第六話 コックの決意
「……分かった。付いて行く」
もうそれしか、この村を、みんなを守る方法はなかった。
「決まりだな」
エギオルクは満足気な顔をした。
「ダメよ!コイド!」
お袋の声だ。
お袋はオヤジの手当てを終えたところだった。オヤジは限界だったのだろう、気絶してしまっている。
店にいるお客さん達もみんな複雑な表情をしている。俺がこのエギオルク一味に付いていけば村は助かる。だが俺が犠牲になることに罪悪感を抱いているのだろう。
「お袋。これしか……方法がない。」
「そ……そんなこと。こんなの……こんなのって……」
お袋は涙を流している。どうしようもないこの状況に、何もできない自分に絶望しているのだろう。
俺はお袋、そしてオヤジはに寄り添う。
「大丈夫。あいつらも俺が必要なんだ。悪いようにはしないはずだ」
本当にそうなのかは正直分からない。俺がこれからあいつらにどういった対応をされるのか、どういった生活を余儀なくされるのかまったく分からなかった。でも少しでもお袋を安心させたくて俺はそういった。
「コイド」
お袋は俺を抱きしめる。俺もお袋を抱きしめた。俺の目にもいつの間にか涙が流れていた。
「絶対帰ってくる。」
俺は魔物達に聞こえないように小声で喋った。
「もういいだろ。さっさと行くぞコック」
エギオルクがしびれを切らしたようだ。俺は涙を拭き、立ち上がりエギオルクに向き直った。
「その前にもう一度確認だ。俺が付いて行ったらもうこの村には手を出さないんだな!?」
「ああいいだろう。約束してやる。村なんざいくらでもあるからな。この村ひとつは見逃してやる」
「この村だけじゃない。もう人間を襲うな!」
エギオルクが睨みつけてくる。失言だったか。
「それはできん!貴様自分がそんなことまで言える立場だと思っているのか?」
「あ、ああ。」
チッ。心の中で舌打ちをする。
「この村には手を出さない。だがお前がクソ不味い料理をだしたり。俺の元から逃げ出したりしたら即刻この村を焼き払いに行く」
やはりダメか。逃げ出すのはもう考えていたが、お見通しというわけか。
「—―分かった。」
こいつらに連れていかれた後の打開策を何か考えないと。
—―そうだ!俺がいい考えを思いついた矢先。エギオルクが喋った。
「あとそうだな。この村にも一応見張りを置いておくか。村の連中は人質なんだからな。おい!この村の住人共!この村から逃げ出そうなんて考えるんじゃねぇぞ!」
「—―んな!?」
魔物のくせになんて知恵の回るやつなんだ!俺と同程度の思考力は持っていやがるのか!?
村人を村から全員逃がし。そして俺もエギオルクから逃げれれば、あいつらは宣言通り村を焼き払おうとするが、既に村には人っ子一人いない。そして俺はどこか指定した場所に村人達と合流し、万事解決。だと思ったのに。考えた案を一瞬にして潰され俺は焦った。何か他に、他に解決策は……
「よし。では行こうか。おい。袋持って来い」
エギオルクは魔物に命令し何か大きな袋を受け取る。
(ダメだ!何も……思いつかねぇ)
どうしようもなかった。さっきのが最後の策だったのに。俺は絶望感に埋もれた。
「この袋に入れ。後は俺がアジトまで連れてってやる」
俺は後ろを振り返る。みんな相変わらず絶望、罪悪感、恐怖。そんな顔で満ちていた。お袋も同じだった。
「コイド!コイド!」
お袋は立ち上がり俺に向かってくる。—―が魔物が俺たちの間に割り込んでくる。
「コイド!コイド!」
俺は耐えられず前を向く。
「お袋。オヤジのこと頼んだ。」
涙がまた出できた。
俺は言われた通り袋に入った。人間が3人ぐらいは入れそうな大きな袋だった。外ではまだお袋が俺の名叫んでいる。俺は涙が止まらなかった。
「じゃあ引き上げるぞ」
そう言った瞬間、体が重くなった。エギオルクが飛び立ったのだろう。お袋の声も聞こえなくなってしまった。
俺はもう一生あの村には帰れないのだろうか。そう考えるとまた涙があふれてきた。