第五話 魔物の目的
「お、オヤジを、離せ!」
自分でも聞いたことのない震えた声がでてしまう。
「その前に答えろ。お前はコックで間違いないな?」
なぜこの魔物がそれほどコックにこだわっているのかは分からない。だがここで嘘を言ってもしかたがない。
「そうだ!俺は、コックだ!」
俺は正直に答えた
「そうか。ならお前でいい」
そういうと魔物はオヤジを俺たちの足元に投げ捨てる。
「オヤジ!」
「あなた!」
俺とお袋はオヤジに駆け寄る。オヤジはまだ痛みに苦しんでいる。
「お袋!手当を!」
「ええ!」
お袋は厨房へと向かう。料理中に手を切ったり、火傷を負ったりするのでいつも医療箱はそこに置いてあるのだ。
「話を進めようかコックよ」
魔物が一歩前に来る。
「お前たちは何が目的なんだ?」
オヤジの手当はお袋に任せて俺は魔物に問いかける。
「コックを探す目的はただひとつ。この俺エギオルクのために料理を作ってもらうためだ」
「……エギ……オルク?」
エギオルク。この名前、前から何回も聞いている。最近村を襲いまくっている魔物の群れ。その親玉。そうだ!目撃者によると群れの魔物より一段とデカく、手から火を出したり、何もないところに爆発を起こしたりすると。
情報通りだった。他の魔物もよりデカく。店が爆発したのもおそらくこいつの力。さっきオヤジの腕を切断したのだってなにか変だった。あいつはオヤジの振り下ろした腕に自分の手のひらを出していただけだった。それなのにオヤジの腕は切断されたのだ。こいつにはやはりなにかとんでもない力があるのだろうか。
「エギオルク。最近たくさんの村を襲っている一味……」
お客達もその名を聞きいっそう怯えあがっている
「そうだ。どうやら人間共のなかでも話題になっているようだな」
「料理を作れとはどういう意味だ?」
当然の疑問だった。魔物に料理を作るなんて聞いたことがない。魔物たちは弱肉強食、動物や魔物の肉、人を食べることもあると聞いたことがある。だが人間の作る料理を食べる魔物なんて聞いたことがない。
「俺たちは生き物をそのまま食うことしかできん。そのまま食うか、火あぶりにして食うか。もうそれを何十年もしてきた。いいかげん飽きてしまったのだ。だがお前達人間は食い物を料理し更に旨い物へと作り変えることができるのだろう?俺はそいつを食いたいのだ。」
「だからコックを探してたってわけか」
「ああ。この前襲った村にいた奴らに聞いたのさ。俺に料理を作れと言ったら、私はコックじゃないと言い出してな。問い詰めると、人間には旨い料理を作れるコックてのがいると知れてな、まぁその村にはコックはいないってんで焼け野原に変えてやったがな。がはははははは」
エギオルクと他の魔物達が笑い出す。
俺がこいつらに付いて行かないと。このベジ村もその村と同じように……?
「もし……断ったら?」
俺は恐る恐る口にする
エギオルクは笑いを止め俺を睨みつける。
「もしそうしたら。この村ごとお前らを消し去る。……こんな風にな!!!」
そう言うとエギオルクは後ろを振り返り手を伸ばした。その先にはこの店から一番近い家、村長さんの家があった。
「よく見とけ!」
よく見るとエギオルクの手に何やら不思議な光が出てきている。
「ハァッッ!!」
声と同時に手から物凄い速さで光が飛び出し村長の家えと飛んで行った。そして村長の家に衝突した次の瞬間、爆発が起こった。物凄い爆風がこちらにやって来る。立っていられず俺は地面に手をつく。
爆風が収まり目を開ける。
「なっ……!?」
村長の家は跡形もなく消え去っていた。
「今度はちょうどいい力加減だったな。」
エギオルクがこちらに向き直る
「お前が断れば今のを最大の力で出す。この村は小さいからな簡単に焼け野原にできるぞ。がははははは。」
またエギオルクと魔物達が笑い出す。
「村長さん……村長さーーーん!!!!」
何もなくなってしまった。場所を見て俺はただただ叫んだ。
「大丈夫だ。コイド。ワシはここにおる」
—―!?後ろを振り返る。するとお客さん達の中に村長さんはいた。
「村長さん!良かった!」
「あ、ああ飯を食べに来てなかったら。危なかったかもしれん」
今まで気付かなかったが、どうやらお昼にここで食事をしていたようだ。
「どうだ?コックよ。お前が断ればこの村ごと消えてなくなる。」
もうどうしようもない。
「……俺が付いていけばこの村には手を出さないか!?」
「……いいだろう約束してやる」
俺に選択の余地はなかった。