第九話 疑惑
昭和十九年九月十二日 巡洋艦「大河」機関室 倉庫
一真が帰還して数時間後、メルセデスはお気に入りのドレスを着て、一人で機関室を訪れていた。
「カズマったら、こんな所に一人で呼び出すなんて、なんの話なのかしら。うふふっ」
(回想)ボート内
島から戻るボートの中で、一真はメルセデスの耳元に囁いた。
「大事な話があるんだ。後で機関室の倉庫に来て欲しい」
巡洋艦「大河」機関室 倉庫
「これはきっと、あれよね。愛の告白?きゃー」
メルセデスは顔を真っ赤にして、両手で顔を覆った。
(妄想)
「メルセデス。俺は死にかけて初めてわかった。俺達軍人は明日をも知れぬ命だ。後悔したくない。やっと自分の気持ちに気が付いたんだ。メルセデス、俺は君が好きだ」
「カズマ・・・私も・・・」
巡洋艦「大河」機関室 倉庫
「なーんて言われるのかしら。カズマったらもう。日本男児なんだから」
メルセデスは独り言を言いながら、倉庫の扉を開けた。
「カズマ?」
返事はない。メルセデスは薄暗い倉庫の中に入った。
「まだ来てないのかしら。きっと、告白の台詞を考えてるのね。ああでも、お兄様にはなんて言おう。きっと相手がカズマなら許してくれるわよね」
両手を頬にあて、独り言を続けるメルセデスの口元を、突然背後から何者かが布で塞いだ。
「んんっ?」
メルセデスは、驚いて目を見開いた。
数分後、一真が倉庫のドアを開けると、中から拓斗がげっそりとした様子で顔を出した。
「やっと来たか一真。早くこれ、なんとかしてくれよ」
倉庫の中には、椅子に縛られたメルセデスが、大声で叫んでいる。
「ちょっとタクト!女の子になんて事するのよ!この変態!変態!変態変態変態!」
「さっきからずっと、この調子だよ。俺はもう、心が折れそうだ」
「あ、ああ。すまなかったな」
一真が倉庫に入ると、メルセデスの顔がぱっと明るくなった。
「あっカズマ、助けに来てくれたのね!ちょっと聞いて、タクトったらいきなり私を椅子に縛りつけたのよ!もう絶対に許さないんだから」
「ああ、俺が頼んだんだ」
「えっ、どういう事?カズマ」
一真は答えずに、拳銃を取り出してメルセデスの頭に突き付けた。
「お、おい、一真?」
拓斗が驚いた声をあげる。
メルセデスが怯えた顔になった。
「えっ、ちょっと、冗談でしょ?何、何なのカズマ!」
「質問に答えてくれ、メルセデス。オーパーツについて、君はどこまで知っているんだ?」
「オーパーツ?」
「オーパーツはどこで生産されている?原理は?開発者は誰だ?」
「し、知らないわ。最高軍事機密だもの」
「本当か?」
「本当よ!私はエンジンと機体の設計担当で、それ以外は専門外だもの」
「質問を変える。『アルファ』について知っている事は?」
「アルファ?何の事?」
「君なら知っているはずだ」
「知らないわ!お願い!信じてよカズマ!」
「そうか。答えないなら仕方がないな」
カズマは銃の安全装置を外し、再び構えた。
「おい、ちょ、ちょっと待てよ一真。まさか本気か?」
拓人が慌てて止めようとする。
「やめて、お願いカズマ!」
メルセデスは目をつぶり、一真は引き金を引いた。しかし弾丸は発射されず、カチッという空撃ちの音が室内に響いた。
一真はいつもの優しい顔に戻り、メルセデスを縛っていた縄を解いた。
「すまなかった、本当に。君が敵じゃないことを確認したかったんだ」
メルセデスの水色の両目から、だーっと涙が流れた。
「ううー、何なのよ本当に!カズマの馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!」
メルセデスは、一真の胸をぽかぽかと叩いた。
「ごめんよ。でも君が敵じゃなくて本当に良かった。今から詳しい事情を話すから」
「ごっごめん!メルセデス。まさか一真がここまでやるとは思わなかったんだよ」
拓斗がおろおろしながらメルセデスに言う。
「ぐすっ、ぐすっ、カズマはいいけど、タクトは許さないわ」
メルセデスが泣きじゃくりながら言う。
「だから何故だー!」
拓斗は頭をかかえた。
それから暫くして、ようやく落ち着いたメルセデスと、一真、拓人の3人は、倉庫の中でそれぞれ椅子に座り、三角に向かい合っていた。
「さて、それじゃあ話して貰おうか。俺達にこんな事をさせた理由をさ」
