第七十一話 イケメン君の告白
「探したよ。一緒に皆のところへ戻ろう?」
片桐は息を切らしながら優しい声でそう言った。
速水は少し間を空けてから片桐に聞く。
「……怒らないんですか?」
「苦手なものは誰にでもあるからね……ごめんね」
「……心配かけた私が悪いのになんで先輩が謝るんですか」
「あはは……僕達が無理に言ったことも原因だからかな」
片桐が困ったように笑うと、速水は黙ったまま肩を震わせ始めた。
そのまま抱え込んでいたものを吐き出すように言う。
「っ……どうして全然私を怒らないんですか! こんないつも付きまとってる後輩のせいで、神代先輩と一緒にいられる時間を奪われたんですよ!?」
「六花ちゃん……」
「どうしてっ……なんで怒ってこないんですかっ……」
速水は片桐のことが好き過ぎて、片桐の気持ちを優先してしまっていた。
それなのに自分が邪魔をしてしまったことが許せなくて、涙をこぼしながら片桐に叫ぶ。
そんな速水の思いを聞いた片桐は、先程の困ったような笑いではなく優しそうに笑いながら聞いた。
「ね、六花ちゃん。六花ちゃんはまだ僕のことが好き?」
「……ひっぐ……急に……なんですかぁ……」
「六花ちゃんがそんなことを言うから、僕のことが好きじゃなくなったのかなって」
「そんなわけないです……好きです……大好きです……だから先輩の恋も応援したかっただけです……」
速水は涙を拭いながら答える。
その答えを聞いた、片桐が安心したように一息つく。
「そっか。ならよかった」
「……えっ?」
片桐の言葉に驚く速水の下へ、片桐が近付いていく。
片桐が速水の前に立つと、鞄から何かを取り出して、速水の手をとって渡した。
「……これは?」
「学年一位のご褒美と誕生日プレゼント」
「……開けてもいいですか?」
「うん。むしろ開けてほしいかな」
速水がラッピングを解くと、縦長の箱が現れて中を開ける。
「……わぁ」
速水が箱の中身を取り出すと、手にネックレスを持って嬉しそうな声を漏らしていた。
それからまだ箱に何かあるようで、速水が不思議そうな表情をする。
「あれ……二つ?」
「ご褒美と誕生日プレゼントが一緒くたになっちゃってごめんね。だからもう一つ……」
片桐は速水の持っている箱の中から、もう一つネックレスを取り出して自分の首に着けた。
そして片桐は少し緊張するように一呼吸入れてから続ける。
「六花ちゃん……僕は君のことが好きだ。もし付き合ってくれるなら、そのネックレスを着けてほしいな」
片桐は愛おしい人を見る瞳で速水に告白した。
速水は手に持っていたネックレスの箱を見るように、少し俯いてから勢いよく顔を上げた。
「先輩に着けてほしいです!」
片桐は一瞬驚くが、意味を理解して嬉しそうにネックレスを着けていた。
「えへへっ……うっ……ひっぐ」
速水は嬉しそうに笑った後、そのまま泣き始めた。
そんな速水を片桐がそっと優しく抱きしめる。
「今まで不安にさせてごめんね。もう大丈夫だから」
そうして速水は片桐の胸の中で、しばらく泣き続ける。
頑張ってよかったな、速水。
俺は二人の様子を草の影から見て、罪悪感を感じながらも心の中で祝福していた。
すると、近くから小さく鼻をすする音がする。
音のをした方を見ると、口を塞がれていた和奏が感動して貰い泣きしていた。
「ぐす……おかっあぁ……」
ちょっ! 塞がれてるからって声を出さないでくれ!
俺が泣き始めた和奏を静かに宥めていると、速水の方が先に泣き止んだ。
それから片桐に気になったことを聞いていた。
「そういえば、先輩はどうしてこのタイミングに?」
「それは……本当はもう少し前に告白するつもりだったんだけど、こんな自分でいいのか悩んじゃってさ……。それでさっき神代さんと二人きりになった時に、最初の時のような感じで盛大に僕を振ってくれって頼んだんだ」
「えっ!? なんで?」
「自分の中でけじめみたいのがなかったから、悩んでたんじゃないかって思ってさ。それで頼んだら、神代さんなんて言ったと思う?」
「なんて言ったんですか?」
「そんなことを私に頼むくらいなら、自分の気持ちを真っ直ぐ速水さんに伝えてあげてくださいってさ。それで決心がついたから、今日中に伝えようと思ってね。幸いにもプレゼントを渡すってことで、二人きりになれるタイミングは作れるからさ」
「神代先輩が……」
片桐は意気地なしで申し訳ないと思っているような様子で、速水は感謝するように和奏の名前を呟いていた。
和奏はそんな話を片桐として背中を押したのか……。
俺はそう思いながら和奏の様子を見ると、ようやく落ち着いてきたみたいで涙をハンカチで拭っていた。
その時に和奏と目が合うが、片桐達の話を何も聞いていなかったのか、不思議そうに頭を横に傾けた。
こいつはこういうところがあるよなぁ……時々、天然というか抜けてるというか。
俺は和奏を見ながら、そんなことを思った。