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夜半の襲撃2

●夜半の襲撃2


「うわっ!」


 悲鳴は賊。手筈通り宣振(まさのぶ)が火縄で、ニトロ化した綿に火を点けたのだ。

 俗に言うフラッシュコットンは一瞬にして発光と共に燃え尽きた。欲を言えばアルミやマグネシウムが有ればよかったのだが、前者は特に望むべくもない。

 だが、光量的には大したことが無くとも、闇夜に慣れた目を眩ませるには十分。賊は視力を失った。



「姫さん。行くぜよ」


 続いて宣振が普通の声に出して言いながら、筒に丸めた布団を投げつけると、見えぬ故に布団に斬り付ける賊の一味。

 星空に透かして見る利と、火を見た直後に闇を見る不利。

 寝首を掻くため、気付かれぬよう灯りも持たず遣って来た賊など、当に飛んで火に入る夏の虫。


 こんな楽な戦いはあるまい。わしらは泊り客で奴らは押し込みなのだから、わしらは無理に(たお)さずとも良いのだ。


 わしはすっと、懐剣を括り付けた躾刀(しつけがたな)を繰り出すと、賊の内股の付け根辺りに五分程突き立て、ピンと弾きながら引き戻した。

 本当は顔を刺すのが一番なのだが、今のわしでは背丈の制約もあるのだ。



「うぐっ!」


 動脈を切った。噴き出す血を浴びぬよう移動して、膝を付いた相手の首筋を狙って繰り出した。

 咄嗟に身を捻って躱す所を、すっと手前に引きつつ刃で(くび)の血脈を(かす)め斬る。


「しくじった」


 ピィー! 唸りを上げる虎落笛(もがりぶえ)。少しばかり加減を誤って気管までを切り裂いてしまった。

 今の音で敵の采配が変わる。いや、わしなら変える。



「宣振」


「なんじゃ」


 敵と切り結び足蹴で突き飛ばしながら、息で話すわしの声を拾うのは流石である。


大手(おおて)に注意を引き付け、搦手(からめて)より本陣を狙う手がしくじった時。宣振ならなんとします?」


(いくさ)か? 暗殺か?」


「暗殺です」


「ならば退く」


 と宣振は言う。



「戦やったら大将首を取れば勝てるがよ。千の兵を九百九十九すり潰しても構わん。

 それに仕損じれば次の機会はまずないろう。残党が以前の力を保つことは無いきな。

 やき、遮二無二攻めて討ち取るべきなんじゃ。


 やけんど暗殺やったら勝手が違う。討ち取る見込みがなけりゃ、すぐ退いて次の機会を狙うのがええ。

 なんとなれば、一人でも暗殺者が生きちゅー事が、敵を縛り味方を利するきな」


「そうでしょうね。私もそう思います」



 敵の見当は付いている。勤皇の賊のごく一部だ。とかくあの手の連中は仲間同士でいがみ合うもの。

 昭和のグラックス達と同じく、幕末のグラックス達も分派が多く纏まりが付かぬ。



「どこと見ます?」


「恐らくは水戸や。薩摩の方は(かしら)を合点させれば、こがな勝手は致さんからな。

 薩摩に釘を刺したことも、気に喰わんのやろう」


「確かに。思い込んだら回りが見えないのは困りものですね」



 この間も宣振は、刀を打ち合わす音さえ立てず、一触に敵を屠って行く。

 わしが相手するのは、宣振がこの位は姫さんの暇潰しに良いだろうとわざと通した未熟者ばかりだ。



 ドン・ドン・ド~ン・ドン・ドン・ド~ン。

 一打ち二打ち三流れ。太鼓の音は忠臣蔵で有名な、山鹿流の陣太鼓。


「聞けや賊共。わしらが後詰めの到着じゃ。退かにゃあ、あたら無駄死にちゃ。

 仮令(たとえ)討ち死ぬる覚悟はあれど、主らに縄目の覚悟はあるか、

 (すて)(さらし)に十文字。賊に相応しき縄目の恥で、家名を(くた)す覚悟はあるか」


 狂介殿が大見得を切る。


「退けぇ~!」


 暗闇に響く戦声が退きの鉦。


「くっ」


 懐から何か取り出した目の前の賊。その直後。


 パーン!


「姫さん!」


 闇夜に銃声が鳴り響いた。


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