第七十三話 昼食中の雑談
全員が合流してから、遊園地にある飲食スペースで少し遅い昼食を取っていた。
「片桐君と速水さんは、ようやく恋人同士ですね」
一之瀬が温かい目で並んで座っている二人を見ていた。
一之瀬の言葉に、速水は片桐の腕を組みながら嬉しそうにしていて、片桐の方は少し恥ずかしそうにしている。
二人の仲睦まじい姿に幸太もいい笑顔で笑っていた。
そんな幸太と俺は目が合ってしまい、ニヤニヤと笑いながら見て聞いてきた。
「この二人を見て、修司も彼女がほしくなるんじゃないか?」
「いや、特に。それと急に気持ち悪い笑い方でこっちを見てくるな」
「ひでぇ!」
そんな俺と幸太のやり取りに他の四人は笑っていた。
しばらく笑い合った後に、一之瀬が俺に聞いてきた。
「そう言えば、天ヶ瀬君が恋愛に興味ないことは知っていますけど、好きなタイプについて聞いたことがないです」
「あー確かに」
幸太が一之瀬に同意しつつ、気になるといった視線を俺に向けてくる。
それは片桐と速水も同じようで、少し興味深そうに俺を見ていた。
残る和奏はというと、特に興味もなさそうにお茶を飲んでいるように見えるが、チラチラと俺の方を見ていた。
やはりこの手の話は、誰でも気になるものらしい。
しかし、特にそう言ったことを考えたことがないため、俺は少し困りながら正直に答えることにした。
「悪いが……特に気にしたことがないなぁ」
俺がそう言うと、和奏以外の四人が少し引き気味で驚いてしまった。
和奏は俺の過去を知っているせいなのか、少し俺のほうを悲しそうに見ていた。
「……修司って、本当に枯れてるな」
「うるせぇよ」
俺が幸太を睨むと、おどけたように怖がっておちょくってくる。
そんな幸太や驚いている周りの奴らを見て、俺は少し不貞腐れてしまう。
今まで自分の体質のことで手一杯で、そんなことを気にする暇などなかったんだから仕方ないだろ……。
そんなことを思いながら目を逸らしていると、今度は速水が和奏に聞いてきた。
「同じく恋愛に興味がない神代先輩はどう……」
「申し訳ないですけど、天ヶ瀬君と一緒で特に気にしたことがありません」
和奏は速水の言葉に対して食い気味に割り込んで、俺と同じようなことを言った。
速水達は食い気味に言われたことに驚いてはいたが、和奏の返答には予想通りで納得していた。
そんな中、俺は和奏の様子を見ていたが、学校で見るいつも通りの笑顔を崩さずに笑っていた。
まぁ和奏も俺と同じようなもので、そんなことを考えている状況じゃなかっただろうからな。
俺はそう思うと和奏から視線を外して、お茶を飲みながら周りの会話を聞いていた。
話の延長線上なのか、急に幸太に思いがけないことを言われてしまった。
「修司と神代さんって少し雰囲気が似てるよな。あとなんか……ちょっと仲が良いような気がするんだけど」
「へっ?」
「あっ、幸君も同じことを思ってたんですね? なんか神代さんって、他の人よりも天ヶ瀬君には少し遠慮がないような感じがするんですよね」
和奏は幸太と一之瀬に言われたことに、いつもの表情のままだが少し焦ったようになっていた。
和奏が助けを求めるように、一瞬だけ俺に視線を送ってきた。
「気のせいだろ」
「いや、それは僕も少し思ったかな」
「一馬先輩もですか? 私にはよくわからないですけど」
速水は良く分からず不思議そうにしていたが、片桐は薄々そう思っていたようで、幸太と一之瀬に共感していた。
このまま誤魔化すには少し厳しいかと思いながら和奏の様子を見ると、先程の少し焦った様子に恐怖を足したような表情になっていた。
そうだよな……この四人は大丈夫だと思うが、一度あったことを忘れられるわけないもんな。
そんなこと思った俺は、どうにかして誤魔化すことに決めた。
「まぁ幸太と一之瀬と一緒に四人で話すことがあったからな。人畜無害認定されてるんだと思うぞ。なぁ神代?」
「あっ……えっと……はい。特に態度を変えているわけではないですが、天ヶ瀬君とは話す機会が多かったので、そのせいかもしれません」
「確かに天ヶ瀬君は私から見ても無害ですね。まぁ、もう枯れてるから、そう思うのかもですけど」
「おい」
一之瀬の軽口と俺のツッコミで三人が笑う。
一之瀬の言葉に幸太と片桐も納得してくれたため、なんとか誤魔化すことに成功した。
そんな会話をしていれば、次に乗るアトラクションの予約時間が迫っていた。
「そろそろ行かないと、時間がまずいな」
「予約券を確保したアトラクションってなんでしたっけ?」
「コーヒーカップだね」
俺達はすぐにゴミを片付けて、コーヒーカップがあるところに向かい始めた。
前に幸太と一之瀬、片桐と速水がセットになって話しながら歩いている。
俺は丁度よく和奏と二人で並んで歩いていたため、先程の話で気になったことを聞く。
「今後も一之瀬達には黙ったままのほうがいいか?」
「……うん。まだ少し本当の私を知らない人に話すのは怖くて……このままじゃいけないんだろうけど……」
「そんな簡単に克服できるなら、わざわざ遠い学校を選ばないだろ。とりあえず、さっきの話は気にせずに今を楽しもうぜ」
「うん」
和奏がしっかり克服できたら、あいつらに話せばいい……。
頷いた和奏はまだ少し後ろめたさがあるようだったが、それでもアトラクションを楽しもうと気持ちを切り替えていた。




