表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/152

生まれ変われ

●生まれ変われ


 手回しの良く。取り押さえられた男は縛り上げられた。

 これでも武士の風体(ふうてい)なので礼を守り、脇の位置を二つの頂点とする菱形の中に菱形を作る二重菱縄で縛り上げ、交差させた腕は外側の菱形の下の頂点位置で中央に固定された。


「無礼者! たかが中間風情が!」


 喚く男。

 だが、丈高にこんな事を言う者に限って、実は身分がそれほどでもないことが多い。

 なぜならば、身分の高い者はだいたいおっとりしているものだし、お供や警護の者が居ない筈がないからだ。

 彼のようにカリカリしていたり、諌める者とてない独り酒の者が居るはずがない。


 男は取り押さえた者が肥後守家の中間(ちゅうげん)と判ると


「武士に縄目たぁ腐っちょる。肥後守家は犬侍ばかりか!」


 と、自分の所業を棚に上げて嵩に懸かる。

 酒の上の狼藉で、お国訛り丸出しで喚く様が見苦しい。どうにも埒が明かないのでわしが口を出す


「犬侍はあなた様にございます。自分が何をしたのかお分かりですか?」


「なにぃ!」


 狼藉侍が、犬のように歯を剥き出して威嚇する。


「これはわしらの仕事やさかい。わざわざお嬢はんがこないなことせーへんでも」


 若い衆はそう言うが、


「これは身内の話にございます。仮令(たとえ)二条新地の親分と(いえど)も、藩侯・肥後守様と雖も御意見無用に願いとうございます」


 と決め付け、狼藉侍に向かって言葉を強めた。



「酒に飲まれて酔いに任せ、軽々しく刀を抜いただけでも器量を疑われて然るべきこと。

 あまつさえ、子供の私に切り掛かった上、手も無くあしらわれました。

 これではどう取り繕っても士道不覚後の誹りを免れません」


「言わせておけば!」


 もがくが縄で自由が利かない。


「酔って千鳥足の身でなお、身体の幹はしゃんとしておりました。これだけでも、あなた様が一心不乱にご修行に励んでおられたことは解ります。

 恐らくは、酔っておらねばこの醜態も無かった事でありましょう。

 責めは酒に負わせます故、恥をお知りになられているならば、醒めるまで大人しくなさいませ」


「何だと小僧ぉ!」


 身動き取れぬ男はわしを睨みつける。だがわしが、


「あなたの言葉からして、周防(すおう)長門(ながと)の者。直臣か陪臣かは存じませぬが、江家の家来筋にございましょう」


 こう言うと彼は黙り込んだ。

 たった今。身ばれしていると思った瞬間、気拙い事をしでかしたと気づいたらしい。



「ふーむ」


 男に顔寄せて眺めると。この顔、どこかで見たような……。


「あ!」


 誰かに似ていると思ったら……。


「そのお顔立ち。よもや船手組中船頭の神代(こうじろ)殿の縁者と言う事はありませぬか?」


「うぐっ……」


 如何にも憤懣(ふんまん)やるせない顔からさっと血の気が引いた。

 どうやら図星だったらしい。一転男は静まり返った。



 わしは今なら道理が通じると諭しに入る。


「失礼でございますが。未だ学びの道を()えぬ書生の身にあると存じます。


 今宵の事は、抱負偉大にして血気盛ん。気概のある(おのこ)ならば、二度や三度は踏むであろう若気の至り。古き己は今この場にて切腹なさり、天命()(あらた)に生まれ変わられたと思召せ。


 仮令(たとえ)以前を知る者より、数多(あまた)毀言(きげん)を浴びようと。前世の宿業(しゅくごう)により業厄(ごうやく)を受けるは六道の定め。

 今宵は酔いがすっかり醒めるまで、縄目の恥を学びて心に(しか)()りなさい。


 もしもあなた様に、『生きて封侯(ほうこう)得らずんば、死して閻魔の王たらん』との気概がおありになるならば。

 今日のしくじりを省みて、後の肥やしになさいませ」


 言い放ったわしは、二条新地の親分に話を通す為に座敷を出た。



 親分に会って驚いた。

 さっきまで健康そのものだった親分が意識朦朧。熱を出して唸っていたのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
表紙絵
お読み頂きありがとうございます。
お気に召しましたら、ブックマークや最新頁の下にある評価点を入れて頂けると励みになります。
なろうに登録されていらっしゃらない方からの感想も受け付けておりますので、宜しかったら感想やリビューをお願いいたします。

---------------------
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