拓斗が一真に聞いた。
一真は頷いて、話し始めた。
「島に墜落して遭難している間、俺はアメリカ空軍の士官と一緒にいたんだ。ギリアムという人で、俺の兄さんの・・・友人だったらしい」
メルセデスは、その名前に聞き覚えがあった。
「ギリアム?ギリアム・アンダーソン空軍大尉ね。噂は聞いた事があるわ。アメリカ空軍のエースパイロットで、『鷹の英雄』って呼ばれてる。カズマのお兄さんは、『東洋の撃墜王』マサト・ハヤセ少佐ね」
「兄さんは俺の目の前で、ギリアムと戦って戦死した。でもその時、兄さんはギリアムに、ある情報を残していたんだ」
「情報?どんな?」
「うん・・・普通なら信じられない話かも知れないが、聞いて欲しい」
一真は、島での出来事を話し始めた。
(回想)昭和十九年九月五日 伊豆諸島 鳥島
夜がふけると、ギリアムは一真に背を向けて、腕を枕にして眠っていた。
一真もまた、焚火を挟んでギリアムに背を向けて横になっていたが、その目は閉じていなかった。
一真はゆっくりと起き上がり、魚を獲る時に使った木の銛を地面から拾い、短く手に握った。
音を立てずにギリアムの背後に忍び寄り、腰にある拳銃にそっと手を伸ばした。緊張で僅かに手が震える。
その時、突然ギリアムが喋った。
「君が私を殺すのならそれでもいいが、その前に君に聞いて貰いたい事がある」
一真は驚いて、手に持った銛を握り直した。
ギリアムはゆっくりと半身を起こし、一真に向き直って座った。
「君の兄さんは死ぬ前に、私にある情報を伝えた」
「兄さんが?敵であるお前に?」
「信じられないのも無理はない。だが聞いて欲しい。彼は最後に、私にこう言ったんだ」
(回想)昭和十九年七月十一日ー 香川県坂出市 坂出港 貨物置場
ギリアムの乗るコルセアと、征人の零式が共に仰向けに横たわっていた。
「今の動き、怪我をしていたのか。しかし見事な戦いぶりだった。マサト」
ギリアムはコルセアを立ち上がらせて剣を拾い、征人の零式を見下ろした。零式は大破し、完全に沈黙している。
視界の端に、白い軍服を着た少年兵が2人、走ってくるのが見えた。
「ギ、ギリアム・・・」
零式の拡声器から、征人の声が聞こえた。
「マサト?」
「聞け、ギリアム。日本とアメリカ、それだけではない、ドイツやイギリスをはじめ、世界各国の有翼機甲兵には、全て共通のオーパーツが使われている」
「なんだと?どういう事だ?」
「型式や形状は国によって異なるが、元となる技術は全て同じものだ。そしてそれは、何者かによって世界中の兵器工廠に秘密裏に供与されている。オーパーツの製造元を調べろ。それは、『アルファ』に繋がっている」
「アルファだと?なんだそれは」
ギリアムは思わず尋ねた。
「気をつけろギリアム。この戦争は、何者かに操られている」
ギリアムは更に尋ねたかったが、白い軍服を着て走る一真が、間近まで迫って来ていた。
「わかった。憶えておこう。さらばだマサト」
ギリアムはコクピットの中ので敬礼すると、コルセアのプロペラを回転させ、低く滑空してその場を離脱した。一陣の風が舞い、一真の周囲を砂埃が巻き込んだ。
(回想)昭和十九年九月五日 伊豆諸島 鳥島
「戦争が・・操られている?兄さんが、そんな事を・・・」
「私も最初に聞いた時は信じられなかった。しかし、その視点を持って見ると、この戦争は、なにかおかしいと思い始めた」
「そんな・・・そんな事が・・・」
「君が気を失っている間に、君の戦闘機を調べさせて貰った。通常、撃破したり鹵獲した敵の機体は、軍が速やかに回収して本国の研究所へ移送される。私も日本の有翼機甲兵の内部を見るのは初めてだった。やはりアメリカの有翼機甲兵とほぼ同じオーパーツが多数、使用されていたよ」
「そんな・・・信じられない」
「君は、有翼機甲兵に使われるオーパーツについて、どれだけ知っている?」
「機体の発動機や関節のモーターなどの主要部品の事だろう」
一真は、兵学校の軍事教練で教えられた知識で答えた。
「その部品を、日本のどの工場で生産しているのか知っているか?」
「それは最重要機密で・・・」
「そうだろうな。だが最重要機密のはずのオーパーツが、どの主要国でも同じように生産されている。おかしいとは思わないか?」
「それは・・・」
一真は答えられなかった。
