第四話 魔物の来店
絶叫が店内を包んだ。
魔物達から逃げるため、お客さん達は近くの窓や厨房にある裏口から出ようと走り出した。
「逃がすな!」
大きな魔物が大声をあげた。
魔物が……喋った!?
後ろにいた魔物の群れは一斉に店の周りを取り囲んだ。完全に逃げ道がなくなってしまった。魔物にこんな知恵があったのか!?さっきから情報量が多くて頭が追いつかない。店は爆発するし、魔物の群れが来たり、見たこともない家みたいな大きさの魔物がいたり、更に魔物が喋ったりするし。だが今の俺たちがとんでもなく大ピンチなのは間違いない。
「コックはいるか?」
またあのデカい魔物が喋った。
コック?なぜ?ここにいるコックはオヤジそしてこの俺しかいない。魔物がコックにいったい何の用があるんだ。やはり頭が追いつかない。
「てめぇら魔物だな。よくも俺たちの店を破壊してくれたな!!」
オヤジの顔は怒りに満ち溢れていた。そして、厨房にある大きな肉切り包丁を手に取り。大きな魔物に近づいていった。
「オヤジ」
「あなた!」
俺とお袋が呼んでもオヤジは止まらない。
「二人は下がってろ!」
無茶だ。いくらオヤジが人間の中でもガタイがいい方だとしても。あんな大きさの魔物に勝てるわけがない。
「おまえがコックか?」
魔物は薄気味悪い笑みを浮かべている。
「そうだ!だからなんだってんだ!貴様ら絶対にゆるさねぇ!俺が、俺らが1から作り上げてきたこの店を!よくも……よくも!」
オヤジは走り出し魔物に向かって右手に持っていた包丁を全力で振り下ろした。
—―が。オヤジの右腕は。右腕だけがなぜか明後日の方向に落ちた。
体は魔物の前にあるのに右腕だけがなぜか俺たちの目の前にあるのだ。
「……え?」
そこにいた人達全員がようやくこの状況を理解していった。いや、理解はしていたがそのことを認めたくなかったのだろう。オヤジの右腕が切断されたということを。
「な……な……」
オヤジ本人も信じられていない様子だ。
だが痛みがすぐにやってきた。
「うがあああああ!!!!!!!」
オヤジは右肩を抑えて倒れこみもがき、苦しんでいる。
血が……真っ赤な血がどんどん床の色を変えていった。
「おっとすまない。また力が入りすぎちまったみたいだ。」
魔物は嘲笑し。オヤジを見下ろしている。
店内は叫び越えであふれかえった。大泣きする人もいれば、この光景を見て吐いてしまっている人もいる。お袋はただただ絶望した顔をしている。俺も同じだ。
オヤジは殺されるのか?オヤジが殺された後、残りの俺たちも殺されるのか?まだ……まだ俺は一流のコックになれていないのに。こんなところで終わるのか?
「やはり人間はもろいな。せっかくのコックだったが、腕がなきゃ使い物にならねぇ」
魔物はもがくオヤジを持ち上げ爪を立てた。
「まぁいい。コックなんてこの世界にまだまだいるだろうからな」
―やめろ
「この村はもういい。潰して次の村に行くとするか」
―やめろ
「死ね!!」
「やめろ!!!!!!!」
俺の大声を聞くと魔物はピタリと止まりこちらを睨み付けてきた。
すると、なにやら俺とオヤジを交互に見始めた。そしてニヤリと笑う。
「貴様のその服このコックと同じだな。じゃあ貴様もコックというわけだな?」
魔物の標的がオヤジから俺へと移り変わった。