囲気も和気藹々としていて悪くはない。春に向けてワクワクしてくる友梨菜であった。

 抑え気味という練習量に息切れし、今後の増え方に一抹の不安を抱えた友梨菜。その日の練習を乗り切ると、なるみと共に静香に食堂に誘われた。何故か雪華も合流し、4人で食堂へ向かうと、食券機の前で静香が財布を取り出した。

「2人とも、何食べたい?」

「え?いいんですか?」

静香の行動に確認を取るなるみ。

「いいよ。今日は少しやりすぎちゃったからね。奢るわ。」

すると、雪華がすかさず便乗する。

「あ、静香さん。私もいいですか?」

「せっちゃんはダメと言いたいところだけど、仕事してもらったからいいわ。」

「やったー。私カレーで。」

雪華がお金を受け取って食券機に並ぶ。友梨菜となるみがメニュー表を覗き込んでいると、静香がアドバイスしてくれた。

「色々あるけど、私のおすすめはこれ。」

静香が醤油ラーメンを指さす。

「私、ラーメン好きでね。学食のトップはこれよ。」

するとなるみが、同調する。

「ウチもラーメン好きなんで、これにします。」

友梨菜はラーメンに二の足を踏んだ末、ハンバーグ定食にした。

「私はこれにします。」

静香からお金をもらい、食券を購入する。料理を受け取って、雪華が場所取りしていた席に着くと、4人で食べ始めた。友梨菜のお皿には、彼女が知っているよりひとまわり大きなハンバーグに、デミグラスソースがふんだんにかけられている。付け合わせの野菜も、それなりの量あり、なかなかボリューミーな印象だ。味は、大学の学食なだけあって文句はなかった。大学生が安価な値段でお腹を満たせるように考えられているのがよく分かった。特に、自分のような体育会系にはぴったりだと思う友梨菜だった。

 食事中の会話では、なるみが先輩達にあれこれ聞いていた。

「雪華さんって、彼氏とかおるんですか?」

話を振られた雪華は、少し慌てる。

「え!?かっ、彼氏!?えっと、なんで?」

なるみは、キョトンとして返す。

「いや、素直に先輩方って彼氏おんのかなぁと思いまして。」

すると、静香が横から口を挟む。

「せっちゃんはねぇ〜。男相手だと、急に縮こまっちゃって。まだ難しいかしら?」

意外と気さくな人なのかもしれないと感じる友梨菜。雪華は、顔を赤くして静香に反論する。

「もう。静香さんやめて下さいよぉ。後輩の前で言わないでください。」

小さく笑っている静香となるみ。すると、静香がなるみに聞いた。

「なるみちゃんは、彼氏が欲しいの?」

「はい。高校の時付き合ってた彼氏と別れちゃったので。」

サラッと過去を暴露するなるみ。すると、雪華も質問した。

「なんで別れたの?」

「いや、別に喧嘩したわけじゃないんですけど。私が東京行ってくるって言ったら、『遠距離は嫌やから、どうしても行くんなら別れる。』って言われて。」

その時、静香が感嘆を示した。

「なるみちゃんは強いね。そっかぁ、男より剣を選んだんだ。ちなみに、友梨菜ちゃんは?」

突然話を振られ、少し慌てる友梨菜。

「わっ、私は全然。剣道やり過ぎて、彼氏とかいたことないです……。」

その返答に、静香は小さく笑うとこう返した。

「やっぱり。そんな気がしたなぁ。そんな雰囲気がしたもんね。さっきやった時。」

「やっぱり、そういうのって分かるんですか?」

友梨菜も、静香の構えからは只ならぬ雰囲気を感じていただけに、自分の構えから何を感じたのか知りたくなった。そんな友梨菜に頷いてみせる静香。すると、雪華が静香に質問した。

「じゃあ、静香さん。私はどうですか?」

「ん?せっちゃんはねぇ……なんて言うんだろ?ハムスター、みたいな感じかな?」

「え?それって、褒めてます?」

静香が綺麗に落として、場が談笑に包まれた。

 食べ終わると、2人に見送られながらなるみと駅に向かう。同じ新幹線に乗り込むと、友梨菜が降りる前に連絡先の交換をして別れた。春からのキャンパスライフが少し楽しみになるような1日だった。 

お読みいただきありがとうございます。

前回に引き続きプロローグでしたが、主要キャラ2人が出会う前の話でした。次回からは、本編を公開予定ですので、宜しければ次回の更新をお待ちください。

引き続き感想やブクマ、いいね等お待ちしていますので、宜しければ本作の各項目や作者名で開設中のTwitterにてお聞かせください。今後ともよろしくお願いします。

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