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水の貴婦人  作者: 貴神
3/4

(3)金の貴公子の家出

遂に家出をしてしまった金の貴公子です。


少しでも楽しんで戴けたら幸いです☆

夕食時になっても姿を見せない金の貴公子を翡翠の貴公子が執事に訊ねていると、


メイドが走って来た。


「大変です!! 金の貴公子様が何処にもいらっしゃらないんです!!」


メイドは半ばパニックで言う。


「部屋の窓だけ開いてて・・・・外は吹雪いているのに・・・・


コートも着て行かれてないんです!!」


金の貴公子が外へ飛んで行った事は明らかだった。


だが此の吹雪の中、コートも着ずに飛んで行くなど、余りに無謀である。


翡翠の貴公子は少し考えると、金の貴公子の部屋へ行こうとした。


だが其の翡翠の貴公子の腕を、水の貴婦人が掴んだ。


「放っておきましょう」


「・・・・・」


翡翠の貴公子が返答に困っていると、水の貴婦人は彼の腕を強引に引いた。


「彼だって子供じゃないのだから、それなりに身を寄せる場所くらい確保しているわ。


そんな事より、早く夕食を食べましょうよ」


半ば引き摺られる様に、翡翠の貴公子は水の貴婦人に食堂へと連れて行かれた。









刻が経つに連れ増す吹雪に、途と云う途には人影は無かった。


こんな日は高級娼館も随分と時間を持て余していた。


其の娼館の娼婦の一室では、


亜麻色の髪の美しい女が手持ち無沙汰にブランデーを傾け乍ら暖炉に当たっていた。


すると、ガタリと云う音が窓辺から聞こえた。


彼女シルフィーニは、びくりとして窓を振り返ると、恐る恐るカーテンの隙間から外を覗いて、


心臓を跳び上がらせた。


シルフィーニは慌てて窓を開けると、


「何してるの!! 早く入って!!」


窓辺に立っている青年の身体を引っ張る。


青年・・・・金の貴公子が突然窓辺に現れるのは、日常茶飯事だった。


たが今は、そんな悠長に迎えてはいられない。


「こんな薄着で来るだなんて・・・・!! 凍死するつもりなの?!」


シルフィーニは金の貴公子を暖炉の前へ連れて来ると、肩から毛布を掛け、


彼の金の髪に積もっている雪を払う。


そして、ウイスキーを少量グラスに入れると、金の貴公子に差し出した。


「温まるから飲んで・・・・」


金の貴公子はグラスを受け取ったものの、口へは運ばず、其れを握り締めたまま俯いていた。


そして・・・・


「凍死しても良かったな・・・・」


ぼそりと呟く。


いつにも増して弱気な金の貴公子にシルフィーニは息を飲むと、そっと彼を抱き締める。


「ふふ・・・・どうしたの??」


凍死なんか、しちゃ嫌よ。


優しく金の貴公子の頬にキスをする。


覗き込んでくるエメラルドの瞳に、金の貴公子は呟く。


「死にたい」


ぼんやりと暖炉の炎を見詰める。


「あんな女に、あの人を奪られるくらいなら・・・・死んだ方がマシだ」


吐き捨てる様に言う金の貴公子をシルフィーニは暫く見下ろしていたが、


立ち上がって自分のグラスを取って来ると、


「水の貴婦人様が戻られたのですってね」


ブランデーを傾け乍ら言う。


金の貴公子は一瞬目を見開くと、苦笑する。


「君は・・・・本当に、耳が早いねぇ」


シルフィーニは微笑する。


「ふふ。こう云う仕事をしているとね、殿方は何でも御話して下さるから」


貴族や富豪を相手にしている彼女ならば、水の貴婦人の帰省を知っていてもおかしくはなかった。


「ねぇ、此処に、ずっと居ていい??」


突然、問い掛けてくる金の貴公子に、シルフィーニはエメラルドの瞳を丸くする。


「どうしたの?? 急に??」


金の貴公子はシルフィーニを抱き締める。


「ずっと・・・・此処に居たい」


「今夜はいいわよ。でも・・・・ずっとは無理ねぇ」


金の貴公子はシルフィーニの額に自分の額を押し付けると、金の目を伏し目がちに言う。


「なら・・・・何処かで凍死する」


パチパチと暖炉の木が燃えている。


シルフィーニはクスクス笑うと、彼の長い金の睫毛にキスをした。


「ふふふ・・・・凍死されるのは・・・・困るわねぇ。


いいわ・・・・貴方の気が済むまで居なさいな・・・・」


ゆうるりと金の貴公子の首に腕を回す。


金の貴公子はグラスを置くと、彼女の身体に腕を回して口付けた。


其の儘シルフィーニの身体を床に押し倒し、熱い吐息を交わし乍ら金の貴公子は呟く。


