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我に勝算あり

●我に勝算あり


 早駆けした宣振(まさのぶ)が戻って来るまで、四半時(しはんとき)掛かった。

 息を切らして駆けて来た彼が言うには、


「駄目じゃ。彼我の射程が倍ほども違う」


 散々たる負け戦だ。

 浜辺に配置した大砲は、いずれも相手に届かせる事も出来ず。一方的に砲撃を喰らっていると言う。


「お城山の上からも打ち下ろしてはいるが、まるで届かず手前にばかり落ちる。ありゃ駄目じゃ。

 敵は悠々とこちらの着弾点の一町(いっちょう)手前まで近づいて撃って来よる」


「それででしたか。大砲の音が減ったのは」


「ああ。まるで立派な侍と赤ん坊の戦いじゃ。わしが参った時には、浜の大砲は沈黙しておった。

 こちらは只の鉛の玉で、あちらは破裂して辺りを薙ぎ払う新式の弾じゃ。

 おまけにこちらの大砲が凄まじい煙を吐き出して、撃てば暫く視界を塞ぐのに、あちらの大砲は視界良好。

 もう何もかもが違い過ぎる。冶金(やきん)舎密(せいみ)も黒船の大砲が上手(うわて)じゃ」


舎密(せいみ)?」


「ん? ああ。玉薬を作ったり鍍金(メッキ)をしたりする奴じゃ」


 つまり化学(ばけがく)の事か。


「船の大砲は高台を狙えんので、お城山の大砲は無事じゃが。届かんのでは意味がない。

 あすこまで近づけば、届く筈なんじゃが。あん馬鹿者(べこのかあ)、どうやら直接狙いを付けておると見た」


「ベコノカア?」


「あ、すまん。つい興奮してしもた。国の言葉で大馬鹿者のことじゃ。

 悔しいのう。こんわしに指揮させてみぃ。(あた)らずとも船より向うに弾を落とし、黒船の連中の心胆(しんたん)を寒からしめて遣れるものを」


 藩兵の余りにも不甲斐無さに気を吐く宣振。


「宣振。おまえならなんとかできるのですか?」


「勿論じゃ」


 言いつつ、腰に結んだ袋から、竹の物差しの様な物を取り出した。


「計算尺……。宣振はそんな物を持ち歩いていたのですか」


「知っているのか姫さん。こんなものは、蘭学や砲術をやる者でも無ければ知らんことだぞ。

 わしのは師匠が長崎で手に入れた物を、目盛りを針と半紙で写さして貰うて手作りしたもんじゃが。そうでければ蘭学者でも手に入らんと言うのに」


 電卓が出来る以前の話だが、計算尺は技師や博士が携える物だった。頭二桁の精度だが、手早く掛け算割り算三角関数の計算などが出来る道具だ。



「わしも董斎(とうさい)先生の門人じゃ。だからちゃんと重学(ちょうがく)は習うておる。

 ここに書く秒とは、一メートル。つまり子午線の長さの四千万分の一の振り子が片道を行く時間のことじゃ」


 宣振は計算尺を操作しながら、矢立で懐紙に書き付けた。


――――

・浜の大砲

 砲口初速   百三十六(フィート)毎秒

 高さ     零丈

 最適打出角度 四十五度

 最大飛距離  二十一町

 滞空時間   二十一秒半


・お城山の大砲+強薬つよぐすり

 砲口初速   百四十五(フィート)毎秒

 高さ     四十七丈

 最適打出角度 四十三度半

 最大飛距離  二十五町

 滞空時間   二十三秒半

――――


「あんな使い方をされたら、大砲が夜泣きするわい。

 あの高さなら強薬を籠めれば、浜と比べて四町(よんちょう)は射程が伸びるんじゃ。

 さらに、大砲を使い潰す事にはなるが、地面に掘った穴に埋めて反動を殺せばまだ伸びる。

 あたら敵に壊されるくらいなら、無茶な使い方をして壊した方がましじゃ」


 わしも前世の下士志願で大砲の扱いは一通りは覚えたが、先込め砲の扱いまでは知らん。

 宣振め、こんな爪を隠しておったとはな。


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