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第八話 高嶺の花と約束

 保健室に着いた俺は保健医の先生に後は任せようと思ったが、部屋の中には誰もいなかった。

 仕方がないので、ひとまず神代をベッドの上に寝かせて先生が来るまで待つことにした。


 まぁどうせ先生が来る前に、神代にとっての主人公らしき人物がたまたま保健室を訪ねてきて、俺と変わることになるのだろうなんて思っている。そいつに経緯を話して後を任せればいい。

 

 大体こういうことがあるといつもそうだ。

 結局俺は誰かの引き立て役だったり、物語を進めるための脇役。

 そんな俺が何かをしたところで、皆が幸せなハッピーエンドでめでたしめでたしになることは変わりない。

 でしゃばった真似なんかしてもどうせ結果は変わらず、ただ俺が後悔するだけ。

 そんなことなら無闇に人に干渉せず、ただ流れに身を任せていれば良い。


 本当に損な体質だよ……。


 そんなことを考えていると陰鬱な気分に沈んでいく。

 俺は気分を切り替える為に鞄から本を取り出して、読書をすることにした。




 読書に熱中していた俺は、ふと時計を見ると二時間経つくらいにまで回っていた。

 こんなに時間が経っているのに誰も来ないというのはかなり珍しい。

 そんな疑問を感じている時だった。


「……ん」


 かすかに神代の声が聞こえたので、顔を見るとまぶたが僅かに動いていた。

 とりあえず、近くに俺がいてパニックになられても困るので少し離れて視線を本に戻す。


「……あれ? ここは?」


「ようやく起きたか……」


 俺は本を読みながら神代の方を見ずにそう言った。


「誰!!」


 ほらこいつ警戒心高すぎだから、もし近くに居たら殴られてたわ。


「お前のお隣さんだ……二重の意味でのな」


「……天ヶ瀬君ですか」


「すみませんね。俺みたいな奴がお前を保健室まで連れてきて」


「え? あ!」


 俺の言葉で神代は、自分がなぜ保健室にいる理解したらしい。


「ということでしたら生徒会を訪ねたのは……」


「俺だな」


「ちなみに……本当に! ちなみになんですけど……」


「あー……うん」


「私が生徒会室で何をしていたかというのは……」


「あーいや、最初は何をしていたのかわからなかったぞ?」


「そうで……ん? 最初は?」


「神代が気絶したあとすぐに会長が来て、あーなんていうか……あの状況でお前が何してたかも全部説明してしまって……」


「はい?」


「いやだから……あのサメのぬいぐるみがお前の私物で、それを抱きしめてストレス発散しているっていう話を生徒会長から聞いてしまった。というか聞かされたというか」


「あははは……終わった……」


 神代は何もかもが終わって、絶望したような顔をして下を向いた。


「……いやこれは夢……そう夢なんです。きっと起きたら自分のベッドで、何もかも悪い夢だったそういうことですね……」


 神代は現実逃避をするように、布団の中に潜ろうとしていた。


「別に知られて困るようなことではないだろ。むしろ男たちからすればポイント高いんじゃないか? 多分だけどな」


「……そんなのどうでもいいのよ。今度はただ何事もなく卒業まで行けると思ったのに……。もうあの時みたいなことはごめんなのに……」


「……はぁ」


 よくはわからないが、神代は思ったより沈んでる。

 なんか色々抱えてそうな雰囲気はするが、今俺がそこに突っ込むのは野暮ってもんだろう。

 まずは、このしょぼくれているお嬢様(笑)をなんとかしないとだ。


「要するに、俺が最初の約束を破らなければいい話だな。仮に俺がこの話を誰かにしたところで、誰も信じない。あと俺は目立たない陰キャだ。この学校に友達が二人しかいないからそんな心配する必要はないだろうよ」


 なんだろう、自分で言ってて虚しくなってきた。


「……本当に?」


 神代はいつの間にか布団から少し顔を出して、こちらを見ながらそう言ってきた。


「ああ、本当だ。俺は何もない平穏のほうが大事だからな。普通に生活して普通に卒業できれば、あとは気にしない」


「じゃあ……信用する。でももし! ちょっとでも誰かに話したりしたら社会的に抹殺するからね!」


「はいはい、それでいいから」


「じゃあ、これからよろしく……」


「ああ、よろしく? あの猫被りはしなくていいのか?」


「……猫被りって。もう天ヶ瀬君にはだいたいばれちゃってるから、無理に変える必要ないでしょ? それにあれ疲れるし」


「そうか。まぁそこらへんは神代の好きにしてくれ」


 なんとか神代の調子を戻すことに成功したことに安堵した。

 その時、ふと神代の頭が目に入った。

 神代は気絶するくらいの勢いで頭をぶつけていたため、少しだけ体の方が気になった。


「体の方、特にぶつけたところとか問題なさそうか?」


「うーん。多分たんこぶができるくらいで、体の方はなんともなさそう」


「そうか。念のため、今日は生徒会活動しないで家に帰れ。少しでも調子が悪いと思ったら、病院で診てもらってくれ」


「うん、そうする。もしかして起きるまで待っててくれたの?」


「……先生が来たら交代してもらうつもりではいた」


「そうなの? でも、ありがとう」


「まぁ少しくらいは俺にも責任があるからな」


「ふふ、別に気にしなくていいのに。そういえば、なんで生徒会を訪ねたの?」


「それは、あ!」


「え? なに?」


「いや……本来の目的をすっかり忘れさってた。花壇の植木鉢がいくつか割れてしまったから直さないとと思って……管理をしている生徒会を訪ねたんだよ」


「え? じゃあそれそのまんまってこと?」


「……多分」


「はぁ……何やってるのよ。私も手伝うから今から直しに行くわよ」


「いやさっき生徒会活動しないで帰るって言っただろ。あとは会長とかに聞いて俺がやるからいいぞ」


「下手に直されても困るし、後ろから指示出すだけだから大丈夫。体動かすのは天ヶ瀬君に任せるから」


「まぁそれなら……」


「ほら、じゃあ行くわよ。このまま外観が損なわれているのを他の人に見られて、生徒会の仕事怠慢なんて言われるのも嫌だもの」


「わかったわかったから! 急に激しく動くな!」


 神代は気絶していたことなんか気にしない勢いでベットから起きると、急いで靴を履いて扉の方まで歩いて行った。

 俺は持っていた本をすぐに鞄にしまって、神代の後を追いかけた。


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