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ゲベールライフル

●ゲベールライフル


 ゲベールを含む燧発(すいはつ)銃は、後の時代からすると煩雑な発射手順を必要とする。

 列挙すると、


――――

1.弾薬嚢から紙カートリッジを取り出して薬包を噛み切り、弾丸を口に頬張る。

2.コックを一段引き、火縄銃では火蓋に当たる当り金を開けて火皿に点火薬を入れ、また閉じる。

3.銃身を垂直に立て、銃口から玉薬を注ぎ、続いて弾丸を挿入する。

4.銃に挿してある槊杖(かるか)を引き抜き、これで玉薬と弾丸を奥まで押し固める。

5.槊杖を納め、コックを最大限に引いて発射準備完了。

6.発砲。

――――


 これほどの手順が必要なので、先込め銃は一分に三発を撃つことが出来れば精鋭と呼ばれたらしい。

 らしいと言うのは。前世のわしが生まれた頃には、既に金属薬莢の時代になって居たからである。

 なので、実はこの時代の先込め銃を使った戦術については余り知らない。わしの知る戦術は、元込め式の旋条銃(しじょうじゅう)で、一度の装填で連発出来る事が前提のものであったのだから。

 ならば、少しでもわしが運用し易いようにゲベールと運用方法を弄って遣らねばならない。


 諸問題の内。発射間隔を縮める工夫は既に戦国時代に考案されている。早合(はやごう)だ。

 予め玉薬を量り専用ケースに入れて置き、銃口に付け。槊杖で一気に弾と玉薬を押し込む方式だ。

 また、簡単な改造であるから、既に発射装置は燧発式から雷管式に換装した。


 そして、


「あーあ。これはなかなか難儀ぞ。口径に結構ばらつきがある」


 疲れた声で宣振(まさのぶ)がぼやいているが、こいつは下手な奴らに任せられんからな。

 ちゃんと砲術を学んで理屈を理解している者にしか頼めないのだ。


 今、宣振に遣らせておるのが一番の秘策。

 鍛冶屋に創らせた旋条鈕(しじょうちゅう)と言う斜めに直線の突起が付いた工具をゲベールの銃身内部に打ち込んで、旋条銃に改造しているのである。

 銃口から旋条鈕を打ち込むと、先が回転しながら銃身に六条の旋条を付けて行くのだ。


 ゲベールの銃身内部に旋条を付ける為削るのは、熟練の職人でも時間の掛かる事ではある。何よりも全く同じ間隔に削らせるのは難しい事であった。

 ところが、この旋条鈕を打ち込んで内部に溝を鍛造すると、旋条の間隔を考えずとも良いのである。


 この時代。銃は後の大量生産の物ではないから、銃ごとに微細な口径のばらつきがある。旋条鈕での旋条鍛造は、このばらつきをある程度なんとかする為のものでもあった。


 勿論、早合に仕込む銃弾はここで作ったミニエー弾である。質が劣るものの、弾尾のコルクはアベマキの物で役に立った。



 そしてその運用だが……。


 取り敢えず。本来的なゲベールの扱いは実銃が来る前に形になっていたし、既に塹壕掘りまでは身についていたから、後は遭遇戦で銃撃戦になった時の応用だ。



「こうして腹臥位(ふくがい)からごろんと横に半回転し仰臥位(ぎょうがい)になります。この姿勢で弾込めを行い、直って伏せ撃ちの姿勢に……」


 見本を見せて指導する。


 わしの運用は掩体(えんたい)に身を隠しての腹臥位での伏射(ふくしゃ)である。伏撃は掩体無しでも被弾率が立射(りっしゃ)の十分の一まで下がるから、これを使わぬ手はない。

 しかし先込め銃では、腹這いに伏せたままでは弾を込めるのは難しい。そこで窮余の一策。仰向けになり腹の上で早合で装填する方式を思い付いた。


 重力の力を借りずに、弾と玉薬を確実に適切な位置まで押し込むには熟練が必要だ。しかし遣って出来ぬことは無い。さらにこれでは装填時、敵から目を切った無防備になり吶喊(とっかん)されたら即応するのは難しい。しかし立ち上がって弾込めする事を思えば、まだ安全なのだ。


 そしてこの無防備を前提として、敵への警戒を切らぬ為に二人一組にして同時に仰向けの不利を生じぬように指導する。所謂(いわゆる)ツーマンセルだ。

 この組は軍の最小単位であり、如何なる時でも行動を共にし、白兵戦でも相互に支援することになるから、考え方は空戦のロッテ戦術に近いだろう。


 そうそう。今、(やわら)の修練に遣らせている綱登りや『ハラバイ』もどうやら真面にこなせるように成って来た。未だ新兵の域を出ないが、これならなんとか戦えるだろう。



 わしが破軍神社の道場で、こんな日々を過ごしていると。


登茂恵(ともえ)さん。可愛いお客様ですよ」


 摩耶(まや)殿がわしを呼びに来た。


「角兵衛獅子の子ですので、最初門付(かどづ)けかと思いましたが。なんでも天狗の小父ちゃんのお手紙を預かっていると言うので」


「何!」


 思い当たるのは京で出会った鬼一法眼(きいちほうげん)の使いの子だ。

 奴めは勤皇の賊の首魁(しゅかい)とも言うべき鞍馬山の天狗。京にあるあいつが、いったいわしに何の用だろう。


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