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水の貴婦人  作者: 貴神
1/4

(1)水の貴婦人

金の貴公子のライバル、水の貴婦人の登場です☆


この御話は、本来、「異種たちの慰安旅行」の間で在った御話ですが、


御話を纏めるに渡り、後の公開となりました。


BL金の貴公子と、才女の水の貴婦人は、どうなるのか??


少しでも楽しんで戴けたら幸いです☆

翡翠ひすいの館の主の執務室では、夜が更けてからもランプの火が灯されていた。


迫る復活祭までの異種たちは実に多忙であった。


年内までに終わらせなければならない山積みの書類を、毎晩の様に夜更かししては、


翡翠ひすいの貴公子は、ひたすら捌いていた。


其の為、居候のきんの貴公子は大変暇を持て余していた。


最近の翡翠の貴公子は日中の殆ど館を空けていた。


そして夕暮れ時に帰っては食事と風呂を済ませ、また黙々と執務室に篭るのだ。


普段なら翡翠の貴公子が居ない間は、


あちらこちらに関係を結んでいる貴婦人の下へ遊びに行く金の貴公子なのだが、


こう寒くなってくると彼も外へ出るのは億劫だった。


御蔭で昼も夜も金の貴公子は暇を持て余していた。


パチリ・・・・。


暖炉にくべられた木が音を弾かせると、金の貴公子は、はっとして目を覚ました。


そうだった。


此処はあるじの部屋なのだ。


翡翠の貴公子が黙々とデスクワークをする傍ら、金の貴公子は暖炉の前で椅子に腰掛けた儘、


うとうとしていた。


其れを横目に見た翡翠の貴公子が言う。


「御前は、もう寝ろ。態々一緒に起きている必要はない」


だが金の貴公子は年甲斐もなく膨れっ面になる。


「なんだよぉ。俺、居たら、邪魔??」


「そうは言っていない」


「だったら、いいじゃん」


俺は好きで此処に居るんだ。


「大体さ、主がいけないんだよ」


ガウンの襟を寄せ乍ら、金の貴公子はぶつくさと言う。


其の言葉に、翡翠の貴公子はきょとんとした目をして金の貴公子を見る。


「主、最近、ちっとも相手してくれないじゃん」


「相手・・・・??」


日頃、何か、金の貴公子の相手をしていただろうか??


そう翡翠の貴公子は考えると、以前、


金の貴公子が夏風の貴婦人から棒術を教わっていた事を思い出した。


「棒術か?? 復活祭が終わったら見てやろう」


そんな事を言ってくる翡翠の貴公子に、金の貴公子は椅子を両拳で殴る。


「ちっがーう!! そんな訳ないだろっ!!」


「・・・・??」


じ・・・っと次の言葉を待っている翡翠の貴公子に、金の貴公子は「う・・・・」と呻くと、


「もう、いい!! 俺はマシュマロでも食う!!」


マシュマロを串に刺して、暖炉の火で焼き始める。


翡翠の貴公子は暫く不思議そうに金の貴公子を見ていたが、また机の上の書類に目を落とす。


それから、どのくらい経った頃だろうか??


窓辺に羽音が近付いて来たかと思うと、コンコンコンと窓硝子が鳴った。


「??」


窓辺に飛んで来る鳥は、大抵、同族の羽根である。


夏風なつかぜの貴婦人の羽根かな??


と思い、金の貴公子がカーテンを開けて窓を開けると、


冷たい空気と共に一羽の鳥が飛び込んで来た。


其れは見た事もない蒼い鳥だった。


何と云う鳥だろう??


妖しげな模様が全身にびっしりと入った、深い湖の様な蒼い蒼い鳥である。


「だ、だ、誰の羽根だ??」


金の貴公子が吃驚すると、其の鳥は真っ直ぐに翡翠の貴公子の下へ飛んで来た。


「・・・・・」


翡翠の貴公子は驚愕の眼差しを鳥に向ける。


だが鳥は翡翠の貴公子に擦り付くと、其の儘、すぅ・・・・と消えてしまった。


「な・・・何だ??」


金の貴公子は呆然としている。


今の鳥は明らかに同族の羽根で在る。


だが、あんな不可思議な模様の蒼い鳥は初めて見た。


一体、誰の羽根なのか・・・・??


