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有翼の機甲師団  作者: ソルティー
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第五話 突破

昭和十九年八月一日 上海市街 繫華街


「あれはドイツ空軍のメッサーシュミット?でも・・・プロペラがないぞ?」

 拓斗が眼鏡に手を添えながら言う。 


「ものすごいスピードですね。烈風よりずっと速いですよ」

 翔太も驚きを隠せないように言った。



 メッサーシュミットMe262シュヴァルベに乗ったシュナイダーは、前方に飛行する烈風を見て、笑みを浮かべた。


 スロットルを倒し、翼のジェットエンジンを噴射させた。黄色い青白い炎が光を放つ。


 圧倒的な速度で烈風を追い抜きざまに、操縦席にいる一真とメルセデスの姿を視認した。


「やはり、それに乗っていたか」


 シュヴァルベは空中で人型の機動兵器に変形し、両腕で烈風の機体に取り付いた。


「うわっ」

「きゃあっ」


 烈風は失速し、急激に高度を下げる。地上に墜落する前に、人型に変形して機体のバランスを立て直した。

しかし、シュヴァルベは両腕で烈風の機体を押さえつけ、両肩にマウントしたジェットエンジンを吹かして、空中で加速する。


「なんて出力だ!」


 一真が驚愕の声を上げる。プロペラを回転させて加速に逆らうが、推力の差は歴然で、一方的に押し込まれた。


 烈風とシュヴァルベの進路に気象信号台があった。押さえつけられた烈風は背中から信号台に激突し、落下した。


「うわあっ」

「きゃああっ」


 一真とメルセデスは悲鳴を上げた。


 信号等の根元に背中を預け、座り込むように各坐した烈風の前方に、シュヴァルベがジェットエンジンを巧みに噴射しながら両足でゆっくりと着地する。


 シュヴァルベは、歩いて烈風に近づきながら、背中に背負っていた大剣を引き抜いた。烈風の前で立ち止まり、風防の付近に剣を突き付ける。シュナイダーが拡声器で呼びかけてきた。


「日本軍のパイロット、私はドイツ空軍のシュナイダー中尉だ。貴官の名は何と言う?」


「日本海軍、早瀬一真少尉だ」

一真も拡声器で応じた。


「カズマ·ハヤセ少尉か。メルセデスを渡してもらうぞ」


「断る」

「なにっ」


 烈風は、立ち上がりざま日本刀を抜刀してシュヴァルベの大剣を押し返すように跳ね上げ、刀を正眼に構えた。


「ほう、なかなかやるな。日本の有翼機甲兵フリューゲルパンツァー

 シュナイダーが不敵な笑みを浮かべた。


一真が拡声器で叫んだ。

「どんな作戦なのか知らないが、民間人の少女の命を狙うなど、軍人のやる事か!」


「何だと?」


「もう!お兄様!いいかげんにして!」

 突然、一真の膝の上でメルセデスが叫んだ。


「お、お兄様?」

 一真が驚いて、膝の上に座るメルセデスの顔を見る。


「メルセデス?」

 シュナイダーが動揺する。


「何なのこれは?まだ整備中のシュヴァルベまで持ち出して!」


「いや、あの、これは・・・」

 シュナイダーが狼狽した声を上げる。


「その機体を組み立てるのに、私がどれだけ苦労したか知ってるでしょ?それは日本軍に供与する予定の、我が軍の最高機密なのよ?1機しかないのに、壊れたらどうするのよ!」


