第八十話 便利屋からの情報
あれから何事もなく、和奏と一緒に登下校する日々が続いた。
あの一件以来、倉澄が何か仕掛けてくるようなことはなかった。
和奏に聞いても、ここ最近変なことは起きていないという。
そんなある時、帰り道で最近見た二人組と出会った。
「あ、お兄さんどうも」
「また会ったな」
便利屋の二人が挨拶をしてくる。
隣にいた和奏が知り合いですかと、不思議そうに俺を見てきた。
「この前、名刺を見せた便利屋の人達だ」
「ああ! この前は助けていただいて、ありがとうございます!」
「いえいえ。仕事のついでだったから気にしないで」
優男の方がおちゃらけた様子で笑いながらそう言った。
「あ、お名前は……すみません、天ヶ瀬君。名刺をもう一度見せてもらえませんか?」
「いいよいいよ。せっかくだから、改めて自己紹介するよ」
俺が名刺を出そうとしたが、優男の方がそう言って名刺を出すのを止めた。
「自分は東堂泰利って言いまして、便利屋なんていう胡散臭い仕事をやってます。で、こっちの無駄にでかい奴が」
「西上寅一だ」
「ってな感じで二人でやってます。名義は二人の一文字から取ってつけたんだよね、まぁ二人しかいないけど」
東堂さんは笑いながら自虐するように言いながら、和奏の方にも自分の名刺を渡す。
西上さんも普段通り顔色を変えず名刺を渡している。
名刺を受け取ると、和奏が自己紹介をしたので、それに続いて俺も自己紹介をする。
「桜花高校二年の神代和奏です」
「天ヶ瀬修司です」
「天ヶ瀬君と神代さんね。何か困ったことがあれば、気軽に連絡していいからね」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、俺達は仕事中だから。またね~」
そう言った東堂さんは去り際に、一瞬だけ鋭い視線を俺に送って去って行った。
西上さんも東堂さんの後に続いて歩いて行く。
東堂さん達が去ってから、俺達もそのまま家に帰宅した。
家に帰ると、去り際の東堂さんの視線に何か意味があるようなに思えたため、すぐに電話をかけてみた。
「お電話いただきありがとうございます。こちら便利屋泰寅です」
「さっきまで話していた天ヶ瀬です」
「おっ、天ヶ瀬君だったか! 気づいてくれてよかったよかった。少し話が長くなりそうだから……さっき会ったところまで来てもらえる?」
「わかりました」
俺は電話を切るとすぐに家から出て、先程東堂さん達と出会った場所まで急いだ。
俺が着くと、二人は立ち話をしながら待っていた。
「待たせてすみません」
「こっちが勝手に話があっただけだから、そんなに急がなくてもよかったのに。礼儀正しい子だなぁ」
「とりあえず近くの喫茶店にでも入るぞ」
「はい」
俺達は近くにあった喫茶店に入って、四人席に座った。
「話をする前に何か頼もうか。好きなの頼んでいいよ」
「すみません。それじゃ、アイスコーヒーで」
「自分も天ヶ瀬君と同じものにしようかなぁ……。トラは?」
西上さんはしばらくメニューを見た後に答えた。
「……キャラメルラテ」
「えっ?」
「っぷ……」
体格の良い強面の西上さんが甘いものを頼むものだから、そのギャップに驚いてしまった。
そんな俺の様子を見ながら、東堂さんは何も言わず笑いを堪えていた。
「何か変か?」
「いっ……いえ」
「ぷぷっ……天ヶ瀬君の反応は仕方ないと思うよ。ギャップがすごいもんね」
「うるさいぞヤス。コーヒーが飲めないんだから、仕方ないだろ」
西上さんが東堂さんを睨むが、東堂さんは慣れているのか気にせず店員さんを呼んで注文していた。
少し待つと、頼んだものが並んだので本題に入った。
「この前の写真の件で、わかったことがあったから話そうと思ってね」
「何がわかったんですか?」
「と、その前に一応ネット上に神代さんの写真がないか調べてもらったけど、おそらくないみたいだから安心して」
「……よかった」
俺はひとまず安心した。
何処か怪しいサイトや掲示板に上げられてしまったら、和奏の危険は倉澄だけの話ではなくなってしまうため、それだけは回避できてよかったと思う。
しかし、東堂さんの表情は険しいものから変わらない。
「ただ……写真の件を調べているうちに、悪い噂を見つけてね。ある地域で、簡単に高校生の女の子と行為ができるって話」
「それも結構質が悪いものだ。売りものにされている女も合意の上でやっているらしい。まぁ好んでやっている奴もいるだろうけど、中には強要されている奴がいてもおかしくないな」
二人から話を聞いてるだけでも胸糞悪くなってくる。
写真を調べているうちにその情報に行きついたということは、この前のことを含めて全部に倉澄が関係している可能性が高くなった。
「ちなみに、ここから電車で三十分くらいの地域の噂ですか?」
「そうだね」
これでほぼ確定か……あの地域で悪い噂の根源は全部倉澄だな。
俺はテーブルの下で拳を強くに握り、怒りで震える体をなんとか抑える。
東堂さんは、そんな俺の様子をじっと見ていて、思いがけない言葉をかけてきた。
「変なことを考えず、いつも通り生活してね。 流石に高校生が首を突っ込んでいい話じゃないから」
「っ!」
「それに高校生の君に何ができるの? 何もできないよね」
確かに東堂さんの言う通りで、今の俺に出来ることなんか和奏を危険な目に合わせないようにするしかない。
根本の原因を解決する力なんか何処にもなかった。
何もできないのが自分に対して悔しくなり、唇を噛んで何も言えなくなってしまった。
「……後は俺達がやるから、黙って待ってろ」
「……わかりました」
「話はこれでおしまい。このまま雑談でもしていくかい?」
「いえ……情報、ありがとうございました。失礼します」
「あらま」
俺は席を立ち、二人を置いて先に喫茶店から出た。