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第七十九話 会長からの情報

 二人が立ち去った後、和奏から送られてきたメッセージに出てきていいと返信する。

 すると、和奏はすぐにコンビニから出てきた。


「……さっき警察がきてたけど、何があったの?」


「……和奏をストーカーしてた奴が捕まった」


「えっ?」


「元々お尋ね者らしくて、探してた人達が通報してくれた」


「探してた人?」


「さっき俺と話していた人達で、えっと」


 俺は便利屋から受け取った名刺をそのまま和奏に見せる。


「お困りごとがあればなんでも承ります。便利屋泰寅(やすとら)?」


「怪しく思うかもしれないが、その電話番号も間違ってなかった」


「……じゃあ、倉澄さんは関係なかったってこと?」


 和奏は不安そうに聞いてきた。

 俺は本当のことを言いたくなるが、このまま何かに怯えながら和奏に生活してほしくなかった。

 優男に言われた通り、本当のことを伝えるのを我慢した。


「……ああ」


「……そうなんだ」


 和奏は手を胸の前に組んで少し沈んだ表情になる。

 それは何事もなく終わって安心する気持ちと、倉澄が何かしてくる可能性がなくなったわけではないという不安な気持ちが、入り混じったものに見えた。

 今の和奏に気休めな言葉を言ったところで、何も効果はないと思う。

 それならと、今の俺が賭けられる言葉を和奏に伝える。


「今後、何かあったら俺が助けるってこと忘れたか?」


「え?」


「何時ぞやのお前の言葉だ。だから、もし何かあっても俺が助けてやるから安心してくれ」


 驚いている和奏の目を見ながらそう言うと、少し格好つけすぎたと思う。

 俺は言ったそばから恥ずかしくなり、すぐに目を逸らした。

 和奏はそんな俺の様子を見て驚いていたものから、面白いものを見たように笑いをこらえ始める。


「……ぷっ……くっくく……はっ、恥ずかしくなるなら言わなきゃいいのに」


「……うっせ」


「あははは!」


「人が心配してるのに、お前なぁ!?」


 和奏は俺の照れ隠しを見ると、堪えきれず笑い始めてしまった。

 その様子は先程の表情に比べれば、少しだけいつもの和奏のものに戻っていた。

 俺は少し不貞腐れながら、和奏と一緒に帰り道を歩き始める。

 そのまま歩いていると、和奏が小さく一言呟いた。


「ありがとう」


 俺は和奏の言葉に照れくさくなり、少し頬を掻く。

 その後、俺達はそのまま何事もなく一緒に帰った。




 あれから数日、和奏と一緒に登下校する日々が続いた。

 登校時は学校近くになると、目立たないように少し距離を開けて校門を通う。

 下校時は放課後になったら、一緒に帰る時間まで図書室で本を読んで待っている。

 そんな毎日を繰り返していたある日、いつものように一緒に変える時間まで図書室で本を読んでいたら、前と同じように会長が俺を訪ねてきた。


「例の和奏ちゃんの件で、少しお時間いいですか?」


「ああ」


「ありがとうございます。先日話してくれた女について、現状わかったことを天ヶ瀬君に共有します」


「頼む」


 会長は倉澄の情報を簡単なものから順に話してくれた。

 倉澄は俺達の学校の最寄駅から電車で三十分くらい高校に通っているみたいだ。

 遊園地は俺達の学校と倉澄の学校の間にあるので、この前の鉢合わせしたことも納得した。

 学校ではクラスのムードメーカー的な、幸太と同じような存在らしい。

 確かに中学の時にも周りの空気を読むことや、その空気を上手く使っていたイメージがある。

 ただ、それは表向きの話で、裏では和奏にやったようなことを続けているらしい。

 それは中学の頃よりもひどく悪化して。


「前から良く思ってなかったが、そこまでひどいとはな」


「はい。その中でも奇妙な噂がいくつかありますね」


「奇妙な噂?」


「ええ……倉澄さんは部活動で近くの大学の練習に参加していたりするみたいなのですが、特に気に入らない子を連れて大学に行かれるらしいというような」


「なんで大学なんかに……」


 確かに倉澄は中学の頃にテニス部に所属していたが、大学の練習に参加するほどの実力者だったようなことは聞いたことがない。

 それに気に入らない奴を大学に連れて行くなんて、何かやってますよと言っているようなくらい怪しげだ。


「転校後に実力が伸び始めたみたいです。今ではこの地域でも有名なプレイヤーみたいですよ」


「……なるほどな。連れて行かれた奴らについて、その後の情報とかはないのか?」


「内々だけで話を外に出していないのか、特に詳しい情報はないですね」


「……そうか」


「あと、倉澄さんの行動が過激になったのは、ここ数年の話です。どうやら父親が経営している会社、倉澄グループが業績を大きく伸ばし始めた辺りからみたいです」


 父親の成功や部活動の好成績。

 これらのことで倉澄の気持ちが増長して、やり方が過激になっていったのは間違いなさそうだ。

 会長の話を聞いて、俺は嫌な予感を感じて鳥肌が立つ。

 本当に犯罪めいたことをやっていてもおかしくない話で、それに和奏が巻き込まれるかもしれない考えると、危機感に駆られる。

 しかし、今の状況ではまだ倉澄が悪事を働いている証拠がないため、どうしても受け身にならざるを得ない。

 何か良い案がないか考えていると、会長が提案してきた。


「私の方で、まだやれることがありそうなので色々と動きます。天ヶ瀬君はその間、わかちゃんのメンタルケアとボディーガードをお願いします」


「とりあえず、今まで通りいいのか?」


「はい。大変だと思いますが、よろしくお願いします」


「……俺が自分からやるって言ったことだから、気にしないでくれ」


 俺がそう言うと、会長は何処か驚いたような顔をする。

 特に変なことを言った覚えはないので不思議に思っていると、会長が何故か懐かしさを感じていた。


「本当に……よく似てますね」


「何がだ?」


「……こちらの話です」


 会長は静かに首を横に振りながら、何でもないと言った様子で俺に言った。


「それではよろしくお願いします」


「ああ」


 会長は要件を話し終えると、すぐに図書室を出て行った。

 俺は本を開いて倉澄の問題をどう解決するか考えながら、和奏と一緒に帰るまで時間を潰した。

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