表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/152

一流の濫觴

●一流の濫觴(らんしょう)


 パーン! 響き渡る銃声。

 大樹公様の撃った弾は、一町先の的の真ん中に命中した。

 河岸変えて、わしと八重殿は広いお庭にいる。



「どうだ。先にオランダより買い入れたゲベールじゃ。

 一(ちょう)十両もするそうだが、火縄を使わぬゆえ弾込めしてさえおけば何時でも放てる。

 撃って見よ」


 自慢しながら大樹公様は先ず八重殿に手渡す。


 銃床から銃先まで五尺強。大樹公様の身長とほぼ変わらぬ長さの銃だ。重さもざっと一貫はある。

 八重殿は腰を落として受け取ると、慣れた手つきで手に手早く槊杖(かるか)で火薬を突き固め、ゲベール銃に弾を装填した。


 パーン! 照準の無い銃である。狙いを付けるのは中々に難しく、銃によって癖が大きい。



「八重殿、お見事!」


 初めて撃つ銃なのに、それでも真ん中とは言わないが的に当てた。実戦なら敵兵の鳩尾(みぞおち)を狙って左肩に(あた)る程度にズレを抑えた。


 八重殿はそのまま次の弾を込め構えて撃つ。

 今度は真ん中より右下一寸に当たった。


「噂以上の腕前じゃ。仕官を望むならば取り立てよう」


 そう大樹公様は口にする。しかし八重殿は恐縮して、


「と、とんでもねぇ。おらは相応しい家柄でねぇし、山出しの田舎娘だ。

 上様のお側になんかいで良い女でねぇ」


 慌てて平伏する始末。


「ははは。望まぬ者を無理にとは言わぬ。

 (おのこ)ならまだしも、(おみな)に近くはべれと強いるのでは聞こえが悪い。

 必ずや、(われ)桀紂(けっちゅう)と変わらぬと筆誅(ひっちゅう)を受けることになろう」


 この大樹公様のお言葉で、八重殿仕官の話は流れた。



 八重殿に代わってゲベール銃を持たされたわしも、大樹公様から所望された。


長姫(ちょうひめ)御事(おこと)も腕前を見せよ」


「ゲベールは撃った事がありませぬ故。撃たずとも宜しゅうございまするか?」


「鉄砲を撃たずして、如何に腕を見せる?」


「ゲベールには槊杖の他に添え物があったと思います。それをお貸し下さいませ」



 所望すると小一時間後。十五、六寸の先の尖った鉄の棒が、袴を着けた男姿の女によって運ばれた。


「お持ちしましたが、本当にお使いに成るのですか?」


 背骨に鉄芯が入った様な歩き方一つを見るだけで、相当の腕前だと判る女は。

 鋭い先を抓んでわしに手渡す。


 横から見ると乙の字の裾を長く引き延ばしたように見えるアタッチメントは、ゲーベールの銃剣。いや剣と言うよりは槍かもしれない。

 取り付けると銃床から銃剣の先まで六尺を超えた。槍と見て長さを測ると一間と少し。短めの手槍だ。


 今世の身体は大きく、前世慣れた長さよりも八寸ばかり長い。

 しかし使えぬ訳ではない。


 わしはいくつかの手をお見せする。

 うん。意外と身体が動くものだ。



「上様。これはこれで中々のものにございまする」


(たき)。そちは扱えるか?」


 銃剣を運んで来た女が感想を述べると、大樹公様は下問した。すると瀧と呼ばれた女は首を振り。


「あれは槍とは別の武器にございます」


 と口にした。



「単に槍遣いするなら構いませぬが、私では折角の鉄砲を歪めてしまうやも知れませぬ。

 長姫様の剣付き鉄砲の技は、最早一流を成した武術と申しても過言ではございません」


「なんと」


「鉄砲の利は打ち払えぬ事。

 数多の兵法(ひょうほう)に矢切の技はございます。されど鉄砲には通用致しませぬ。

 その鉄砲の利も中ればこそ。僅かの狂いが狙いを外します。」


「うむ」


「ご覧下さいませ。徹底して真っ直ぐに貫く突き技にて打ち合いを避け、巻きや払いがございませぬ。

 恐らくは、鉄砲に狂いを生じさせぬ為でありましょう」


「なるほどな」



 特に声を潜めて居た訳でも無かったせいだろう。

 前世で叩きこまれた銃剣術を披露するわしの後ろで、話し込む二人の声がはっきりと聞えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
表紙絵
お読み頂きありがとうございます。
お気に召しましたら、ブックマークや最新頁の下にある評価点を入れて頂けると励みになります。
なろうに登録されていらっしゃらない方からの感想も受け付けておりますので、宜しかったら感想やリビューをお願いいたします。

---------------------
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