「私は、お前の事を心配して・・・」


「またそうやって、勝手に勘違いして部下の人達に迷惑かけてるんでしょ?」


「ぐぬぬっ」



 その時、烈風とシュヴァルベの近くで、爆発が起こった。


「なんだ?」

 一真とシュナイダーは周りを見渡して、愕然とした。


 いつの間にか、烈風とシュヴァルベの周りに、数両の人型の移動砲台が接近していた。


「しまった!」

「取り囲まれた?」


 一真とシュナイダーが口々に叫ぶ。



巡洋艦「大河」艦橋


「中華民国軍だと?」

 鬼塚が驚きの声を上げる。


「はい。上海駐留の情報部からの報告では、民間商船のコンテナに潜んで、数両が上海の港湾地区に潜入しているようです」

 長瀬が鬼塚に報告する。


「しかし、敵の目的はなんだ?只の破壊工作とは思えんが・・・」

 鬼塚が腕を組んで考え込む。


「おそらく、今回の我々の作戦内容が漏れていたのでしょう」

 艦橋にいた、ハインリヒが発言した。


「なんだって?それじゃ、奴らの狙いは!」


「日本とドイツの新型有翼機甲兵フリューゲルパンツァー、烈風とシュヴァルベです」




上海市街 湾岸地区


 中華民国軍の移動砲台は、烈風とシュヴァルベを遠巻きに包囲していた。


有翼機甲兵のような飛行能力こそないが、移動砲台は対地、対空砲撃に特化した機動兵器で、中には白兵戦用の実剣を装備している機体もあった。


 烈風とシュヴァルベは、背中合わせになって、剣を構えていた。


「撃って来ないな。つまり、敵の目的は」


「俺達の機体を鹵獲するつもりですね」


「その通りだな。日本軍のパイロット。カズマと言ったな。君はメルセデスを連れて空から脱出しろ。ここは私が食い止める」


「無理よ。あれを見て」


 メルセデスが敵の移動砲台の兵装を指さした。


「対空砲があるわ。上昇したら加速する前に狙い撃ちされる」


「地上の包囲網を白兵戦で突破するしかないという事か。やむをえんな。カズマ、行くぞ!」


「はいっ」


 両機は並んで走り出した。その行く手を阻むように、2両の移動砲台が接近する。

 2両とも巨大な鉄の棒を装備し、ぶんぶんと振り回しながら接近してきた。


「破壊しない程度に、という事か」

 一真が言う。


「なめられたものだな」

 シュナイダーが呟いた。


シュヴァルベは両肩のジェットエンジンを軽く吹かせて一気に敵との間合いを詰め、大上段から斬撃を振るう。

 砲台は構えた鉄棒でシュヴァルベの大剣を受けたが、鉄棒ごと兜割りで真っ二つに切られ、爆散した。


「やああっ」

 一真が叫び、滑り込み込むように低く構えた姿勢から敵の間合いに入り、刀を振り上げる。

 鉄棒を握った砲台の両腕を切り落とし、返す刀で火砲の砲身を切り落として戦闘不能にした。

 腕を失くした砲台は横倒しに倒れ、そのまま立ち上がれなくなった。


 更に2両の移動砲台が、後ろから接近して来た。それぞれが青龍刀を装備している。

 移動砲台は中国武術の型で、片手で素早く振り回しながら接近してくる。


「ふん」


 シュナイダーは鼻で笑った。両手持ちの大剣を肩の高さに構え、切っ先を敵に向けると、鋭い突きを放った。大剣のリーチを活かした攻撃だった。


 敵は青龍刀で凌いだが、突き技はフェイントで、素早く上段からの斬撃が迫ってきた。敵はこれも青龍刀で受ける。鍔迫り合いになった。


 シュヴァルベは再びジェットエンジンを点火して、剣圧を上げて押し込んだ。力負けした移動砲台の肩関節が火を噴いた。

 崩れるように膝をつき、剣を押さえた両腕が次第に下がる。

 シュヴァルベはそのまま敵の頭部を大剣でねじ切った。



 その頃、敵の素早い連続攻撃を、烈風は後退しながら受けていたが、十数合打ち合ったところで、次第に烈風の剣速が上回りはじめた。

 逆に移動砲台が後退し始める。


 さらに数合、打ち合ったところで、烈風の刀が敵の青龍刀を跳ね上げた。青龍刀が空中で回転し、地上に落下するその前に、一真が気合を発し、烈風は敵の頭部に突きを入れて破壊した。



