第六十八話 美少女後輩への違和感
戸惑いながらも俺達は速水の提案を受けた。
女子三人は次に乗るアトラクションについて話し合っていて、男三人はその様子を後ろで眺めていた。
俺は片桐に先程の速水の提案について小声で聞く。
「片桐、速水はどういうつもりなのかわかるか?」
「いや、僕にもわからない。図書館の時みたいに、単純にみんなで遊びたかったのかもしれないけど……」
片桐も速水の考えがよくわからないようで、速水を見ながらそう言った。
すると、女子三人は最初に乗るアトラクションを決めたようで、俺達のほうを振り向いた。
「最初は絶叫系から行きましょう!」
その速水の一言で、俺達は目的のアトラクションへ向かう。
最初に乗るアトラクションは、船が振り子のように揺られ、途中で逆さまになったりするものだった。
まだ人は多くないようで、並ぶとすぐに順番がきた。
席順は俺が一番奥に座って、そこから順に和奏、片桐、速水と座り、幸太と一之瀬は俺と和奏の後ろに座った。
「楽しみですね神代先輩!」
「そうですね」
速水は片桐を間に挟んで、和奏とそんな会話をしていた。
そうやって話すのなら和奏の隣に座ればいいのにと少し思って見ていると、片桐の様子がどこか固いように思えた。
「片桐どうした?」
「……いや……絶叫系って苦手というわけじゃないけど、結構ドキドキし過ぎて疲れるんだ」
片桐は少し苦笑いを浮かべながら、そう言ってきた。
確かに驚くことが多いから、心臓が疲れる気持ちもわかる。
「片桐君もそうなんですね……実は私もなんです」
「お前もか……おい速水、この面子でなんで最初絶叫系にしたんだよ」
「え? 最初にびっくりすれば、あとは大したことなくなるかなって思ったんで」
速水の言葉は思ったよりも根性論で、俺は驚いてしまった。
確かに速水の考えもわからないでもないが、それでもしトラウマにでもなったら元も子もないと思った。
「それでは出航しまーす!」
全ての安全装置の確認が終わると、スタッフの掛け声でアトラクションが動き始める。
「始まりますね!」
「速水……間にいる二人の様子見て、よくそんなこと言えるな……」
「こういうのは何でも楽しまないと損ですから!」
「だからって……うおっ!」
俺は速水と話してる途中に船が振り子のように動き始めた。
それから段々とスピードが上がっていく。
「「「わああああああ!」」」
幸太と一之瀬、速水は楽しそうにはしゃいでいた。
チラッと横の二人を見ると、片桐と和奏が泣きそうな顔になりながら、必死に手すりに捕まっている。
これ本当に大丈夫なのかと思っていると、船が一回転してから、そのまま半回転して逆さまになる。
「「ひぃ~!!」」
「「「あははは!」」」
さすがにこれは俺も少し怖かったが、それよりも隣の二人の悲鳴が大きく、それに驚いて平静を保てた。
他の三人は楽しそうに笑っている。
これが終わったら、隣の二人を無理やり絶叫系に乗せるのだけはやめとこう……。
周りが二極化している状況なので、アトラクションを乗りながら俺はそんなことを思った。
アトラクションを乗り終えると、片桐と和奏だけが疲弊していた。
その他の俺以外の奴らは、とても楽しかったようで表情がキラキラしている。
「じゃあ、次も絶叫系行きましょう!」
「「おーう!」」
「「……ぉ~」」
速水の声に特定の二人だけが、しんどそうに返事をしていた。
「お前ら、大丈夫か?」
「……なんとか。あと二つくらいなら……」
「……私もです」
「あんまり無理するなよ……きつかったら俺に言ってくれ、速水にアトラクションを変えてもらうように頼むから」
俺がそう言うと、二人は少し頷いて俺に感謝してくる。
本当に大丈夫なのか不安になっていたが、先行していた速水達が待っているので仕方なく、二人を連れて速水達と合流する。
「次はこれです!」
俺達が合流すると、すでに次のアトラクション前だったようだ。
見上げるとそこには、大回転しながら進んでいくジェットコースターだった。
これは和奏も片桐もきついのではないかと思ったが、二人はなんとかこのアトラクションを乗り切った。
だが流石に限界がきたのか、片桐が次のアトラクションは無理だと言ってきたので、速水に次のアトラクションを変えるように伝える。
「速水……流石に片桐が限界だ。別のアトラクションに変えよう」
「むっ……そうですかー……」
「あれだったら、僕を置いて乗って来てくれ。ここで飲み物でも買って待ってるから」
「申し訳ないのですが……私も絶叫系は辛いので休ませていただいてもいいですか?」
速水はどうするか少し悩んでいると、幸太と一之瀬が話しかけてくる。
「これに乗らないで別のアトラクションに変えてもいいぜ?」
「そうですね。みんなで楽しめないのは何か違う気がします」
幸太と一之瀬の意見に俺も賛成しようとしたところで、速水が割り込んでくる。
「いえ……お二人もこう言ってくれていますので、せっかくだし私達だけで行きましょう!」
幸太と一之瀬は速水の提案に少し困惑しながらも、楽しみにしていたものもあって速水に着いて行く。
俺は速水の様子が少し変な気がして後ろ姿を見ていると、片桐が話しかけてきた。
「天ヶ瀬も僕達を気にせず、楽しんできてくれ」
「……大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。それに神代さんと少し話をして、はっきりさせたいこともある」
「……なるほどな」
どうやら片桐は和奏に話があるみたいで、このまま二人きりにさせてほしいらしい。
片桐の表情には何処か決心したようなものもあったため、俺は速水達と合流する。
合流した後、少しだけ振り返って和奏と片桐のほうを見ると、近くにあった自販機で飲み物を買っているところだった。
登校初日のようなこともあったため、少し和奏に対する心配はあったが、険悪な感じではなさそうだ。
それから俺は、幸太達に呼ばれて一緒に待機列に並んだ。




