故郷崩壊編中編
ー俺はラウル村のために生きよう
例えこの身をささげてでもー
byレイター・ハーン
あれから兄貴とたわいもないおしゃべりをしていると馬車がやってきた。
「お別れだな、レイター。また会える事を願ってるよ」
「俺もです、兄貴…」
なんでだろう、悲しいのに泣きたくてたまらないのにこれから殺されてしまうかもしれない恐怖で泣けない。
「大丈夫…、はいこれお守り」
俺のふるえる手を兄貴がぎゅっと握ってくれた。暖かくて少し落ち着いた様な気がする。お守りも渡してくれた。って、何これ?
「こ、交通安全…?ブッ、なんてものくれるんですか兄貴」
「これしか無かったんだからしょうがないだろう!」
あんまりにも急だったしね。ってまさか…
「夜から買いに行ったんですか?」
「あ、ああ…」
そう言うと兄貴は恥ずかしそうに頭をポリポリかいている。兄貴にもかわいい所があるんだなー。
「兄貴、大好きです!」
「って、おわっ!急に抱きついてくるなよレイター」
「すみませんが、そろそろ出発してもよろしいでしょうか?」
良いタイミングで馬車の人が声をかけてきた。
「ああ、じゃあな、レイター。また会える日まで…」
ものすごく寂しそうな顔をした兄貴は馬車から俺が見えなくなるまで手を振っていた…
兄貴の顔が見えなくなった後、俺は馬車の人に声をかけてみることにした。
「馬車の人さんも心配じゃないんですか?」
「何がですか?」
うーん、ラウル村まで遠いからか馬車の人も急いでいる感じだ。
「あなたもラウル村の話は聞いていますよね?その…ラウル村に援助しようとしたら殺されるって」
「聞いてはいますし実際に私と同じ職場の同業の方が被害に遭われた方もいるようですが…どうやら中に乗っていた人だけが殺されその人は何もされず無事だったようです。相手も王様直属の暗殺部隊のようですし最近はこの業界は人手不足も激しいのでわざと狙いから外している感じではないでしょうか?だからもしあなたが狙われても私は大丈夫です」
冷たい感じの人だなー。
「でも、怖くない?目の前でそういう事があるのは…」
「あなたは知らないのかもしれないですけど意外と私も修羅場をくぐり抜けてきているのですよ。だから大丈夫です!」
「えー、年は?若く見えるけど…」
「28です」
「そうなんだ!23くらいに見えていました!若く見えるんですね!」
「くっ、童顔なのが憎たらしい…」
結構面白い人のようだ。
「コホン。まあ、殺されるも殺されないも運と言いますでしょうか…だからそのように震えず安心して下さい。大丈夫ですよ」
おわー、今の『大丈夫ですよ』の言い方がめっちゃやわらかい言い方だったー。
「少し落ち着いた気もします。ありがとうございます」
「どういたしまして」
それからは殺されるならその時だ!と思い直した俺は比較的安心した状態でラウル村まで行けた。
「起きて下さい、起きて下さい!もう着きましたよ!」
へっ、いつの間にか眠っていたようだ…
「もう!三時間四時間眠っていますよ!起きて下さい。…昨日は寝不足だったのですか?」
「はい…あまり眠れなくて」
「だとしても起きて下さい!ラウル村で昼寝すれば良いじゃないですか。私はもう帰ります」
無理やり起こされ馬車は帰って行った…。っていうか殺されずにラウル村まで着けたんだ!村長の所に行って持ってきた30万円を渡しに行こう!
そして村長の所に駆け出して行って少しして異変に気付いた。俺が出て来た時は120名くらいいたはずなのに今は100名いるかいないかになっている事に。そして…おそらく餓死したと思われる子供の死体が転がっている事に…
もっと急いで村長の所に行こうとしたら村長の方から会いに来てくれた。
「村長ー!」
「レイターか!?村の者が馬車が来る時間帯では無いはずなのに馬車が来てるというから見に来たんじゃが…」
「帰ってこれました!」
「おお!…いやしかし、なぜレイターだけ帰ってこれたのじゃ?」
「分からないですけど見逃してくれたとか?それか気付いて無かった可能性も…」
「いや、気づいて無かった可能性は相当低いじゃろう。奴らは抜け目無いからな。だから見逃してくれた可能性の方が高いじゃろう」
「でもなんで俺だけ…?村長に言われた通りイェール町には行かないでスラム街にいたからかな?」
「スラム街に行っとったのか。それで王国側からラウル村がいじめを受けているとうわさを流さないと思ったから?いやそれじゃと今まで村から出て行った人達が1人も帰って来なかった事の説明がつかんな。ほとんど治安が良いイェール町に行ってしまったと思うがスラム街に行った人も何人かはいただろうし」
「それ以外のなんらかの理由があって見逃されたんですかね、俺は」
「そういえば、レイターは今日はなんの目的で来た!?まさか援助目的じゃなかったからターゲットから外されたとか…」
「普通に援助目的ですよ?ほら、今日はまず30万円を持って来ましたし」
「援助目的なのに見逃されたじゃと!?一体どういう事なんじゃ…」
「まあまあ、生きてたからそれで良かったんじゃない?俺も死にたくは無かったしね」
「でもレイターが生きとってくれて本当に良かった…」
「うん!」
「そういえば話は変わるんじゃが王国との昔話を聞いた事はあったかい?」
「多分無かったと思うよ?」
「よろしい、ならば今から話そう。少し外ではしにくい話だからわしの部屋で話そうか」
「うん!」
この間に野次馬がいっぱい来ておりみんな俺が帰って来てくれた事を喜んでいるようだ。
「レイターにいちゃんだ!」
「あいつ、帰ってこれたんだな…」
「レイターさん、あんなに立派になって…」
ちなみにレイターにいちゃんと言っているのが仲良しだった子供で帰ってこれたんだな的な事を言っているのがただの知り合いの若い兄ちゃん、あんなに立派に…と言っているのが俺を育ててくれたおばちゃんだ!みんな、元気そうだな!
俺の知り合いが無事だった事に安心して村長について村長の部屋に向かった。
小話
私「いやー、微妙に文字数が少ないけど1話の分量では収まりきらなかったから中編と後編に分ける事にしました!セトは次出て来ます!」
レイター「それより死体が転がっているってホラーか?ジャンル詐欺には気を付けろよ?」
私「ホラーのつもりじゃないけど世界観的にそういうヤバい表現が出て来るのはこれからも避けられないかもね」
レイター「気分が悪くなったら即ブラバ。これみんなに覚えていてほしい豆知識だぜー!」
後書き
キャラが勝手に動く現象発生しました…。次の話で出て来るんですけどセトが想像以上に気持ち悪い人物となっております。(クズ野郎なのは元からだけどw)
8話目までご覧頂きありがとうございました。