故郷崩壊編前編
ーずっと変わらないものなんかないー
byレイター・ハーン
あれから半年、100万円が入ったので最新式で12万円と少しお高めだったが通話機能しか無かったケータイをメールと簡単なメモが書けるものに変え(その分通信量も少し高くなってしまったがザックの兄貴が払ってくれると言う)週五で工場のバイトをしたりたまに遊んだりしていた。
えっ、故郷には帰らなかったのかって?そ、それは…オレがラウル村から出てくる時に村長から聞いたんだけど…
「レイター、これだけは気をつけておきなさい」
「なんですか、その気をつける事って?」
「ああ、これは予想なんじゃが…村から出て行った者達は一人も帰って来た事が無いじゃろう?それは多分…」
ここで村長は人目を気にするかのように周りを見回しそして小声で言った。
「今のジュダ王国の王様セト・ジュダによって殺されている」
「な、なんだって!」
「しっ!静かに!村の者達の中には感づいている者も多いとは思うが知らない人もおる。それにこの話を王国の者達に聞かれていたら…」
「わ、分かりました。静かに話します」
俺も小声になった。
「それで王様に殺されてるという話だったけど王様って忙しいんじゃない?わざわざ王様自身が殺しにくるとは俺自身は思えないけど…」
「ああ。だから多分じゃが王様直属の暗殺部隊の様なものを持っていてその者達に殺させているんじゃないかとわしは考えておる。レイター、村から降りても絶対にイェール町やましてや貴族の街になぞ行くなよ?これもわしの予想なんじゃが…イェール町に行きたい!と言って降りて行った若者が帰って来なかった。それも何人も。おそらく口封じのために殺されたんじゃろう。その分スラム街なら危険は多いがすぐに殺されてしまうというのは防げるかもしれない。いいか、ラウル村から出ていくなら絶対帰って来れないものだと思って出ていけ、レイター」
「スラム街か…本当はイェール町とかの方が良かったけど…殺されたくはないしね。分かったよ!村長の言う通りスラム街で生活していくよ!」
「頑張れよレイター。ただ、スラム街は本当に治安が悪いらしいからな。気を付けろよ?」
数年前の話だがおそらくスラム街から来たと思われる盗賊が来ていた。着ている服もボロボロだったし余程悪いのだろう。
「村に残る選択肢もあるにはあるんじゃが…」
「いや、出ていくよ村長。外の世界も見てみたいんだ!」
それで、俺は本当はイェール町に行きたかったのを我慢してスラム街に来たのだった。
今日は工場のバイトが休みの日なのでブラブラしている。
「そういえば、ラウルという村がさ…」
んっ?ラウル村のうわさ話をしているらしい若い男二人組がいた。物陰に隠れて話を聞いてみよう。
「ものすごい王国から搾取されてるんだって!これもうわさなんだけど王国が食べ物とか食料をほとんど取っていってしまうせいで餓死してしまう人も増えているらしい」
「なんとか助けたいよなー」
「やめとけ、やめとけ。俺たちじゃそんなにお金もないし…そもそもめっちゃ黒いうわさもある」
ここで相当声をひそめてから彼は言った。
「これまでも何人かラウルに援助しようとしたやつらがいたが…全員消息不明となっているらしい。これは俺の想像なんだけど王様は王国から一番遠いラウルまでなんらかの方法で情報を掴んでいて王様が嫌いなラウルには援助させないように王様直属の暗殺部隊を使って殺させているんじゃないかとの話があるんだ」
「ひえー、こっわ!」
なんだって!王様直属の暗殺部隊の話は前から聞いていたがなんらかの方法で情報を掴んでいる?だから村長はあの話をする時にあんなに人目を気にしていたんだ。
「実はこれは俺の想像でしかないんだけどラウルまで人を使って情報を得るとか可能だと思うか?」
「間者とか入れれば可能じゃない?」
「そうかもしれないけど、俺の想像はもっと違っていて人間じゃない方法で情報収集してるんじゃないかって、例えば機械とか?」
「アハハ!何言ってんだよーお前!つーか機械使ってるんならこんな話してる自体でヤバいだろ。俺たちも暗殺部隊に殺されたりして?」
「ただのスラム街のうだつの上がらない若者を殺しにくるかなぁ〜?」
「もしお前が言ってる事が本当だったら俺達もヤバい可能性があるよってだけ。おっと、俺は夕方から約束があるんだよ、じゃあな生きてたらな」
「不吉な事言うなよ?二人とも生きとるわ!」
そういうと彼らはそれぞれ反対の方向へと歩き出して行った。…息を詰めていたせいか結構息苦しい。それよりもラウル村が危ないだって!?だけど多分俺が戻ったら戻る途中では殺されてしまうだろう。それでも戻りたいのか俺は?
