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望んだ褒美

●望んだ褒美


 畏まって親父殿の命令を承ると、


(さち)付いて参れ。(まさ)も同席せよ」

 親父殿は、内々に話があるらしい。



 天守に上り人払いをする。

 居るのは親父殿と(まさ)殿とわしの三人だけだ。

 奥の親父殿の左右に、政殿と向かい合わせでわしは座る。


「大儀であった。(おおやけ)の褒美はあれになるとして。幸、何か所望は無いか?

 あれは政庁の都合で決めたことで、幸が望んだものでは無いからな。

 別に望みを叶えよう」


「何事でも宜しいのですか?」


 確認すると、


「良いと言いたいところだが、藩の財政は厳しい。子供でも、女は金が掛かることは知っておる。

 だがな。亀之助のお陰で多少は持ち直したのだが、あまり無理は出来ぬのだ」


 と釘を刺された。



「あ、いえ。舘とか呉服とか、そのような物ではございません。

 この目で大樹公(たいじゅこう)様のお城が見とうございます。兄上様達のお顔も幸は知りません」


 つまり旅がしたいと申し出た。

 都会へのあこがれは、何時の時代も変わらぬものだから、子供らしく夢を口に出してみる。



「うーむ。ご公儀のお膝元は入り鉄砲に出女と申してな、行きは良いが帰りがちと面倒だ。

 行きたいのか?」


 あれ? 言ってみるものだな。

 通るのか? こんな願い。


「はい。父上のお許しが出るのでしたら」


 あくまでもわしは、許されるのならばと言う態度を取る。


「うむ。内々に参るとしても道中の事だ。誰を供に参るのだ?」


宣振(まさのぶ)を連れて行こうかと思います」


「言っておくが、才覚を認めたとは言えあの者は他国人。忍び旅する姫を託す程の信用は無い。

 誰ぞ然るべき家中の者を付けねば為らぬ。(まさ)、誰ぞ良き者はおらんのか?」


 すると政殿は、


「姫様に付けるとなると中々にでございますな。

 しかしながら然るべき家の者は藩の要職にあり、その子弟は学びの最中か、ご府中(ふちゅう)・長崎に遊学中でございます」


 それさえ解決すれば、通りそうな成り行きだ。

 ならばとわしは勝負に出る。


「世継ぎの兄上様の奥番頭・小左衛門が一子、東一(とういち)殿は如何ですか?

 先頃、実家に顔を見せに戻ったと聞いております」


 わしがこう言うと親父殿は、


(まさ)和助(わすけ)が戻っておるのか?」


 と政殿に問い質した。


「はっ。何やら思う事があって、勝手に舞い戻った(よし)にございます」


 政殿が言い難そうに口にすると、親父殿は口元を緩ませる。


「そうか。勝手にか。おおかた(とら)の安否を確認する為であろう」


 あれ? と思いわしは聞く。


「父上。寅とは?」


「寅はうちの兵学師範である。

 大樹公の腹心を邀撃(ようげき)するのに、藩の大砲を貸せと申す過激な男だが、あれもいざ(いくさ)とならば、藩兵を率いねば為らぬ身の上。

 国を憂いての事だけに、余としては庇いたいのだが、頑固で中々言う事を聞かん。

 (ひとや)に入れて国許が罰した体裁で、ご公儀の処罰を拒んではおったのだが……」


 とうとう庇いきれなくなったと言う事か。


(まさ)。ご公儀の捕吏(ほり)が近日中に参る。

 和助が戻っておるのなら、師匠の影供をさせて遣りたいのだが」


「あくまでも、姫のお忍びの旅に同行させる。と言う名目でございますな?」


 政殿の言葉に、親父殿は頷いた。


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