ギリアムは立ち上がり、大破したコルセアに歩いて向かった。そして残骸の中から、複雑な配線が伸びている箱を引きずり出して、一真に見せた。
「これは機体のメインコントローラーユニットだ。恐ろしく頑丈な箱に入っていて、中の仕組みはわからない。完全なブラックボックスだ。操縦席に繋がり、パイロットの操作するボタン、レバー、ペダルの組み合わせを電気信号としてこの機械に送信すると、機体各部の別のユニットに制御信号を送り、関節を駆動して無数のモーションを再現する。本来なら機体を歩行させるだけでも膨大な量の計算と命令が必要なはずだが、この機械は瞬時にそれを計算して機体を操っている」
「計算をする機械···これが···」
一真は絶句した。内燃機関やコイルの原理は理解していたが、この『計算機』は全く未知の技術だった。
「しかもこれは、パイロットの操作を記憶し、学習しているようなのだ」
「学習?機械が?」
「君にも身に覚えがあるだろう。自分と機体が一体化していくような感覚があったはずだ」
「・・・」
一真は押し黙った。確かに有翼機甲兵を駆っている時、その感覚を感じていた。
「学習する機械など、ほんの数年前には、この世界のどこにも存在しなかった。それが突然現れて、兵器として世界中に大量にばらまかれている、そう言ってもいいだろう」
「一体・・・どういう事なんだ・・・?」
一真は混乱していた。
「それだけではない。エンジン、装甲、モーター、センサーなど、機体の主要な部品であるオーパーツは、その全てが今の技術水準ではありえないほど高性能にできている。オーパーツとは本来、『その時代にはありえないはずの技術で作られた古代の遺物』を意味する言葉だ」
「この時代にはありえない物···有翼機甲兵が···」
一真はぞっとした。自分が乗って戦っていた戦闘機が急に、得体のしれない恐ろしい物に感じられた。
「オーパーツの技術を保有し、生産して各国の軍隊に供与している存在、それが征人の言う『アルファ』なのだろう」
「『アルファ』とは···一体何者なんだ?」
「それは私にもまだわからない。この戦争を操ろうとしいている人物の名前か、組織か、国家、或いは、もっと大きな存在を示すコードネームなのか、だが、アメリカ軍内部の何人かの兵器技術者は、噂でその名前を知っていた」
「組織や国家、或いはそれ以上の存在だと?」
一真は驚愕した。
「この状況から言えることは、世界各国の軍の高官、政府の官僚、政治家などに、アルファの協力者がいるはずだ」
「アルファに協力者が?」
「それも相当な人数がいるはずだ。そうでなければ、世界各国で同時にオーパーツを生産し、秘密裏に供与する事など不可能だろう」
「一体なぜ、そんな事をするんだ?」
「彼らの真の目的は不明だが、日本とアメリカなど、戦争を行う両方の国にオーパーツを供与する事で、この戦争を影からコントロールしているようだ」
「···兄さんはそんな事、俺には話してくれなかった」
「知ってしまえば、君はこの秘密について、もっと深く知ろうとするだろう。そうすれば、君は危険に晒される事になる。なにも知らないほうが、むしろ安全だ」
「どうして、あなたには話したんだ?」
「そうだな···」
ギリアムは、征人の最後を思い出しながら言った。
「わからないが、私がアルファではないと信じて、この情報を私に託してくれたのだろう。敵同士、戦いの最中にあっても、私とマサトは友人だったと、私はそう思っている」
ギリアムはそこで、一度言葉を切った。
「私の話は、これで終わりだ。少し話し疲れたな。今日はもう寝るとしよう」
ギリアムはベルトのホルスターから拳銃を取り出した。
「ああ、先程の続きだが、私を殺すなら、これで頭を撃つといい。君のその武器では、楽に死ねそうにないからな」
そう言ってギリアムは無造作に拳銃を砂の上に置くと、一真に背を向けて横になった。
一真は、自分がずっと木の銛を握っていた事を思い出した。
しばらく呆然とそれを見ていたが、やがて、それを投げ捨てて、砂の上に座り込んだ。ひどく頭が混乱していた。
眠りに落ちながら、ギリアムは考えた。
(気になるのは、アルファとはギリシャ語で数字の1。最初。或いは自分自身を現す言葉だ。アルファである『彼ら』から見れば、我々は一体何者なのだ?)
