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プロローグ その2

メールにて面接日時の相談をしたところ、存外に早く返事は返ってきた。


宛先:夜明け株式会社

件名:面接日時について

本文:佐渡嶋様、ご返信ありがとうございます。

   早速ですが、面接日時を来週の月曜日か火曜日でお願いしたいと思っております。

   時間は午前中を予定しておりますが、ご都合が悪ければメールにてその旨お知らせください。

   

ありがたい限りだ。当然この一社以外にも履歴書は書き続けねばならない。

面接は早いほうが良いので、【ぜひ、月曜日でお願いいたします】といった内容で返信する。


スーツなど着るのはいつぶりだ。就活生のくせしてスーツを着た日を覚えていないなどという事実が、目眩を引き起こす。もう嫌だ。流石に勘弁してほしい。

……いかんいかん。

かぶりを振って、マイナス思考を追い出す。部屋の湿気と精神状態がシンクロしてしまっているようだ。

夕方までは気持ちよく吹いていた風も、星が出てきてからはとたんに止んでしまった。部屋の中の蒸し暑さも、徐々に上がってきているようだ。

酒でもかっくらって、早めに寝てしまおう。まだ時間は22時にもなってはいないが、今日くらいは良いだろう。

冷蔵庫から、ロングセラーとなっている高アルコールチューハイを取り出す。眠れぬ夜の酔いつぶれ用として買っていたものだ。

湿気たポテチをつまみに、胃の腑へ酒を流し込む。シロップの甘さとアルコールの苦さが口中を満たす。そういえば今日は何も口に入れていなかったなと、気づいたのは頭がぐらりと傾いた時であった。

—――――—――――—――――—――――—――――—――――

夜明け株式会社は、俺が住むアパートから電車で30分の距離にあった。

元々は県内でも有数の商店街があったが、少子高齢化のあおりを受け、現在はさびれた町となり、全盛期の喧騒はどこへやら、商店街は当時の6割ほどの店を残すだけとなっている。

とはいえ、中央街や役所へのアクセスの容易さから、住宅街やオフィスとしては現在でもそこそこ人気を保っている。

「ここか」

古いビルの一角。区画整理が昭和の時代から終わっていないことを思わせる、救急車などとてもではない入りそうもない狭い通りを2本ほど入ったところに事務所はあった。

【システム保守・警備・そのほか防御一式よろず承ります。 夜明け株式会社】

「防御一式……?」

なんだ、防御一式って。

頭を傾げる。俺の頭にはてなが浮かんでは消えていく。


酒を飲んだ翌日、俺は夜明け株式会社のことについて調べてみた。

流石に面接にあたって会社のことを知らないのはまずいという至極当然の行動であったが、結果としてこれが更なる疑問を産むこととなる。

ホームページがないのだ。この2050年の時代に。

流石に新卒を募集している会社にホームページが存在しないというのは控えめに言ってもかなり怪しい。

っていうか、どうやって俺はそこに応募したのだ?やっぱり記憶に全くないぞ?

普通だったらこんな会社を受けることはないだろう。普通でなくとも受けないと思う。

……しかし、俺はもはや限界に来ていた。あの後も20社からお断りを喰らい、精神は疲弊し、貧乏ゆすりを続けた椅子は負荷に耐え切れず壊れ、何もないところで涙がぽろぽろ流れたりしていた。

何か打開するものが必要だった。現状を壊すものが。

「……よし」

意を決して俺は階段を上り始める。

「こういう時、宗教かなんかにころっとはまっちゃうんだろうなぁ……」

そうひとりごちた。


結論から言おう。

宗教くらいにはまっときゃ良かったのだ……!


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