金の貴公子が口をぱくぱくさせていると、翡翠の貴公子が静かに言った。


「彼女が・・・・帰って来る」


「・・・・え??」


金の貴公子は意味がよく判らないと云う様に瞬きをした。


翡翠の貴公子は、もう一度言った。


みずの貴婦人が帰って来る」









其れは金の貴公子にとって、天変地異の如くであった。


其の晩、遅くに自室の寝室へ戻った金の貴公子は、眠りに就く事が出来なかった。


「水の貴婦人・・・・」


水の貴婦人と、主は言ったか??


いや、確かに主は、水の貴婦人と言った。


水の貴婦人とは・・・・以前、夏風の貴婦人が言っていた、


「あ、主の、恋人・・・・!!」


うおおおお!! と金の貴公子は毛布の中で頭を抱える。


彼の胸中は果てしなく嵐が吹き荒れていた。


一度は見てみたいとは思っていた。


だが、いざ其の時が来ると、金の貴公子はどうにも落ち着かなかった。


「ど・・・どんな女なんだろう??」


あの翡翠の貴公子が惚れる女とは・・・・??


其の謎の女の姿を目にする日が遂に来てしまったのだ。


しかし其れは、まるで開けてはならぬ扉の如く、


危険なシグナルが金の貴公子の胸中に鳴り響いていた。









あの妖しげな鳥が来てから、二日後。


翡翠の貴公子が言った通り、とうとう水の貴婦人が翡翠の館を訪れた。


「おかえりなさいませ」


メイド達の一斉の声と共に玄関先に現れたのは・・・・銀狐の毛皮を纏った背の高い、


それはそれは美しい女だった。


足首まで在ろう長い長い蒼い髪に、まるで湖の底の様な蒼い瞳。


玄関まで出迎えに来た翡翠の貴公子に水の貴婦人は歩み寄ると、


「只今。私の愛しい愛しい、翡翠の貴公子」


翡翠の貴公子の首に腕を回し、彼の唇に口付ける。


翡翠の貴公子も水の貴婦人の身体に腕を回すと、


まるで待ちわびていたかの様に自分の方から彼女の唇に接吻する。


其の光景に、二階の廊下から見下ろしていた金の貴公子は目を疑った。


あんな翡翠の貴公子の姿は見た事がない!!


主の意識全てが、あの蒼い女に向けられている!!


あんな見惚れた眼差しを、主が誰かに注ぐなんて事が本当に在るとは!!


夏風の貴婦人に対してすら、あれ程の熱い眼差しを翡翠の貴公子が向けた事はない。


あれが・・・・恋人と、そうでない者との差なのだろうか・・・・??


吹き抜けになっている一階を金の貴公子が呆然と見下ろしていると、


翡翠の貴公子の背中越しに水の貴婦人と目が合ってしまった。


湖の様な蒼い瞳が金の貴公子を見上げると、次の瞬間、笑った。


挿絵(By みてみん)


