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見習いコックと魔法使い  作者: 黄薔薇
7/12

第六話  コックの決意

「……分かった。付いて行く」


もうそれしか、この村を、みんなを守る方法はなかった。


「決まりだな」


エギオルクは満足気な顔をした。


「ダメよ!コイド!」


お袋の声だ。

お袋はオヤジの手当てを終えたところだった。オヤジは限界だったのだろう、気絶してしまっている。

店にいるお客さん達もみんな複雑な表情をしている。俺がこのエギオルク一味に付いていけば村は助かる。だが俺が犠牲になることに罪悪感を抱いているのだろう。


「お袋。これしか……方法がない。」


「そ……そんなこと。こんなの……こんなのって……」


お袋は涙を流している。どうしようもないこの状況に、何もできない自分に絶望しているのだろう。

俺はお袋、そしてオヤジはに寄り添う。


「大丈夫。あいつらも俺が必要なんだ。悪いようにはしないはずだ」


本当にそうなのかは正直分からない。俺がこれからあいつらにどういった対応をされるのか、どういった生活を余儀なくされるのかまったく分からなかった。でも少しでもお袋を安心させたくて俺はそういった。


「コイド」


お袋は俺を抱きしめる。俺もお袋を抱きしめた。俺の目にもいつの間にか涙が流れていた。


「絶対帰ってくる。」


俺は魔物達に聞こえないように小声で喋った。


「もういいだろ。さっさと行くぞコック」


エギオルクがしびれを切らしたようだ。俺は涙を拭き、立ち上がりエギオルクに向き直った。


「その前にもう一度確認だ。俺が付いて行ったらもうこの村には手を出さないんだな!?」

「ああいいだろう。約束してやる。村なんざいくらでもあるからな。この村ひとつは見逃してやる」

「この村だけじゃない。もう人間を襲うな!」


エギオルクが睨みつけてくる。失言だったか。


「それはできん!貴様自分がそんなことまで言える立場だと思っているのか?」

「あ、ああ。」


チッ。心の中で舌打ちをする。


「この村には手を出さない。だがお前がクソ不味い料理をだしたり。俺の元から逃げ出したりしたら即刻この村を焼き払いに行く」


やはりダメか。逃げ出すのはもう考えていたが、お見通しというわけか。


「—―分かった。」


こいつらに連れていかれた後の打開策を何か考えないと。

—―そうだ!俺がいい考えを思いついた矢先。エギオルクが喋った。


「あとそうだな。この村にも一応見張りを置いておくか。村の連中は人質なんだからな。おい!この村の住人共!この村から逃げ出そうなんて考えるんじゃねぇぞ!」

「—―んな!?」


魔物のくせになんて知恵の回るやつなんだ!俺と同程度の思考力は持っていやがるのか!?

村人を村から全員逃がし。そして俺もエギオルクから逃げれれば、あいつらは宣言通り村を焼き払おうとするが、既に村には人っ子一人いない。そして俺はどこか指定した場所に村人達と合流し、万事解決。だと思ったのに。考えた案を一瞬にして潰され俺は焦った。何か他に、他に解決策は……


「よし。では行こうか。おい。袋持って来い」


エギオルクは魔物に命令し何か大きな袋を受け取る。

(ダメだ!何も……思いつかねぇ)

どうしようもなかった。さっきのが最後の策だったのに。俺は絶望感に埋もれた。


「この袋に入れ。後は俺がアジトまで連れてってやる」


俺は後ろを振り返る。みんな相変わらず絶望、罪悪感、恐怖。そんな顔で満ちていた。お袋も同じだった。


「コイド!コイド!」


お袋は立ち上がり俺に向かってくる。—―が魔物が俺たちの間に割り込んでくる。


「コイド!コイド!」


俺は耐えられず前を向く。


「お袋。オヤジのこと頼んだ。」


涙がまた出できた。

俺は言われた通り袋に入った。人間が3人ぐらいは入れそうな大きな袋だった。外ではまだお袋が俺の名叫んでいる。俺は涙が止まらなかった。


「じゃあ引き上げるぞ」


そう言った瞬間、体が重くなった。エギオルクが飛び立ったのだろう。お袋の声も聞こえなくなってしまった。

俺はもう一生あの村には帰れないのだろうか。そう考えるとまた涙があふれてきた。

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