第七話 一味の住み処
どのくらい時間がたっただろう。
大きな袋に入れられ空を飛んでいる。俺はその袋の中で小さく丸まっていた。袋の中は外が見えず空気がもうほとんどなく、いい加減息苦しかった。俺は袋の中で暴れた。
「ん?なんだ?」
エギオルクがそれに気づいた。
「息苦しい」
「あ?」
なぜかこいつは不機嫌な声を出し始めた。
ふざけんな、不機嫌になるべきなのは俺の方だろうが。
「はっきりさせておくが。てめぇはもうこのエギオルクの一味になったんだ。一味のボスは俺だ。そのボスにそんな口の聞き方をしていいのか?」
誰がお前らなんかの!そう言いたかった。だがそれを口にすることでどういった結末を迎えるのかは容易に想像できてしまった。
「……息苦しいので袋を開けて……ください」
また泣きたくなった。
「いいだろう。やはり人間は弱いな」
不安定だった袋に足場が現れた。エギオルクが袋の下に手を回したのだ。上から光が差してきた。袋が開かれた。
「うわぁ……」
思わず感動してしまった。地面があんなにも遠く、雲がこんなにも近くにあるのだ。すごくいい眺めだった。だがエギオルクの顔を見てすぐに怒りが込み上げてきた。こいつが大勢の人を殺し村を焼き払い、そして俺の村「ベジ村」も死人は出ていないとはいえ、店や村長さんの家を破壊し、そしてオヤジの腕を。今すぐにでもこいつをぶっ殺したい。だが俺ではとうていこいつには勝てない。周りにいる魔物にすら勝てないと思う。
「見えてきたぞ。俺たちの城が」
「え……」
前方にある山の頂上に大きな城があった。
「どういうことだ?人間の城を根城にしているのか!?」
俺はてっきりどこかの洞窟や孤島にでも住んでいるのだと思っていた。こんなところじゃ料理なんてできない!そう文句を言うつもりだった。だがあんな大きくて立派な城に住んでいるなんて……
「まぁ元々は人間の貴族みてぇな奴らが住んでいたんだけどな。そいつら全員『掃除』して、俺の城にしたんだよ。がははははは!」
エギオルクと周りの魔物達が笑い出す。なんて奴らだ!十中八九「掃除」とは殺したということだろう。よく見ると城の屋根に大きな穴が空いている。こいつらが襲撃した時にできたものだろう。それにしても、この城はどこの何と言う城だろうか、誰が住んでいたのだろうか。山の下を見ても城下町らしき建物はなくただ木が生い茂っていてだけだった。完全に俺の知らない場所だ。そもそもベジ村からどの方角に、どのくらい飛んでいたかも分からなかったのでもう1人で帰ることもできないだろう。
「ここには誰が住んでいたか?」
「さぁなそんなことどうでもよかったんで聞かなかったぜ」
「ここはどこなんだ?」
「そんなことお前が知る必要あるのか?」
エギオルクがまた睨みつけてくる。俺はこの声が怖くてたまらない。
「……いえ」
俺は俯いた。こいつはやはり魔物のくせに知恵が回る。エギオルクを倒す。それしか俺と村のみんな。いや、俺らだけじゃない。エギオルクを倒せばこの世界のみんなが平和に暮らすことができる。
今エギオルクを倒す頼みの綱は王都の『騎士団』だ。あそこの騎士団は魔物の討伐を何度も行っていると聞いたことがある。この騎士団なら、エギオルク一味も倒せるかもしれない。確か結構前からこいつらの住み処を探していたはずだ。だがまさか城に住んでいるとは騎士団も思っていないのだろう、きっと今も見当違いな場所を捜索しているのだろうか。俺がどうにかして王都にこの城のことを伝えられれば……だが俺自身ここがどこなのかが分かっていなかった。聞いても教えてくれない。まさかそれを知られないためにこんな袋に俺を入れたのか?もしそうだとしたらやはり非常に知恵が回る奴だ。
そう考えている間に城の真上に着いた。
「人間の城だからな。俺には小さい。だから俺が頻繁に通る扉なんかはほとんどぶっ壊して広くしているんだ。がははははは!」
城の屋根に空いている大きな穴からエギオルクは城の中に入っていく。こいつはここからしか城に出入りできないのか?
入ったそこはいきなり『王の間』らしきところだった。