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舐められたら殺す

●舐められたら殺す


 鯉口を切るだけで鍔鳴りする数打ち刀。

 時代劇では演出として殊更鍔鳴りを強調する。しかし実際にそんな刀はあり得ない。

 ガタつきのある緩い(つば)は、刀身と鐔がぶつかり合って拵えを損じてしまう。

 つまりそのまま放置すれば危なっかしくて使える代物では無いのだ。

 にも関わらずその長脇差。見た所、重ねは三分(さんぶ)程。つまり八ミリを超える刃肉(はにく)の刀。

 見事な直刃(すぐは)の整いから見て、腕前の(つたな)い者の作には見えない。



 これは……。わしは背筋に冷たい物が走るのを感じた。



 普通の人が思い浮かべる日本刀は、角度を変えれば周囲に溶け込むような、鏡のように磨き上げられた刃である。しかし彼らの長脇差は皆、粗い白研(しらと)ぎに抑えてあり、刃の彩から見て適切に寝刃合(ねたばあ)わせがされている。

 当に見栄えより実戦を重んじる人切り包丁の有り方であり、良く見れば鐔にはっきりと判る傷もある。


 ここから導き出される事は何か?

 こいつらは、実戦的な刀を手入れが追い付かぬ程頻繁に使用していることになる。


 相手の本気を見て取ったわしは、一転それまでの普通の小娘のふりを脱ぎ捨てて、言った。


「抜く以上。痛いでは済まされません。死ぬ覚悟はございますね」


 わしは背に隠した躾刀(しつけがたな)を定位置に戻す。


「だからどうした。

 もしわしらに勝とったとしても、二条新地(にじょうしんち)の親分が黙っちゃおらん」



 この時代の渡世人は、将門公の時代の武士に良く似ている。

 (いにしえ)の武士と同じく、公式には他人の持ち物である土地に実力で縄張りを作り、我が物としている。そして縄張りの土地をまるで名字のように使って居る。

 例えば。木曽義仲は木曽谷に拠点を構えたように、黒駒の勝三は上黒駒村戸倉を拠点に一家を構え居たからそう呼ばれるのだ。

 そして親分たる者は、事の是非を問わず何があっても子分の側に付いて護って遣らねば為らない。またそうでなくては子分の為り手が居ない。これも似たようなものだ。


「子供一人に手酷く負けるような者など、舐められても当然でしょう。

 無手で敵わず、長脇差を抜くと言うのならば。お覚悟を。

 私もそれで手加減できる程の腕前はございませぬ故」


「何を!」


 人を斬り慣れてはいても、正規に武術を習った者ではない。そこに付け込む隙がある。

 殺しの(わざ)を身に付けた者が、そうでない者を前にして一旦殺すと腹を括れば、(たお)す事は難しくない。


 殺しに掛かった多勢を相手にするならば、技は刺突の一手のみ。そう、突きならば急所を突けば竹刀でも人は殺せるのだ。

 わしは躾刀の木刀を右手で握り、(みね)を下にして左手を添え左半身に構えた。

 その目で(しか)と見よ。己が命と引き換えに。

 骨を圧し折るとか砕く程度では済まされぬ、前世でわしが叩きこまれた殺しの術を。


 なるほど。こいつら戦い慣れている。さらに勘所も悪くはない。

 三方に開いてこちらを半包囲するものの、見慣れぬ構えを警戒してか突っ込んで来る者は居ない。


 切っ先で一人を制し、目線で別の一人を制する。

 これだけで、三人の内二人の行動は制された。


 思惑通り。残る一人が動き出そうとしたその時。


「待ちな!」


 横合いから小柄な男が現れた。

 まるで切られの与三郎みたいな刀傷が良く目立つ。

 顔だけでは無い。肌の見える所、傷の無い箇所を探す方が難しい。



 傷痕だらけの小男は、小料理屋の暖簾を潜る様にごく自然。そよ風のようにわしと長脇差を抜いた男達の間に割って入り込んだ。


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