「シルフィーニ・・・・俺・・・・君の事が一等好きだよ」


シルフィーニはくすくす笑う。


「そーお・・・・?? ・・・・ふふ・・・・私の何処が好き??」


金の貴公子は迷わず答えた。


「君のエメラルドの瞳・・・・」


シルフィーニは甘い接吻の雨を受け乍ら可笑しそうに笑い、


「貴方って本当に・・・・正直者ねぇ・・・・」


柔らかな金の髪を優しく優しく撫でた。









翌朝になっても、金の貴公子は翡翠の館に帰って来なかった。


翡翠の貴公子と水の貴婦人は相変わらず四六時中、仲睦まじくしていたが、


翡翠の貴公子の表情は何処か堅かった。


彼は金の貴公子の事を心配していた。


だが翡翠の貴公子が不安気な様子を見せる度に水の貴婦人は彼を抱き締め、


「心配する必要なんてないわ・・・・」


と耳元で甘く囁いた。









其の次の日の夕食時になっても、金の貴公子は姿を現さなかった。


今迄どんな時だろうと翡翠の貴公子が館に居る日は、


金の貴公子は夕食時までには帰って来ていた。


だが其の居候が姿を消してから、丸二日が経過していた。


翡翠の貴公子は自室の窓辺に立っていた。


やんわりと降る雪に霞んで、下弦の月が夜空に浮かび上がっている。


翡翠の貴公子は窓を開けた。


すると彼の皓い額に翡翠の紋が浮かび上がり、空中に鳥が現れる。


美しい翡翠の鷹は翼を広げると、一直線に寒空へと飛んで行く。


其のまま窓辺に立ち、翡翠の貴公子は虚空を見詰めている。


彼は「眼」だけを飛ばしていた。


やがて翡翠の貴公子は金の貴公子を見付けたが、其の時、


ノックと共に水の貴婦人が部屋に入って来た。


彼が直ぐに眼を戻すと、額に浮かび上がっていた紋が消えたが、水の貴婦人には一目瞭然だった。


「羽根を飛ばしていたのね」


微笑する水の貴婦人に翡翠の貴公子は答えない。


「そんなに、あの金の鳥さんが心配なの??」


「・・・・・」


黙っている翡翠の貴公子に水の貴婦人はクスクスと笑うと窓を閉め、


彼を暖炉の方へと引いて行く。


そして翡翠の貴公子を長椅子に座らせると、彼の唇に口付ける。


「もういいじゃない?? 勝手に出て行った人の事なんか・・・・」


水の貴婦人は翡翠の貴公子を押し倒すと、襟元を開けて、其の皓い鎖骨に接吻する。


「もう忘れなさい・・・・貴方は私だけ見ていればいいの・・・・私だけを愛しなさい・・・・」


「・・・・・」


翡翠の貴公子は沈黙の儘、虚ろに天井を眺めていた。









金の貴公子が娼婦のシルフィーニの部屋に泊り込んでから二日目の夜、


何かが窓をコンコンコンと叩く音が響いた。


始めは風の音かと思ったが、しつこくなる音に、シルフィーニは身を震わせた。


普段ならば金の貴公子が来たのだろうと思ってカーテンを開けるところだが、其の彼は今、


隣で眠っている。


シルフィーニは気味が悪くなって金の貴公子を起こした。


「ねぇ・・・・何か窓の外に居るみたい・・・・」


此処、三階なのに。


「んー??」


金の貴公子は欠伸をし乍ら起き上がると、裸の身体にガウンを着て窓辺へ近寄る。


そして、カーテンを開けてみると、其の窓の外に居るものに金の貴公子は目を瞠った。


「!!」


窓の外に居たのは・・・・見慣れた美しい翡翠の鷹であった。


翡翠の貴公子の・・・・羽根だ。


金の貴公子は咄嗟に窓を開けた。


そして引き寄せ様と腕を伸ばしたが・・・・指が届くあともう少しのところで、


翡翠の鷹は消えてしまった。


「・・・・・」


金の貴公子は呆然と鳥の消えた虚空を見詰める。


其処へ。


「何だった??」


シルフィーニが恐る恐る声を掛けてきた。


其の声に我に返った金の貴公子は首を振った。


「いや。何も居ないよ。やっぱり風の音だったみたいだ」


「そう。それなら良かった」


シルフィーニは安心して胸を撫で下ろした。


金の貴公子は窓を閉め、カーテンを閉めると、シルフィーニの居る寝台へと戻った。


そして彼女の柔らかい身体を抱き締め乍ら、


「・・・・俺・・・・帰らないから」


咽喉の奥で呟いた。

この御話は、まだ続きます。


絶賛、家出中の金の貴公子は、どうするのか?


続きを、御楽しみに☆


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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