「これで終わりか?」


 破壊された移動砲台の残骸を見下ろしながら、シュヴァルベが大剣を背中に戻す。


「そのようですね」


 烈風も鍔を鳴らして腰に刀を収めた。


「なかなかの剣技だった。いい腕だな、カズマ」


「ありがとうございますシュナイダー中尉。あなたも」


「誤解があったようですまない。妹を助けてくれた礼を言う」


「いいんです。それより早く脱出しましょう」


「待って、まだいるわ」

 メルセデスが緊張した声で言った。


 辺りは爆散した移動砲台の残骸から上がる火炎と煙につつまれていた。


 港駅付近に敷設されている鉄道線路の上を、巨大な車両が近づいて来る車輪の音がした。


 やがて、たちこめる煙を抜けて、巨大な列車砲が姿を現した。


 列車砲は、烈風とシュヴァルベの付近で車輪の軋む音を立てながら停止すると、ゆっくりと変形を始めた。


 列車砲は、巨大な人型機動兵器に形を変え、立ち上がって一歩前に足を踏み出した。地響きと共に、地面が地震のように揺れた。


立ち上がった機動兵器は、一真達の戦闘機の2倍以上の大きさだった。


「なんだこいつは!」

 一真が驚愕する。


「ドイツ軍のシュベーレ・グスタフに似ているわ。多分同型機だと思う」

 メルセデスが言う。


 グスタフは、両腕に崑を装備し、さらに背中から2本の腕を展開し、4本腕になった。


「ふん、所詮は我が軍の模倣品だろう」

 シュナイダーはそう言い、機体を前進させた。


シュヴァルベが跳躍し、正面から大上段に剣を振るう。しかし、グスタフは2本の崑を交差させて、シュヴァルベの大剣を受け止め、更にもう2本の崑を薙ぎ払った。


 シュヴァルベは胴体に崑を受けて、弾き飛ばされる。衝撃でキャノピーにひびが入る。


「なんだと?」

 シュナイダーは驚愕した。


「気を付けて。白兵戦用に強化した改良をされてるわ」


「只のレプリカではないという事か」


「2人とも距離を取って。あの重量では動きは遅いはずよ。離れて銃で攻撃して」


「わかった。俺は敵の右に周ります。シュナイダーさんは左から攻撃してください」


「了解だ、カズマ」


 烈風とシュヴァルベは走りながら拳銃で銃撃した。


 しかし、グスタフの厚い装甲に拳銃の銃弾が弾き返される。


「効いてない?」


「まだよ。撃ち続けて。長期戦になれば必ずチャンスが来るはず」


「わかった」


 突然、グスタフはが背中の重砲を烈風に向けて発射した。

 烈風は跳躍して避けた。すさまじい爆発と衝撃が起こる。


「あれを食らったら、ひとたまりもないな」

 一真は冷や汗をかいた。


「ああ、もう鹵獲する気はないようだ」


「だが、確かに動きは遅い」


 メルセデスは、港の岸壁に重油の入った赤いドラム缶が積まれているのを発見した。


「カズマ、あれ!」

「わかった!」


 烈風がドラム缶を持ち上げ、グスタフに向かって投げる。


 グスタフはドラム缶を崑で薙ぎ払った。ドラム缶が裂けて、グスタフが重油を浴びる。


「成程、そういう作戦か」


 烈風に向かって行こうとするグスタフをシュヴァルベが背後から銃撃し、敵の注意を引く。


「こっちだ。かかって来い」

 シュヴァルベは更に剣を抜いて挑発する。グスタフがシュヴァルベに重砲を発射する。シュヴァルベは側転で回避した。


 その間に、烈風はさらに2個のドラム缶をグスタフに投げる。グスタフが崑で薙ぎ払う。


 「これで最後だ!」


 烈風が最後の1個のドラム缶を投げ、グスタフの頭上に飛んだところで拳銃を抜いて発砲した。


 重油に引火して、グスタフが炎上した。

 グスタフは2、3歩歩いた後、よろめいて膝を突き、各坐した。


「エンジンがオーバーヒートしたわ。2人とも今よ!」


「うおおおおお」