(現在)巡洋艦「大河」機関室 倉庫
「『アルファ』・・・戦争をコントロールしようとする存在・・・」
一真の長い話を聞いて、メルセデスもまた、混乱していた。
「いやあ、何というか、話がとんでもなさすぎて信じられないよ。お前の頭がどうかしたんじゃないかって思うぐらいだ」
拓斗が言った。
「まあ、そうだよな」
一真は苦笑した。
「ううん、私は信じるわ」
メルセデスが言った。
「私も、オーパーツの技術には、なにかとても異質な物を感じていたけど、軍からは機密だからと言われて、それ以上は考えないようにしていたの。今思えば、そういう風に思い込まされていたのかも知れないわ」
「いや、俺も信じてるよ。お前と、征人さんの言う事だからな」
拓斗が慌てて言う。
「ありがとう、二人とも」
一真がそう言って、3人は頷き合った。
「でも、これからどうする?アルファの正体を探るにしても、俺達一兵卒ではどうしようもないぞ」
拓斗が言った。
「そのためにも、メルセデスの協力がどうしても必要だったんだ」
「そうか!メルセデスならオーパーツの供給元を探れるかも知れないな」
「うん。やってみるわ」
「他にも誰か、仲間が必要だよなあ」
拓斗が言った。
「ああ。だがこの艦にもアルファの協力者がいるかもしれない。秘密を守るためには、なるべく少人数の方がいい」
一真が慎重に答えた。
「鬼塚艦長はどうだ?」
「俺もあの人は信用できると思う。少しずつ探りを入れてみよう」
「その必要はないぞ」
突然、扉が開いて、鬼塚が入ってきた。
「か、艦長?」
拓斗が驚いて叫んだ。
「この馬鹿どもが!話し声が扉の外まで丸聞こえだぞ」
「この機関室の騒音の中でですか?」
「俺の地獄耳をなめるなよ。この程度の騒音は邪魔にもならん」
「そ、それじゃ艦長、どこから聞いて・・・」
「最初からだ」
「ええー!」
3人が叫び、鬼塚は溜息をついた。
「まったく。お前らには諜報も尋問も向いておらんな。聞いてて恥ずかしかったぞ」
「面目ありません」
一真と拓斗は赤面してうなだれた。
「最初からってもしかして、私の独り言も?」
メルセデスが聞いた。
鬼塚は腕を組み、上を向いてなにかを思い出すような仕草をし、真面目な顔で言った。
「えーと、そうだなあ。確か、愛の告白がどうとか」
「きゃー!もういいです。思い出さないでー!」
「独り言って?」
今度は一真が聞く。
「なんでもないからっ!そうよねタクト!」
メルセデスが拓斗を睨みつける。
「え?ああ、そうそうなんでもないぞ一真」
拓斗が慌てて答える。
「もういいか?それじゃ、行くぞ」
鬼塚が痺れを切らしたように言った。
「は?どこへですか?」
拓斗が驚いて尋ねる。
「氷室技術大尉の所だ」
巡洋艦「大河」格納庫
格納庫の一角に仕切られた四畳ほどの部屋に、氷室は腕を組んで立っていた。
「とうとう君も、アルファの秘密に辿りついてしまったか。できれば巻き込みたくなかったが」
「氷室大尉殿は、どこまでご存じだったのですか?」
一真が尋ねた。
「私は、早瀬元艦長と共に、オーパーツとアルファについて調べていた」
「そうだったのですか」
「まったく、早瀬艦長も氷室大尉も人が悪い。私に話してくれてもよかったでしょうに」
鬼塚がぼやいた。
氷室が説明した。
「実のところ、私のような技術将校でも、有翼機甲兵のオーパーツに使われている技術を全て理解している訳ではない。我々は戦局に応じ、必要な性能を満たす機体を設計し、兵器工廠に発注して送られてくるオーパーツで機体を組み立て、武装を施して運用していたに過ぎないのだよ」
「そうだったんですか・・・」
一真が言った。
「ただし、このメルセデス少尉は別だ。ドイツから供与されたジェットエンジンのオーパーツを烈風に搭載して、風洞試験もなしに飛行させてしまった。これは並外た才能だ。彼女はまさに天才少女だよ」
氷室の説明に、メルセデスは得意そうにうんうんと頷いた。
「そうなのか。すごいな・・・」
