第一話 料理店『ガタン』
旅人などが初めてこの村に着いて一番初めに口にするのは「良い匂いがする」だ。
魚や肉のこんがり焼けた匂い、それらにつける特性ソースの匂い。皆この匂いの出所である料理店『ガタン』に足を運ぶため遠路はるばるやってくる者も多い。村の名前は『ベジ村』小さな村だがこの料理店のおかげで人がたくさん出入りしている。
「コイド、店も空いてきたし畑に行って収穫できる野菜ありったけ取ってきてくれ」
俺のオヤジ『ガタン』はこの店の料理長で若い頃からお袋とこの料理店を開業し営んでいる。自分が料理長をやるから店の名前も同じ『ガタン』にしたらしい。何というか凄くオヤジらしさを感じる。でもオヤジの料理の腕を俺はとても尊敬している。
「分かったよ。もう収穫時だからね、結構取れると思うよ」
俺はしょいこを背負って答えた
「気を付けてね」
お袋が見送りに来た。
お袋は店では主にお客の来店時の接客や注文、出来上がった料理運びを担当している。何年も働いているからかお袋の料理運びはとても迅速で無駄のない動きだった。料理を落とすところなんて見たことない、この前運んでいる途中に結構な勢いでお客と衝突したのにそれでも料理を落とすことはなかった。
「はいはい、大丈夫だよ」
俺は畑に向かって歩き出した。
俺の名は『コイド』
店では主にオヤジと一緒に厨房で料理を作っている。
そう、『ガタン』は俺たち家族3人で営んでいる店だ。
自分ではもう結構料理の腕が上がってきていると思っているがオヤジに言わせればまだまだ『見習い』の域らしい。でもゆくゆくはあの店を継いでもっともっと繫盛させて、世界中に名を広げたい。それが俺の夢だ。
畑に着きさっそく収穫に取り掛かっていく。
大きい野菜や小さい野菜それらをどんどん入れていく。オヤジはこの中から料理に出せる物を選んでいく。その見極めが内の店がうまい料理を出せる理由のひとつだ。俺はまだその見極めがからっきしダメだ、教えてと頼んだが「めんどくさい」と断られた。自分で覚えていくしかないのだろう。
「コイド、もう収穫時かい?」
顔を上げると柵の外に村長が立っていた。
「村長さん。見てください、ほら」
しょいこにはいい色をした野菜がたくさん入っている。まだ畑を半分しか回っていないのにこの量はめったにないことだった。
「おお大量じゃの。それでまた美味しいの食べさせとくれ」
「ええ。いつでもお待ちしてますよ」
村長さんも店の常連さんだった。週に4回ぐらいは食べにきている。
「どうじゃ?ガタンの跡は継げそうか?」
村長は近くの岩に座るとニヤニヤしながら言ってきた。
「もちろんですよ。もう見習いなんて肩書は要らないぐらいですよ」
ちょっと強気に言ってみる。
「ホホホ。じゃがガタンはまだまだと言っておるんじゃろ?」
「まぁ、はい」
「あのガタンも若い頃は相当修行をしておったからな。簡単に並ぶことはできんよ」
「やっぱそうなんですかねぇ」
俺とオヤジにはまだまだ差があるのは自分でもわかっていることだ。やはりもっと経験を積んでいかなくてはならない。そうしないとオヤジの跡を継ぐことができないのだから。
「じゃワシはもう戻る、料理楽しみにしておくぞ」
腰を上げて村長は歩き始めた。
「はい、また今度」
挨拶を終え引き続き収穫をしていく。
気づけばもうしょいこの中は一杯になっていた。
「まだ最後の列が残ってるのに。すげぇ収穫量だな」
立ち上がり店へと足を進めた。
「うげぇ。重いなぁ」
大量に入れすぎたか。めちゃくちゃキツイ。
だが料理人は体力も重要だ。これも立派なコックになる修行だ。
気合を入れておれは店へと急いだ。
「ただ、いまぁ……」
店に着いた時にはもう体が限界だった。
「おかえりなさいコイド。あら、たくさん取れたわね」
お袋が水を持って出迎えてくれる
俺はそれを受け取り喉を潤した。
「ああ、持って帰るのが大変だったよ。しかもまだ畑一列分残ってるんだよ」
「あぁ?収穫できるのはありったけ取ってこいて言ったじゃねぇか!」
料理を盛りつけしていたオヤジが怒鳴ってきた。
「無茶言うなよ、しょいこはもうパンパンなんだから」
「じゃあ、もう一回行って取ってこい」
「えぇー……もうクタクタだよ」
「じゃあ、こんな体力ない男にこの店は継がせられねぇな。」
「……分かった。行くよ!行きますよ!」
野菜を仕舞い終えたお袋からしょいこを受け取ると俺は再び畑へと向かった。
「絶対超えてやるからな。んで店の名前は『ガタン』から『コイド』に変えてやる‼」
俺の目標がまた1つ増えたのだった。