にこりと・・・・と云うには余りに冷ややかな・・・・まるで氷の微笑の様であった。


其の余りの冷たさに、金の貴公子は思わず背筋がぞくりとする。


「部屋で着替えたいのだけど」


水の貴婦人の声が小さく聞こえる。


「どうぞ。いつもの御部屋を御用意しております」


執事の言葉に頷くと、水の貴婦人は翡翠の貴公子から身体を離し、慣れた様に階段を上り始める。


上がって来た水の貴婦人に初めて面と向かい合った金の貴公子は、言葉に詰まってしまった。


近くで見ると彼女の美しさは一層際立って見える。


ぼんやりとしている金の貴公子の前に来ると、水の貴婦人はにこりと笑った。


「はじめまして」


血色のない白い手を差し出されて、金の貴公子は慌てて握り返す。


いつものプレイボーイ振りは何処へいったのか、金の貴公子は、


「はじめまして」


と言うのが精一杯であった。


が、彼女の手の余りの冷たさに金の貴公子は吃驚する。


「どうされましたの??」


にこりと笑って問い掛けてくる水の貴婦人に、金の貴公子は、


「い、いや」


慌てて首を振る。


水の貴婦人は手を離すと、にこにこと笑い乍ら金の貴公子の横を通り過ぎようとしたが、


次の瞬間、口の端で笑って言った。


「やぁねぇ・・・・少し彼の傍を離れていると、直ぐ虫が付くのだもの。今回はきんの虫ね」


「??」


思わず金の貴公子が振り返ると、水の貴婦人は蒼い瞳で更に言った。


「夏風の貴婦人だけでも鬱陶しいのに」


嫌だわ。


にやり、と笑う。


其の儘、水の貴婦人は奥の部屋へと姿を消した。


金の貴公子は其の場に微動だに出来なかった。


呆然として突っ立っている金の貴公子の下へ、翡翠の貴公子が遅れて階段を上って来る。


「何をしている??」


不思議そうに声を掛けてくる、翡翠の貴公子。


金の貴公子は翡翠の貴公子の顔を見下ろすと、


「何でもないっ!!」


自分の部屋へと駆けて行き、背中で扉を閉める。


そして背中から扉に寄り掛かる。


彼の心臓は、ばくばくと激しい音を立てていた。


「なんて・・・・」


なんて冷たい女だろう・・・・??


まるで凍て付く氷の様な女だ・・・・。


長寿の同族だとは聞いていたが、あの雰囲気は何なのだ??


同族最長寿のかいの貴婦人も遥かに人間離れした雰囲気を纏っているが、あの女は、


まるで永い永い歳月を生きてきた妖女の様だ・・・・。


あんな女が主の恋人などと、金の貴公子は到底信じられなかった。


何より夏風の貴婦人とは全く正反対の女じゃないか!!