瞬間、俺はラウル村を救って村のみんなのヒーローになりたい!と思った。
明日も休みだしラウル村行きの馬車があいてたらさっそく予約だ!予約を取りに行ったらあいていたので取る事にした。兄貴にも報告だな。
「えぇー!ラウル村に帰るって…お前正気か?」
「うん、帰るよ。そしてヒーローになって帰ってくるんだ!」
「お前もうわさは聞いてないわけじゃないんだろう?…殺される可能性も高い。それでも行くのかお前は」
「それでも行きます。殺されるかもしれないけど殺されない可能性もあると思うので…」
「いいか、ほとんど殺されてしまう可能性の方が高いと思うぞ、俺は。それでも、どうしても行くというのか?」
「はい。裏の仕事をしている時点で殺される可能性は跳ね上がってるし…殺されない可能性にかけて行きたいです。それに馬車も予約しちゃいましたし」
「馬車の予約はキャンセル出来るだろっ!?はぁ、本当は、本当にレイターを死なせたくないんだ。だけどそこまで決意が固まってるなら行かせるしかない…死ぬなよ、レイター」
「あれっ、そのセリフ半年前のメダルの依頼の時にも言ってませんでした?」
「うっせぇ!…明日は何時に出るんだ?」
「朝の6時には出ますね。馬車の予約が7時だしここから7〜8時間はかかりますので」
「そうだよな、結構ラウル村まで時間かかるもんなぁ…よしっ、俺も明日は馬車が来るまではお前についていく!」
「へっ?仕事はどうするんですか?」
「ばーか、こんな時に仕事してる場合かよ。キャンセルだキャンセル」
「えっと…もし俺が居なくなってもちゃんと仕事して下さいね?」
「お前の方がサボり癖はあるだろ!…ああ、ちゃんと仕事はするさ。明日だけ特別な」
兄貴の後ろにある時計を見てみるともう10時を過ぎている…明日も早いのでそろそろ眠った方が良いのかもしれない。
「ではおやすみなさい、また明日」
「ああ、おやすみー」
俺も兄貴に対して結構敬語を使うようになったなーと思う。明日は6時出発と早い。ラウル村に上げる予定の30万円をかばんに突っ込み俺は眠る事にした。
次の日俺はなんだか目が冴えてあまり眠れなかったが今日がラウル村に行く日だ。さて、殺されないかが心配な所だが…
「おっ、もう行くのか?じゃ、一緒に行こうぜ!」
朝っぱらから兄貴はビシッとスーツを決めている。
「今日の朝からある会合の話なんだけどさ…遅れて来ても良いよ!だって。なんでも真面目な君がずる休みするとも思えないしね、余程の事情があるのだろう?だってさ。俺ってばめっちゃ信頼されてるー!」
兄貴は義理に熱い男でもあり信頼されるのは当然だなと思う。
「兄貴は義理に熱い男なんですから信頼されるのは当然ですよ!」
「そうなのか?俺自身ではあまり分からないが…」
意外と自分自身の事については気づけないものだよね。
「そうですよー!…もし俺が今日殺されても兄貴はいつもの兄貴でいて下さいね?」
「ああ、分かった…」
本当に大丈夫なのだろうか?兄貴は俺に仲間の大切さや温かさを教えてくれた。だから元気でいてほしい。それから俺は馬車が来るまでこれから起こりそうな事を紛らわすためたわいもない話をわざと明るい口調で話していた。多分、兄貴もそうだろう。
小話
レイター「超久しぶりだねー!みんな俺たちの事忘れちゃってたんじゃないかな?」
作者「まあ元々から超人気ってわけじゃないからね」
レイター「次回はあの邪悪の根源であるセトが出てくるよ!」
作者「お楽しみに!」
後書き
はい、これから小話は豆知識コーナーもやっていくつもりです。やっぱりプロットを全部書くと書くのがすごい楽ちんですね!7話目まで読んでいただきありがとうございました。