 一真が叫んで、正面から切りかかった。先程のシュヴァルベと同様、2本の崑で受け止められる。

 しかし、もう2本の崑の攻撃を宙返りで回避して、後方に跳んで着地した。


「おおおおっ」

 シュナイダーも同様に叫んで、シュヴァルベが背後から大剣でグスタフの胴体を貫いた。そのまま剣を離し、グスタフの機体を蹴って後方に跳んだ。


 炎上するグスタフは、機体からも炎を吹き出して爆散した。


「やったわ!」

 メルセデスが一真に抱き着いた。


「お、おい」

 一真は一瞬焦った表情をしたが、苦笑してメルセデスの頭を撫でた。




巡洋艦「大河」甲板


「この少女が技術士官?」


 鬼塚が頓狂な声を上げる。


 ドイツ軍の軍服を着て敬礼するメルセデスを取り巻いて、鬼塚以下大河の乗組員と、ドイツ軍U-700のクルーが集合していた。


 メルセデスの後ろには、シュナイダーが腕組みをして立っている。


「メルセデス少尉は、ドイツ軍の科学者早期育成ドクトリンの被験者第一号で、ジェット推進理論を学び、メッサーシュミットMe262シュヴァルベの開発に成功した天才少女なのですよ」

 ハインリヒが説明する。


「そしてその兄、シュナイダー中尉は、我がドイツ空軍では『銀翼の貴公子』の称号を持つエースパイロットなのですが、妹の事になると時々、常軌を逸した行動を取ってしまうのです」

 今度はルドルフが説明した。


「それは、なんと言いますか、残念ですな」

 鬼塚が疲れた声で言う。シュナイダーは意に介した様子もなく、腕を組んでポーズを取っていた。


「それで、メルセデス少尉の脱走の理由というのは?」


「それが・・・」

 ハインリヒとルドルフが暗い表情で顔を見合わせる。


「だって、着替えの洋服が欲しかったんですもの」


「買い物?それが理由ですか?」

 長瀬が驚いて尋ねる。


「外は危険だからってお兄様が外出させてくれないんだもの」

 メルセデスが口を尖らせて言った。



 一真、拓斗、翔太の3人は甲板で遠巻きにその様子を眺めていた。


「あはは、メルセデスも、ちょっと残念な子だったね」

 翔太が言う。


「あの兄にしてあの妹ありだな。俺たちのあの苦労は一体なんだったんだ」

 拓斗が、がっくりとうなだれる。


「まあ、いいんじゃないか」

 一真は鷹揚にいった。



「メルセデス少尉は技術顧問として、シュナイダー中尉はその護衛として大河に乗艦、横須賀に赴任するまで、その警護をお願いいたします」

 ハインリヒが敬礼して言う。


「りょ、了解です」

 鬼塚も及び腰で敬礼する。



「もしかして、技術顧問って言いながら、ドイツ軍から厄介な兄妹を押し付けられたんじゃ・・・」

 拓斗が言った。


 メルセデスが一真達に駆け寄って来て、敬礼して言った。

「メルセデス技術少尉、着任しました。これからよろしくね、みんな」


「ああ。よろしく」

 一真が笑顔で敬礼した。


「うふふっ」

メルセデスも笑顔になる。


 大河の甲板には、烈風とメッサーシュミットシュヴァルベが並んで立っていた。




巡洋艦「大河」整備室内


 薄暗い整備室の片隅で、氷室技術大尉は電球の灯りを頼りに、大きく引き伸ばされた写真を熱心に見ていた。


 写真には、烈風が戦った中華民国軍の移動砲台やグスタフが写っている。


 氷室は写真をじっと見つめて、独り言を呟く。

「中華民国軍までが、人型の機動兵器を自国開発し始めたという事か。彼らの工業力では機体の大部分は生産できても、肝心のオーパーツまでは作れないだろう。やはり何者かが供与しているのか」


 氷室は、格納庫の零式艦上戦闘機を見上げて言った。


「しかしそれは、我々も同じ事なのだ」


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