親分の報告
●親分の報告
「山本様。仙吉めが参った」
二条新地の親分は、庭の玉石に平伏して呼ばわった。
すると継裃の三十路を過ぎた男が現れて、
「どうでした? 賊の話は集まったが?」
と、中間に掛ける言葉としては至極丁寧にもお国言葉で下問する。
「水戸訛りの侍ど薩摩言葉の侍が加わってるごどまでは突ぎ止めだ」
親分も同じ言葉で報告する。
「水戸が。はぁ~。御三家なのに悩ましいごどだ」
溜息と共に、藩重役のぼやきが入った。
「七条新地の女郎衆の報せによるど。勤皇を名乗る賊は、いづも天狗の面を付げだ鬼一法眼で言うふざげだ名を名乗る者を首魁どするんだど」
「鬼一……。
九郎判官義経公の師を騙るどは、まごどに不届ぎな奴輩だな」
「へい。床で一味が漏らした話だど、近日中さ伊豆屋が山崎屋を狙ってるどのごど」
「それは痛えな。日頃無理を頼んでる上、大した身代でもねぇのに屋敷さ正月の餅や呉服を献上されでいる。
彼らのお陰でどらほどお家が助げられだが」
含みを持たせる藩重役。
親分は暫く考えて、
「町家にお侍を寄越すわげにはいがねぇがら、わしが手配してよろしいが」
と確認する。
「任せる。大商いでねぇが、藩士さ掛売をしてぐれる大事な商家だ」
「畏まった」
親分の返事に藩重役は、
「仙吉。殿よりこれを下げ渡す。殿ご愛用の品だ」
そう言って、ぱっと広げた一面の扇子を拝むように一礼してから、半紙を敷いた三方に載せて縁側に置いた。
白地に墨で中央に、丸に三つ葉河骨の肥後守家のご紋が描かれている。
「こだ下郎の身さ余るお心遣い、痛み入り申し上げます」
愛用の品と聞き、平伏したままの額を地面に擦り付けるように礼を言う親分。
親分は相手が立ち去るのを待って、漸く面を上げた。
暫くして戻って来た親分は、人の良い笑顔を向けて
「お嬢はんは勤皇を名乗る賊の事を知りたい言うとったけど、どないすん?
隠しとっても判る。どこのご家中か知らへんが、別式の修行なんやろう?」
と振って来た。
そう来たか。別式とは奥回りに仕え警護の任を担い。いざ鎌倉と言う時に武器を執って戦う女武芸者の謂いである。
取られ方としては悪くない。
「わしん見た所、歳に似合わへん腕と度胸や」
「武士の娘ですから」
「お嬢はんみたいな幼気な女童にあそこまで修羅場慣れさせてる。
ほんま、お侍言うのんはしんどいものやな」
「そうでございますか?」
「ああ。よもや伊達や酔狂で、殺しの術なんか覚えへんやろうさかいな」
苦笑いするしかない。
それにしても。正式に武芸を習ったことも無い筈なのに。
わしが躾刀で使おうとした銃剣術の手を、一目で殺しの術と看破するのは大した男だ。
「今のお嬢はんにこんなん言うのんはどうか思うが、後は肝を練るだけや。
一遍捕り物を経験して置くのもええで。今夜らしいが、来るか?」
親分は、十中八九は受けるだろうと言う感じでわしに聞いた。
「捕り物か。それは面白うございますね」
当然わしが諾と言うのは決まっておろう。