拓斗が驚いて言った。
氷室は更に続けて言った。
「オーパーツが現在の技術水準ではあり得ない技術で作られている事は、世界中の兵器開発者達の間では、すでに公然の秘密になっている。しかし、それについて深く知ろうとした技術者は、軍の機密に触れたとして、アルファの協力者達に圧力をかけられ、兵器開発の現場から外される。中には脅迫され、当局によって身柄を拘束された者もいる」
「それは、ドイツでも聞いた事があるわ。私と一緒に有翼機甲兵の開発をしていた技術者にも何人か、突然いなくなった人がいるの」
メルセデスが暗い顔で言った。
氷室は続けて言った。
「しかし、これほどの兵器を大量に開発し生産するには、相当大規模な研究機関や工場が必要になるだろう。ところが、早瀬少佐のような将校や我々技術士官ですら、その場所を特定できなかった。おそらく、軍の内部には相当な人数のアルファの協力者がいるはずだ」
「アルファの協力者っていうのは、具体的にはどんな奴らなんですか?」
拓斗が聞いた。
「主には兵器の開発企業と、一部の軍の高官、政府の官僚と政治家達だろう。だが彼らのほとんどは、自分たちが大きな陰謀に利用されているとは知らないまま、オーパーツを独占する事で利益を得ている者達だ」
「どうしてそんな事ができるんだ・・・」
一真が悔しそうに言った。
「それだけ、オーパーツのもたらす利益は大きく、軍にとっては強力な戦力になるという事だ」
「冗談じゃない!」
突然、鬼塚が大声を出した。
「俺達軍人は、国のために命をかけて戦っているんだ。そんなわけのわからない連中のためじゃねえ!」
「艦長?」
一真は驚いた。いつもは厳しいながらも穏やかな鬼塚が、これほど怒りをあらわにするのを見るのは初めてだった。
「でなければ、早瀬艦長は、多くの戦友達は、なんのために死んで行ったんだ、、、」
鬼塚の握りしめた拳が、怒りでぶるぶると震えていた。
氷室が大きく頷いて言った。
「鬼塚艦長の言う通りだな。しかし、アルファの秘密に近づくのは非常に危険な行為だ。だからこそ早瀬将人艦長も、君たちに秘密を教えていなかった。早瀬一真少尉、君はそれでも、この秘密を追うつもりなのかね?」
氷室はそう言って一真を見つめ、答えを求めた。
「自分は・・・」
一真は目をつぶり、心の中で、志半ばで戦死した将人の無念を思った。
(兄さん、、、)
目を開けると、そこにいた全員が一真に注目して、答えを待っていた。
一真は皆に対してはっきりと宣言した。
「自分は、兄がやり残したことを受け継ぎたい。この戦争を影から操っているという「アルファ」の正体を突き止めたいと思います」
一真の言葉に、全員が大きく頷いた。
「うむ。ならば私も君に協力しよう」
氷室が満足そうに言った。
「俺も乗ったぞ。早瀬艦長には借りがあるし、アルファの存在を野放しにはできん」
鬼塚が言った。
「やろうぜ一真。俺も勿論手伝うよ」
「私も協力するわ」
拓斗とメルセデスが勢い込んで言った。
「みんな、ありがとう」
一真は笑顔で言った。仲間達の言葉が頼もしかった。
氷室は話を続けた。
「さて、私と早瀬少佐は、オーパーツの生産工場は特定できなかったが、その供給元については、ある程度の目星はつけていた」
「どこなのですか?」
一真が驚いて言った。
「佐世保や呉の兵器工廠ではない。そうなれば、恐らくここだ。ここに、大量のオーパーツが搬入され、さらに全国の工廠に送られている」
氷室は、机の上の地図の1点を指さした。
その場の全員が地図に注目する。
「技術大尉、ここは···!」
示された地図上の地点を見て、鬼塚が驚きの声を上げる。
「そうだ。我々の次の目的地、横須賀海軍工廠だ」
氷室が言った。
巡洋艦「大河」通路
一真達が話している格納庫の扉の外の通路で、扉に耳を当てて中の会話を聞いている人物がいた。
その人物は会話の内容をしばらく聞いていたが、やがて、そっと扉から離れて歩き去った。