第七十四話 桜花夫婦に説教と恋人達へのお節介
列に並ぶとすぐに俺達の順番が来たが、二つしか空いていなかった。
「これならせっかくですし、片桐君と速水さんのお二人で乗るのはどでしょう? もう一つに私達四人で乗りませんか?」
「俺は陽香の意見に賛成!」
一之瀬がそう提案すると、幸太が賛同した。
俺と和奏も頷いて同意した。
「僕達に気を使わなくてもいいんだけど……」
片桐が申し訳なさそうに、次に来た時にでも二人で乗ればいいと言いたげだった。
「今は今で乗ればいいと思うぞ。元々、俺達四人で遊びに来てたんだから変に遠慮するな」
「ありがとうごいざます! 一馬先輩、ここは皆さんのご厚意に甘えましょう?」
俺と速水がそう言うと片桐も納得して、二人が先にコーヒーカップに乗っていく。
二人が乗ったコーヒーカップがずれて、次のものに一之瀬、幸太、俺、和奏の順で乗った。
それからすぐに動き始めて、片桐がハンドルを回しては速水が楽しそうにしていた。
それに比べて俺達のほうはというと。
「えっ、これ!?」
「おい! これ異様に速くなってないか!?」
俺と和奏が思わぬ速度で速くなる回転に戸惑っていたが、幸太と一之瀬は俺達を気にせずに更に速く回していく。
「陽香! これ前回よりも多く回せるんじゃないか!」
「いいですね! いきましょう!」
「おい!」
「えっ!?」
俺と和奏が驚くと、速度が更に上がる。
そのまま和奏は遠心力で俺のほうに寄りかかってきた。
「すっ、すみま……きゃっ!」
「いや、気に……おい! これ速すぎるだろ!?」
「前回よりも回していくぜ!!」
「あははは!」
一之瀬と幸太はハイになっているのか、まったく俺の声が聞こえていない。
回っている時にチラッと、別で乗っていた二人が心配そうに俺達を見ているような気がした。
そのまま俺達のコーヒーカップは、アトラクションの終わり際になるまで、あまりに速いスピードで回り続けた。
「お前らなぁ! 楽しんでるのは良いけど、一緒に乗っている奴のこと考えろ!?」
「……申し訳ない」
「……すみません」
俺は乗り終えると、すぐに幸太と一之瀬に説教をする。
二人は乗り終えた後、俺と和奏がぐったりしてるのを見て申し訳なくなったのか、今は落ち着いて俺の説教を聞いていた。
「二人共もう反省しているようですし、もう許してあげてください」
「だけどな……はぁ、わかったよ」
和奏が俺を宥めながら苦笑いをしていたので、俺は説教をやめた。
幸太と一之瀬は、まるで天使を見るような瞳で和奏を見ていた。
「神代さん……ありがとうございます」
「いえいえ。でもまた同じようなことがありましたら、今度は私が怒りますからね?」
「……もうしません」
「……すみません」
幸太と一之瀬は言葉と表情が異なっている和奏を見て、少し怯えながら返事をした。
それから俺達は気を取り直して、遊んでいないアトラクションを回った。
そして最後には、お決まりである観覧車の前に着いた。
「観覧車は幸太も片桐も彼女と二人で乗ってこい」
「そうですね。私達は下で待っていますので、楽しんできてください」
俺と和奏以外の四人がなんでといった様子で驚く。
これは事前に和奏と話して決めていたことで、幸太と一之瀬を最後二人で観覧車に乗ってもらおうと考えていた。
そこに片桐も追加されただけで、俺達の考えていたことは変わらない。
「観覧車はコーヒーカップと違って六人で乗れるから、皆で乗ればいいんじゃないか?」
「片桐の言うことはもっともなんだが、これが最後のアトラクションだろ? せっかくならカップルで楽しんでくれって気持ちと、馬に蹴られたくないって気持ちがあるんだよ。だから俺達のことは気にしないでくれ」
俺が四人に向かって手を払いながら言うと、少し申し訳なさそうにしながらも四人は観覧車に向かって行った。
「で、和奏は本当に乗らなくてよかったのか?」
「うん。ここで私が修司と一緒に乗ったら、変に思われちゃうもの」
「……本音は?」
「ものすっ……ごい乗りたい」
俺がこの提案した時、和奏は少し悩んでから賛同した。
そして今、他の四人がいなくなった途端、何かを我慢するように悔しそうな顏をしていた。
別に最初から本音を言ってくれてよかったのだが。
俺は少し呆れながら、和奏を見た。
「じゃあ乗るか?」
「えっ……でも」
「まだ何も思いついていないけど、乗り終えた後に適当に理由を言えばいいだろ。まぁ別に俺が一緒に乗る必要もないんだが……」
「それは修司に申し訳ないから嫌なのと、一人で観覧車に乗るって周りの目に耐えられる自信ない」
「……って言うと思ったよ」
そんな軽口を言った後、和奏は少し遠慮しながら聞いてくる。
「……本当にいいの?」
「俺のことは気にするな。せっかくなんだから、好きなら乗ったほうがいいだろ」
「じゃあ……乗りたい」
「なら、さっさと並ぶか」
俺達は列に並ぼうと歩き始めると、観覧車から降りてくる男女のグループとすれ違った。
その中の一人の女が、振り返って声をかけてきた。
「あれっ、神代さん?」
「……え」
和奏は声をかけられ振り返ると、声を詰まらせて固まった。
声をかけてきた女は、茶髪でやたらチャラそうな見た目の同学年くらいの女だった。