第九十八話 懸念点の解消と更なるお誘い
ひとまず朝食を食べ終え、一通り食器を洗った後、電話の件について話し合うことになった。
「さてと、どうしたものか……」
俺自身は和奏の実家に行って話をするだけなら抵抗はないのだが、それがもし泊まり込みとなるなら話は別だろう。
俺は一口お茶を飲んでから和奏に聞いた。
「あー……奏子さんの話って、おそらく泊まりでって事だよな?」
「たぶん。私と一緒に泊まりに来なってことだと思う」
「だよなぁー」
家族がいるとは言え、同じ屋根の下で和奏と数日を共にするということになる。
そうなることに和奏としてはどう思うのだろう。
俺が腕を組みながら悩んでいると、和奏が聞いてきた。
「修司にとって気まずいと思うから、そんなに悩まなくていいよ?」
「え、行かなくても問題ないのか?」
「いきなり言ってきたのはお祖母ちゃんだしね。まぁ私が帰った時にちょっと文句言われるかもしれないけど」
和奏はそう言いながら、困ったように苦笑する。
だが、その様子からは俺が行くことに対しては、抵抗がないように見えた。
俺は思い切って、和奏に気になったことについて聞く。
「和奏は俺が一緒に行くことについては何も思わないのか?」
「え? なんで?」
「いや家族がいるといっても、同じ屋根の下で数日俺と一緒に生活することになると思うんだが……」
和奏は俺の言葉を聞いて少し驚いた表情を見せた後、呆れたようにため息をついた。
そのまま少し部屋の中を見渡しながら聞いてくる。
「修司が退院してからの生活と、大して変わらないと思うんだけど?」
確かに今の状況を考えると、寝る時と風呂以外はほとんど一緒にいる。
この数日間は俺が一人でいる時は、和奏が買い物に出かけているときくらいだ。
そう考えると、和奏の実家に泊まることになっても寝室は別になると思うし、注意する点は風呂くらいだろう。
俺は和奏の言葉に納得した。
「あー……確かに」
「でしょ?」
和奏は笑いながら答えた。
そうなると、俺が気にしていた問題は、和奏の反応を見る限り問題なさそうだ。
泊まる期間と一応俺の両親には伝えておいた方がいいということくらいだろうか。
「滞在日数とか決まってるのか?」
「えっと、行くのは明後日か明々後日になるかなってことはお祖母ちゃんに伝えたけど、帰る日は何も決めてない」
「ん、了解。それじゃあ、そのように一応母さん達に話しておくわ」
「え! 来るの!?」
和奏は驚きのあまり身を乗り出して聞いてきた。
俺もそんな和奏に驚いて、身体を引きながら答える。
「あ、ああ。せっかく帰るのに小言を言われるのは和奏も嫌だろうと思うし、俺も別に嫌じゃないから」
「そ、そう? 無理してない?」
「無理をしてるとかはないな」
「そうなんだ」
和奏はどこか嬉しそうにしながら態勢を戻していく。
そんな和奏の様子に少し安心しながら、俺は携帯を取り出して母親に電話をする。
俺が電話をかけると、母親はすぐに出てくれた。
「もしもし? どうしたの?」
「あ、母さん。急に連絡してごめん」
「それは全然いいんだけど、修司から連絡してくるなんか珍しいから、何かあったの?」
「実家に顔出す日なんだけど、もしかしたらお盆過ぎるかもしれない」
「あらま。何か予定が入ったの?」
「そのことなんだけど……和奏の実家に誘われて」
「え! 和奏ちゃんのとこに!? 司さん大変よ! 事件事件!」
「ちょっ! 母さん!?」
母さんは俺の言葉を聞いて驚くと、電話越しから慌ただしい音が聞こえだしたが、しばらくすると落ち着いたのか音が止んだ。
「修司か?」
「父さん?」
「ああ。母さんは舞い上がりすぎて、話が進まないと思ったから替わってもらった」
母さんは結構妄想が豊かという一面があるせいか、おそらく今テンションが上がっておかしくなっているのだろう。
それを見かねた父さんが代わりに話を聞いてくれるみたいだ。
「それで……向こうのご家族からお誘いがあったのか?」
「うん。この前の出来事のお礼も言いたいからって」
「そうか……行くときは何か手土産を必ず持って行きなさい。もしお酒とかにした方がいいなら、私達で買って届けるから」
「ありがとう。でもお酒じゃなくて、食べ物にしようと思ってるから大丈夫かな」
「そうか。あとは失礼の無いようにな」
「うん。気を付けるよ」
「あとは……」
普段通りに電話している父さんだったが、心配なのか色々と注意点を探しているようだ。
急に父さんが考える声が聞こえなくなると、今度は電話の相手が母さんに替わった。
「修司! ちゃんと向こうのご家族と仲良くするのよ!? そんな良い子中々いないんだから、外堀から埋めちゃいなさい!」
「母さん……そういうのいいから」
何とか平静に返すが、俺が和奏を好きなことを知っているかのように言われて内心焦る。
俺が心を落ち着けていると、何か思いついたように母さんが聞いてきた。
「こっちには顔出すのは変わらないのよね?」
「えっ、まぁそうだね」
「それなら一緒に和奏ちゃんも連れてきなさい! 私達だって、ちゃんとこの前のお礼をしたいんだから」
「え? いや、でも日帰りだけど」
「ご飯を一緒に食べるくらいの時間はあるでしょ? わかった?」
「それは和奏に聞いてからにするよ。もしそうなったら、その時また電話する」
「そうね。じゃあ話してみなさいね?」
「ああ、わかったよ。それじゃ」
「待ってるからね~」
電話を切ると、俺の言葉だけ聞いていた和奏が不思議そうな顔をしていた。
とりあえず和奏の実家に行く許可をもらったことだけ、すぐに和奏に伝えた。
「じゃあ、いつ行くか決めないとね!」
「あとは何か手土産を持って行きたいから、今日明日で決めないとだな」
和奏はカレンダーに予定を入れているのか、楽しそうに携帯を操作していた。
そのまま俺は電話で話したもう一つのことを和奏に聞いた。
「さっきの電話で母さんに、俺が実家に顔出す時は和奏も一緒に連れて来いって言われたんだが……和奏が良ければ」
「行く!」
俺が全部言い切る前に和奏は答えていた。
そんなに母さんに会いたかったのか?
俺はそんな風に思いながら、更に嬉しそうに携帯を操作している和奏を見ていた。