表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/152

貰った褒美

●貰った褒美


 怒涛の様な藩兵達の歓声と共に、遠くなって行く船の影。

 ともあれ黒船は追い払った。


 見張りを残し意気揚々と山を下ると、


「お父上様がお呼びです」


 藩庁より迎えが参って居った。



「姫様。大事無いでございましょうか?」


 勝利の熱が醒めて、追い払ったは良いが報復を危惧する連中が不安を口にする。


「大事はありません。碌な交渉もせず、あのような乱暴な遣り方で仕掛けて来たのです。

 あれは(たち)の悪い海賊の(たぐい)。まかり間違っても外国(とつくに)の使者で有る筈がありません」


 そう説明したのだが。皆、意気地の無いことだ。



 確かにお城山より砲撃を加えると呆気ない程簡単に打ち払えたか、あれはこちらを侮って油断したからだ。

 浜より砲撃を仕掛けた面々は、散々な目に遭っている。なにせ、あちらの弾は届き、味方の弾が届かないのでは手の打ちようがないからである。

 まあそうだろう。長年発射の機会の無かった大砲である。

 大砲を発射する手順までは訓練していても、それでは発射するのがやっとの事。

 どう狙えば良いか。どう当てればよいかなど、知っている者は少ない。



(さち)か。近う」


 広間の敷居の前で一度正座し、頭を下げるわしに声が掛けられた。


 こうした評定(ひょうじょう)のような(おおやけ)の場では、親子と(いえど)も君臣の別を正さねばならない。継嗣ならいざ知らず、こちらはお手付きの子なのだから。

 膝行(しっこう)して少しばかりにじり寄り、再び頭を下げる。


「何を他人行儀なことをしておるのだ。町家に住まわせているとは言え、そちは我が娘なのだぞ」


 そう言われても、困ってしまう。


 わしが様子を伺って居ると、業を煮やしたのかとうとう父は、


(まさ)!」


 と声を発した。


(さち)をここまで連れて参れ」


 重臣の中でも上位に居るとみられる、かなり上座にいる四十路近い男に命じたのだ。



「姫様。どうぞこちらへ」


 こうまでされては是非も無い。手を伸ばせば父まで届くほど間近に連れて来られた。


「信賞必罰は武門の(なら)い。幸に褒美を取らせることと相成った。

 幸の子に相続は出来ないが、新たに化粧(けわい)料として百石を与える」


 大丈夫なのか親父殿。知行百石と言えば上士の禄高に相当する筈だ。


 (まさ)と呼ばれた男が、後を続け説明する。

「知行相当でございますれば。定免(じょうめん)三つ成三分(みつなりさんぶ)

 つまり藩より毎年玄米で徳米(とくまい)三十五石が渡されます。

 うち五石を食い扶持として三十石を銭にすれば、多少の変動はあるとしても。

 ……そうですな。二十二両二分と言ったところでしょうか。

 それに加えて年に二度、村よりそれなりの夫役銭(ぶやくせん)が参ります」


「遠慮するでない。そなたに辞退などされては、今後の褒賞に支障が出る。

 それに今までは子供ゆえ、はしたで済んでおったが。これからは色々と入用となる。

 元々何れ増やせねば為らぬものであったのだ。それを己の手柄で手にしたのだから、胸を張るが良い」


 褒美をやったと言う体裁は、予定通りの増額に対するとても丁度良い口実だったのだろう。

 家臣に対し、手柄を立てれば褒章がある事を(ひろ)める意味も大きい。


「先ずは、幸が自ら選び取った新しい家来に、十分に報いて遣るが良い。

 余も報告を受けたが。まさかあれほどの男を、子供の小遣い半分では繋ぎ止めておけんだろう。

 土州(どしゅう)殿への根回しは、余がやって置く。幸は家来の心を盗れ。良いな」


 親父殿は、藩主としてわしに命を下した。


メッセージで頂いた忠告により、「敵は妖怪」の頭3話を削除し差し替えました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
表紙絵
お読み頂きありがとうございます。
お気に召しましたら、ブックマークや最新頁の下にある評価点を入れて頂けると励みになります。
なろうに登録されていらっしゃらない方からの感想も受け付けておりますので、宜しかったら感想やリビューをお願いいたします。

---------------------
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