冷ややかに、だが何処か人を見下す様な水の貴婦人の微笑が、


金の貴公子の眼差しに張り付いている。


金の貴公子は己の顔に手を当てると、指の間から天井を睨み上げ、


「俺・・・・あの女、嫌いだ」


ぼそりと呟いた。









一方、東部と南部の境に在る太陽たいようの館では、


夏風の貴婦人とらんの貴婦人がデスクワークに励んでいた。


すると窓辺に一羽の鳥が現れた。


美しい翡翠の鷹が窓の外に浮かんでいる。


其れを目敏く見付けた蘭の貴婦人は、


「きゃああ!! 主の羽根だわ!!」


顔を輝かせると、窓を開ける。


そして翡翠の鳥をガシリと抱き抱えると、此処ぞとばかりにキスの雨を落とす。


苦しそうにしている翡翠の鷹を蘭の貴婦人は夏風の貴婦人の下へ運んで来ると、


其の翡翠の足を差し出す。


翡翠の鷹の足には小さな銀のホールが付いていた。


其の中から夏風の貴婦人が一枚の紙を取り出すと、翡翠の鷹は、すぅ・・・と姿を消した。


「ああ!! もう消えちゃった!!」


嘆く蘭の貴婦人を無視して、夏風の貴婦人は紙を開く。


其の紙面を見た夏風の貴婦人は顔色一つ変えなかった。


其の様子は豪快な彼女にしては珍しい事だった。


「どうしたの??」


蘭の貴婦人が訊ねてくると、夏風の貴婦人は紙切れを机に置き、


「水の貴婦人が帰って来た」


抑揚の無い声で答えた。


蘭の貴婦人は丸い桃色の瞳を更にまん丸にすると、


「えええぇぇっ!!」


大声を出す。


「水の貴婦人て・・・・あの、ええと・・・・前、言ってた・・・・主の恋人?!」


「そう」


「ええええ!!」


激しいリアクションを見せる蘭の貴婦人を余所目に夏風の貴婦人は、


ジャラジャラとベルを鳴らす。


直ぐに執事が現れると、


「水の貴婦人が帰って来たわ。臨時会議とって。あと疲れたから麦酒持って来て」


ぶっきらぼうに言う。


「かしこまりました」と一言残して執事が去ると、蘭の貴婦人は机に身を乗り出した。


「ねぇ!! ねぇ!! ねぇ!! どんな?? どんな女なの?!」


翡翠の貴公子の恋人だと云う事が恐ろしくショックでは在るが、やはり気になってしまう。


「どんな・・・・ねぇ。次の会議に一緒に来れば逢えるわよ」


夏風の貴婦人は机に頬杖を着く。


「行っていいの??」


目を輝かせる蘭の貴婦人に、夏風の貴婦人は頷いた。


「行く!! 行く!! 行くっ!!」


拳を握り締める蘭の貴婦人は、だが、はたと気が付いた。


「もしかして!! 主も出席するの??」


真剣な眼差しで見詰めてくる蘭の貴婦人に、夏風の貴婦人は面倒臭そうに頷いた。


「やったー!!」


翡翠の貴公子に片想いをして、早二年。


とにもかくにも彼に逢える事が嬉しい、蘭の貴婦人である。


蘭の貴婦人が一人で舞い上がっていると、執事が冷えた麦酒を運んで来た。


夏風の貴婦人は麦酒ジョッキを掴むと、ゴクゴク・・・・と一気に飲む。


そして、ぷはーっと息を吐くと、執事に言った。


「あ。会議。蘭の貴婦人も連れて行くから。あと、いつも通りあかの貴婦人もね」


そう言って再び麦酒を飲み始める夏風の貴婦人に、執事は頷く。


執事が部屋を出て行くと、夏風の貴婦人は再度ぷはーっと息を吐き、


いつになく感情を見せない表情になる。


「どうしたの??」


蘭の貴婦人が机に座って訊ねると、


「苦手なのよ・・・・」


夏風の貴婦人は小さく呟いた。









外交官の水の貴婦人がゼルシェン大陸へ帰って来ると、


南部と東部議事堂では必ず臨時会議が開かれる事になっていた。


外交官の彼女は単身で海を越えた遠方の国と交渉をし、


数年に渡り遠い未踏の文化や国情を調べて来ては、


更には何かしら条約を必ず取って来る才女で在った。


賢者の様な頭脳と彼女の妖艶な美しさは驚異的な存在感を醸し出し、


政界の中でも決して歯向かえる者は居なかった。


普段ならば異種に対して物珍しく噂し、


叶うものなら何とかして身内へ取り込めないかと考える貴族や富豪たちも、


水の貴婦人に至っては畏れを抱いていた。


「異種ってのは人間じゃないと云うが・・・・水の貴婦人を見ていると、正にそうだと思うね」


そう囁かれるだけ在って、「人」として認識するには、


水の貴婦人は余りに懸け離れたオーラを持った異種で在った。


長寿の異種独特の雰囲気と云うべきか・・・・。


とにかく人間だけに留まらず同族の間でも、かいの貴婦人同様、


彼女は一目置かれる存在で在った。


其の為、水の貴婦人が参加する会議は、多くの者たちにとって緊張の糸が張り詰めるものなのだ。


臨時会議、当日、夏風の貴婦人は蘭の貴婦人と赤の貴婦人を連れて会議場を訪れた。


会議が始まる前に、夏風の貴婦人は久し振りに翡翠の貴公子と話がしたいと思っていた。


最後に逢ったのは夏の終わりの視察以来である。


翡翠の貴公子が控えているで在ろう部屋の回廊に夏風の貴婦人が入ると、タイミングの良い事に、


翡翠の貴公子が丁度部屋から出て来たところだった。


「ハイ!!」


夏風の貴婦人がウィンクする。


二ヶ月振りの再会だ。


「会議、終わったら・・・・」


少し遊ぼう。


そう夏風の貴婦人が言おうとした時、


「あら?? 御久し振り。夏風の御嬢さん」


蒼く長い髪を結い上げた水の貴婦人が現れる。


そして翡翠の貴公子の腕を取る。


「さぁ。行きましょう」


湖の様な蒼い瞳で翡翠の貴公子を見上げる。


翡翠の貴公子は迷った様に夏風の貴婦人を振り返った。


だが、


「さぁ、私と一緒に来なさい」


再度、水の貴婦人に言われて、


「ごめん・・・・」


そう呟くと、翡翠の貴公子は水の貴婦人と共に行ってしまった。


残された夏風の貴婦人は、


「謝らなくていい・・・・」


一人ぼやいて回廊の高い高い窓を見上げる。


謝られたら惨めだ・・・・。


水の貴婦人が帰って来ると、もう普段通りに幼馴染みに声すら掛けられやしないのだ・・・・。

この御話は、まだ続きます。


初めて出逢った水の貴婦人に、不穏な空気を感じる金の貴公子は。。。。


続きを、御楽しみに☆


少しでも楽しんで戴けましたら、コメント下さると励みになります☆

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