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第七話 天才と変態は表裏一体

 割れた植木鉢のことを話すために生徒会室の前に来たが、生徒会室の中から奇妙な声が聞こえる。


「はぁ~…すーーーはぁ~~」


 あからさまにやばい予感が漂っている。

 絶対開けないほうがいいのはわかってるのだが、ものすごく生徒会室の中で何が行われているか気になってしまう。

 ラブコメの主人公とかは考え事などをしていて、何も気にせず入っていくのだろう。

 しかし、あえて危なそうなことに首を突っ込むほど馬鹿じゃない。

 こういう時はしっかりノックをして、許可をもらってから扉を開けるに限る。

 ひとまず扉をノックしてから声をかけて、中にいる人の反応を窺うことにした。


「すみません。誰かいますか?」


「へっ! あっ、えっとちょっと待ってください!」


 声をかけると、すぐに生徒会室の中がバタバタと騒がしくなった。


「あ、ちょっ! きゃああああ!」


 中の人の叫び声とともに椅子や机が倒れた時のような大きな音がした後、何かがぶつかったような鈍い音が聞こえた。


「え!? 大丈夫ですか!?」


 俺が声をかけても中から反応が返ってこない。

 仕方がないので扉を開けて中を確認する。

 目に入ってきた光景は、おそらく本棚に頭をぶつけたのであろう神代が意識なく倒れていた。

 その神代の周りには座っていた椅子と、某家具量販店のサメのぬいぐるみが転がっていた。


「なんだこれ」


 どういう状況でこうなったのか全く想像がつかなくて、茫然と立ち尽くしてしまった。


「おいおい……どうすんだよこの状況……」


「何がどうするんですか?」


「うわぁ!!」


 突然耳元で声がして驚いた俺はすぐに後ろを振り返った。

 そこには、美人で有名な生徒会長の桐生院玲香(きりゅういんれいか)がいた。


「あらあら! これは事件現場ですか!?」


「断じて違う!」


「そうなんですか? これから気絶しているわかちゃんを好き勝手して、最後に脅し用の写真を撮って弱みを握り、薄い本みたいにするんじゃないんですか?」


「いきなり出てきて誤解されるようなことを言うんじゃない! これはただの事故だし、俺は指一本触れてはいない!」


「なるほど! 指一本も触れずに妄想だけで補おうということですか……納得しました!」


「違う! いちいち変な方向に持っていくな!」


「あらあら、なぜそんなに怒っているのでしょうか? 思春期の男の子はそういったものを好むと聞いたのですが、何か間違えていましたか?」


「確かに好む奴は多いが! やってはいけないことの区別がつかないわけではない!!」


「そうなんですね。なんか残念です……」


「自分の後輩がひどい目に合わされそうじゃなくて残念って……どういう感性してるんだよ……」


「普通の思春期の感性です♪」


「どうかしてるわ……」


 生徒会長の話は、容姿端麗で文武両道の超人とは聞いていた。

 だが、こんな変人だとは全然知らなかった。

 天才と変人は紙一重とよく言われるが、その片鱗を目の当たりにした気分だった。


「ただの事後、あっ間違えてしまいました。ただの事故であるなら、わかちゃんを保健医の先生に診てもらったほうがよさそうですね」


「その言い間違い、絶対わざとだろ」


「そんなことはないですよ。私、百八を尺八と言い間違えてしまうくらいですから」


 あ、この人本物の変態さんだ。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はこの学校で生徒会長をしています。三年生の桐生院玲香です」


「俺は」


「知っていますよ」


「……え?」


「二年生の天ヶ瀬修司君ですね。成績は中の上でスポーツも人並み。友達は片手で数える程度しかおらず、基本ぼっちの男の子ですよね」


「なんでそんなこと知ってるんですか」


「そうですねー。全校生徒の顏と学年に名前、軽い特徴程度などは頭に入っていますので。結構物覚えはいいほうです」


「全校生徒って、物覚えが良いレベルを完全に超えていますね……」


「ふふふ、褒めてくださってありがとうございます」


 この人化け物か何かか? 全校生徒って一クラス四十人くらいだとしても、六百人近くの人の顏と名前を覚えてるなんて……頭の構造どうなってんだよ。


「わかちゃんたら自分の大事なくーちゃんまで投げちゃって、よっぽど焦ったのでしょうね」


「え……そのぬいぐるみ神代の私物なんですか?」


「そうですよー。いつもストレスが溜まったときに、そのぬいぐるみを抱きしめながらくぅ!って言っているので、私が勝手にくーちゃんって名前をつけました」


 普通に可愛い名前なのに、つけられた経緯を聞くと可愛さ半減するなぁ。


「とりあえず、わかちゃんをこのままにしておけないので、天ヶ瀬君はわかちゃんを保健室まで連れて行ってあげてください」


「まぁ少しは俺のせいなので連れていきますよ」


 俺は神代を形的にお姫様抱っこと言われるやり方で抱き上げる。

 だって背負ったら、女性特有のたわわな膨らみが背中越しに感じられてしまう。

 そうなると今後、神代の顏を見る度に意識せざるを得なくなりそうだったからこの運び方にした。


「お姫様抱っこですか……。つまり天ヶ瀬君は脚フェチということですね」


「勝手な言いがかりやめてもらっていいですか!?」


「わかちゃんって結構な大きさのものを持っているのに……それを堪能できない方法を取るなんて、脚フェチである以外考えられません!」


「救助のやり方一つで、人の性癖勝手に決めるのやめてくれませんか!?」


「え……違うのですか。は! もしかして天ヶ瀬君……イン……」


「はい! この話は終わりです! 神代を保健室に連れていきますね!」


「ふふ、わかりました。でしたらこの話はまた今度お聞きしますね。部屋の片づけは私がしておきますので」


 こんな会話二度とするか……。

 俺はその場から逃げ出すように神代を保健室に連れていくのだった。

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